西暦2024年弥生蝶人酔生夢死夢百夜
那智の滝の滝壺に棒立ちになって「グ、ググッ、ギャガアアアオ!」と叫んでいる裸男がいるので、「お前さんは誰だ?」と尋ねると、「ワシはヨシマツゴウゾウだあ」と答えた。3/1
クラス担当のトミタが、高2のオレが到底実現不可能な使命を次々に下すので、頭にきたオレは、ベランダから校庭を見下ろしている彼奴の両足を担ぎ上げて、コンクリの地面に突き落としてやった。3/2
人気巻き返しの一世一代、乾坤一擲の最新作「ヨオキヒ」の製作に際しては、当代一流のプロデューサー、役者、演出、スタッフを取り揃え、それこそ万全を期したのだが、「これがもしこけたら」と思うと、身の毛がよだつ。3/3
「じゃあ今度は、ランスの大聖堂で会おう」というて、竹馬の友と別れたのだが、ついにそれきりになってしまった。あの時握手して、手を、ギュッと握っておかなかったことが、じつに悔やまれる。3/4
本番に備えて、脚本に添付した香盤表を作り、物語の流れと、各シーケンス毎の登場人物、科白、ト書き、5W1Hまで書き加えたのだが、その甲斐もなく、初演は大コケにコケた。3/5
吾等3人組は、海と山に囲まれた半島の先端の村に住んでいた。やがて戦争になり、2人の友人は戦場へ行ったが、私は徴兵を忌避して、裏山に身を隠し、草木を食べ、露を飲んで生き長らえて、終戦を迎えたのだが、友はついに還ってこなかった。3/6
誰よりも優れたと思う歌を詠んでも、だれ一人認めてくれないので、俊成のおいらは、「やはりもうちょい身分が高くないから、こうなっちまうのか」と、僻んだのよ。3/7
この避難所では、一食380円の定食が出されるので、とてもうれぴい。毎日ここでこれを食べて、そこにある黒い椅子に座っていると、心も落ち着くのだ。3/8
予の大詩集を読んだ会社の先輩たちが、予の後輩のサカイ君の詩集を出そうと画策していると、そのまた後輩のアオキさんが教えてくれたので、予は激しく嫉妬してしまったのだが、考えてみると、サカイ君はとっくの昔に泉下の人になっているので、どこか変だ。3/9
飛行場の荷物場を、ぐるぐる回転寿司のように、いつまでも回っていた、赤白青の3つの荷物が、とうとう競売に付されたようだ。3/10
宇宙工学の専門家が不足している、というので、引退したはずの私とカド君が呼び戻され、毎日横須賀線で通っているのだが、毎晩終電ギリギリなので、東京駅まで全力疾走を強いられるのだが、ふと脇を見ると、カド君は屋台の中華ソバを食っているのだが、さてどうしたものか。3/11
地図には「取り付く島」と書いてあったので、「万難を排して取り付こう!」と、懸命に試みたのだが、結局取り付く島などなかった。3/12
懐かしい蒸気機関車が停まっていたので、即乗り込んだが、新橋品川間で脱線、転覆し、火の玉になって炎上し始めたので、気分転換に、ブルックナーの4番をかけたのよ。3/13
どたまがいかれているそいつのセガーチーニ論というタイトルの卒論は、一読するだけでも大変だったのだが、なんべん読んでも意味不明なので、こいつを卒業させるかどうかで、教授会はおおもめにもめている。3/14
突然、微細物測定器が作動して、「極小物を破壊せよ!」という指令が下されたので、ニシダは、タイワンリスの卵を、こっぱみじんにした。3/15
一袋100gの表示で販売されていたカッパエビセンを、微細物測定器で軽量してみると、98gから102gまでバラツキがあったので、「もっと正確に配給し、足らないよりは増量するように」という上層部からの指示があった。3/16
東海道線に乗った時、東京駅から新橋、品川を過ぎて、大船から藤沢を経て小田原の辺で、黄色いバナナがふさふさ生っているのを見つけた。黄色いバナナは、ひとふさ、ふたふさ、みーふさ、ヨーふさ、全部でなな房ありまして、それらがだんだん色づいてくる。3/17
バナナは、白っぽい黄色から、次第に熟して濃い黄色になって来る。そして、黄色みが増すに連れて、だんだんウマソーになってくる。3/18
忘れもしない10月16日のボクの80歳の誕生日、今日こそバナナを収穫しよう、と東京駅から新橋、品川過ぎて、大船から藤沢、小田原を経て、熱海駅で降りて、白い砂浜をサクサク踏んで歩き、ドンドコドンドコ黄色いバナナを探して歩いたが、黄色いバナナは影も形もなかったのよ。3/19
「あなたの部屋の、あのごちゃごちゃのビデオとか、CDとか、オーデオセット一式を、全部捨てて、すっきりさせませう」と彼女がいうので、一時はその気になったのだが、結局は、元の木阿弥になっちまったよ。3/20
池田ノブオがジャンプ一番、教育勅語を破り捨てた。3/21
またしても、革命的ポップスを唄って、一躍超人気者になった若者。これまでは超ウザイ奴らとしか思っていなかったのに、まぢかにみると、やはり人物も実力も相当なものがあったので、おらっちは衝撃を受け、始発電車の中で突然糞したくなったのだが、必死で我慢しているとこ。3/22
われは、いつものようにある意図を以て、ベルクの全作品を聞き始めたのだが、そのうちに、最初の意図などどこかに忘却してしまい、ばらばらに分断された脳細胞毎に、ベルクの音楽を、ひたすら聴き始めたのだった。ひたすら分散的に。3/23
ともかくこの音楽祭の雰囲気は、独特だったので、プログラムの中身とは関係なく、毎年夏になると、人々は避暑を兼ねて、三々五々やって来るのだ。会場の真ん中には、いつものように、横長の巨大な伝言板が据え付けられていて、そこには「俺は食堂にいる」と大書し、隣に愛称やケータイ番号を書き添えたりしてあった。3/24
ふと見ると、左にA嬢、右にB嬢が立っていた。2人共とも若くて美しいので、私は思わず2人を抱きしめて、接吻したりすると、とても懐かしい良い匂いがしたのでありましたっ。3/25
世界一決定戦の後楽園ホールを飛び出して、帰宅しようとしたが、その途中文京区の古い家並をみて、「ここらへんで残りの人世を過ごそう」という意思を固めたが、半ズボンのチャックが開いて、我の陰毛が丸見えになっているのに今頃気付いて、素知らぬ顔で閉じたところです。3/26
そこに東京駅行きのバスがやって来たので、飛び乗ったら、のぶいっちゃんとひとはるちゃんが座っていたので、「ひさしぶり、今日は後楽園で世界戦を見物していたんだよ」というたが、なぜかおらっちの話が、てんで分かっていないようだった。3/27
そうこうしていると、広島で抗争している生きのいいヤクザが、いきなりおらっちの腹の上を、2カ所もドスで刺しやがったんだが、幸いかすり傷で、なんとかかんとか事なきを得たんだ。3/28
でも、駅での集会が終わってからが大変。西口の改札前で迷彩服を着た屈強な兵士にいきなり抱きすくめられたので、必死に藻掻いていると、彼奴がなにかもっと大切な用事を思い出したように手を緩めたので、なんとか振りほどいて東口方面に逃げることが出来たんだ。3/29
喫茶店の2階から交差点を見下ろしていたら、煙草を吸いながら自転車に乗っていたケンちゃんが、ヤクザにぶん殴られている。すぐにも助けに行きたいと思ったが、お客さんと話しているので、そうもいかない。3/30
浅いが綺麗な海の中で、小さな魚や海藻がゆらゆら揺れるのを見ていると、時が経つのも忘れてしまう。ふと気が付くと、私は水の中でも呼吸が出来るようになっていた。3/31
その昔葉山から来た台湾リスはたちまち鎌倉を征服したり 蝶人