照る日曇る日 第2061回
佐々木喜善が陳述し、柳田國男が「1字1句をも加減せず感じたるままを書きたる」『遠野物語』に関する唯一無二のエンサイクロペディアが本書である。
物語の急所にあたる「山人、オシラサマ、座敷童、おいぬ(オオカミ)、河童、山の神」などについて、監修者の後藤総一郎のみならず、数多くの現地の研究者が、原作の舞台である遠野村の現場や歴史、物語の関係者の追跡調査や取材にあたり、それらの貴重な成果が、原作の詳細な注釈や解説に結実している。
それは冒頭の「遠野郷のトーとはもとアイヌ語の湖といふ語より出でたるなるべし」という柳田の短い注記を受けて『遠野方言誌』の「遠野はTo(湖)Nup(丘原)の義、蓋し遠野盆地の自然の地勢上往古東夷の占居時代に一大湖水を形づくりしは事実なるべし」と受ける注釈の、阿吽の呼吸をみれば推して知るべきだろう。
私は、ここしばらく柳田國男原作・京極夏彦文による「えほん遠野物語」シリーズを読んできたが、それらの感想文を綴るうえでずいぶん本書のお世話になったことを感謝と共に付記しておきたい。
山人も日本狼も生きている信じ続けた柳田國男 蝶人