蟹・道楽日記

まこヲタ蟹の右往左往を綴る日記

小川麻琴卒業

2006-08-16 00:49:01 | 小川麻琴
先日のナイロンの記事について、思った以上に評判があってビックリです。
さくらさんのところからリンクされていたんですね。
初めてこられた方、こんな空家みたいなブログに来て頂いて恐縮です。
春先まではツアーレポを書いていたんですが、卒業が決まってからは
見事にほったらかしです。麻琴に申し訳ない。

さて、いよいよ千秋楽の卒業企画のサイトがオープンしました。

色々紆余曲折が合ったようですが、私などは近くでおろおろするばかりで
何の役にも立たず、申し訳ないです。
もうひとふんばりですね。

いい卒業式になって欲しいです。もちろんミュージカルのラストとしても
素敵な千秋楽になって欲しい。ちょっと欲張り☆カナ?



その男、ナイロン

2006-08-10 00:47:27 | 小川麻琴
ミュージカルリボンの騎士は、原作に近いオリジナルストーリーであり、登場人物も
新たに設定されたものが多い。ほぼ原作通りのキャラクターはサファイア、フランツ、
王様、王妃だけ。ヘケートは原作と大幅にキャラが変わっていて、オリジナルキャラ
だと言ってもいい。個人的には美貴様が演じることを前提に書かれたキャラだと思う。

では、ナイロンは原作に忠実なキャラクターだろうか?

原作のナイロンは、悪玉である。実は大臣よりもナイロンの方が悪人だ。
サファイアとサファイアを応援する読者にとっては本当にイヤなオッサンであり、
最後まで死なないところもふてぶてしい。物語にとっては重要なキャラクターであり、
長いストーリーで最初から最後までサファイアに絡み続ける。
それだけに、ミュージカルにおいてもかなり大事な役となることが想像でき、
小川麻琴の娘。最後の仕事として、ファンとして大いに期待していたのであった。

そして初日。8月1日。
コマ劇場に姿を現した悪者ナイロンは

こんな奴であった。





私鉄系シティホテルのドアボーイのような服装。
アフォっぽい顔。言動。
全然怖くない。ていうか可愛すぎる。

そして、ストーリーにおいてはあまり重要とはいえない役柄。
リボンの騎士を見た人のレポはだいたいどれも一緒だ。主役の高橋、ヘケート藤本、
大臣吉澤、フランツ石川。この4人への絶賛のあと、田中の出番が少ないとか
ガキさんはがんばってたとかえりりんとかさゆとか小春は予想以上に出来る子とか、
いやいや実は三好が岡田が・・・・・

∬;´▽`)ノ<あのー、ナイロンもいるんですケド

ナイロンについて触れている人は少ない。
ナイロンについて感想を述べているのはまこヲタのブログばかり。
つまり、まこヲタ以外にはあんまし印象に残らないのである。
ああ、もしかしてナイロンってハズレ役?

そこで、公演を6回見た現時点での、自分なりのナイロン像をまとめてみたいと思う。
いったい、ナイロンとはどういう役なのか?

ナイロンは男役である。宝塚においては男役の方が花形であろう。
今回、娘。メンバーは全員男役をやるわけだが、淑女と兼任しているメンバーと違い、
麻琴はナイロンという一人の男役に専念するのだから、花形の方といえる。

ところがこのナイロン、全然男役らしくない。亀井新垣の騎士の2人の方がよっぽど
男らしいのである。声の出し方、歩き方、立ち振る舞いの全てにおいて、ナイロンは
彼が男性であることを感じさせないのだ。

たとえば田中と道重演じるスカウトも、一応男性という設定になっているはずだが、
あまり男役として演じられていない。ただ、この2役は性別は大きな問題にはならず、
むしろ♪さっがそーさっがっそーというテーマ曲に表されるとおり、確信犯的に
「アイドル」として設定されている。男の子役やってるけど、この2人は女の子です。
って観客に分かりやすくしているのだ。

だがナイロンは、紛れもなく男役だ。アイドルらしさなどあってはならない。
なぜ演出家の木村先生は、麻琴にもっと男っぽい演技を要求しなかったのだろうか?


本公演の小川麻琴のナイロンを見た人なら同じように思う人も多いかもしれない。
ミュージカルリボンの騎士に登場するナイロンは、子供なのである。

そのことを表現する最初の芝居は、王専用の庭で大臣にオウムを見せられるシーン。
しゃがみこんで鳥籠のオウムを覗き込んだナイロンは「わぁ」と歓声をあげる。
この部分は台本に記載されていない。木村先生が付け加えた芝居なのだ。
初めて見る鳥に対する好奇心と驚き。これがナイロンが少年であることを説明する
芝居である。
また、要所要所でナイロンは小春演じる大臣の息子と絡む。
手を繋いだり踊ったりする。剣の試合の場面では、この2人で試合の真似っこを
したりする。この辺も子供っぽさの表現だと思う。

そういえば原作は「ナイロン卿」だったのに、本作品では「ナイロン」である。
おそらく木村先生のなかで、大臣の息子が12~13歳だとしたら、ナイロンは
14歳くらいとしているのではないだろうか?

ナイロンと大臣の息子は、小さい頃から一緒にすごしてきたのであろう。
もちろん息子から見たらナイロンは家来なのだが、家来というより兄弟のように
遊んできた関係なのだ。もちろんナイロンはすでに家臣として大臣に仕える年齢
になっており、息子に対しても公式には敬語で話しかけている。
しかし2人になると仲良しコンビに戻ってしまうのだ。

果たして少年のナイロンが家臣として大人のように働くことが出来るのか?

そんな心配は現代人の見方だ。昔のヨーロッパでは子供と大人の区別はなく、
少年であっても大人として扱われた。少年が軍隊に参加することも普通だった。
「子供を働かせてはならない」「児童は保護せねばならない」という思想は、
産業革命からしばらく後になって出てきたものだ。
だからナイロン少年が大臣の側近としての仕事を任されていても不思議ではない。
だいたい、サファイアだって設定年齢は15前後なのだ。
(大臣の家臣がナイロン少年しかいないのは不自然だが、まあ漫画なので・・・)

大臣と話すときのナイロン少年はキリっと引き締まった顔をする。
一人前の家臣としての振る舞いをしようとしているのだ。
でもオウムを見たときや大臣の息子と遊ぶときは、子供の顔が出てくる。
木村先生はナイロンに、そういう少年のキャラクターを設定したのだ。

木村先生はこの舞台において憎たらしい悪役を設定したくなかったのだろう。
「罪を犯した人には、その罪を許しましょう」
というお妃様の歌の世界を表現したかったのだと思う。

大臣の陰謀にしても息子への愛ゆえに道を踏み外すという理由付けがされ、
魔女ヘケートについても歌い上げられるその哀しみは観客の涙を誘う。
そして「いい人過ぎる」ナイロン少年も、主人である大臣に言われるままに
陰謀に手を貸してしまうのである。

ソング・セレクションCDの特典として配布された台本にあったナイロンの芝居が
本番で1つ消えている。剣の試合でサファイアとフランツに剣を渡すナイロンが、
フランツに毒を塗った剣を渡そうとして床に落とすという場面だ。

この芝居は、ナイロンが緊張と恐ろしさで剣を落としてしまう芝居であり、
殺人に手を貸す少年ナイロンの心情を表現するためにやりたかった部分だろう。
しかし木村先生はこの部分をカットした。
理由は想像するしかないが、おそらくインパクトが強すぎるからではないか?

あの場面で、陰謀を知っているのは大臣とナイロンと観客だけである。
観客は固唾を呑んで見守っている。そのなかでナイロンが剣を落とすというのは、
かなり強い印象を観客に与えてしまう。
「ナイロン、ビビってるじゃん」と思われてしまうのだ。
みんながナイロンを見てしまう。これは困るのだ。リボンの騎士はサファイアの
物語でなくてはならないが、あまりナイロンが印象的な芝居をすると主題がブレ
てしまう。木村演出については全く知らないのだが、いいシーンであっても冗長な
部分は省略して本編、本題に集中させようという意図があるのなら、あの場面の
ナイロンの剣落としはカットしたとしても頷けるものがある。

ナイロンの心情表現としては、選手たちの試合を(子供の表情で)大喜びで
楽しそうに観戦していたナイロンが、剣を持ってくる時にはこの世の終わり
のような顔をしている。その表情の変化で十分なのだということだろう。

本公演では、「風のトルテュ」が"精鋭部隊"を、「炎のヌーヴォー」が"命知らず"
を連れてくる。この2人の騎士の性格の違いは歌詞の中で風と炎としてさりげなく
表現されている。説明的な芝居はしてくれないが、よく見てるとキャラクター
の設定がちゃんと生きている。これが木村先生の演出なのかな、と思う。

ナイロンと大臣の関係も興味深い。
原作のナイロン卿は影で大臣の悪口を言ったりするが、本公演のナイロン少年
はそのようなことはしない。また、国の危機に際して息子の結婚を優先させる
大臣に一旦は失望するが、勝手に逃げたりせず、最後の場面では改心した大臣
に付き添って一緒に旅に出たいと申し出る。この最後の部分は原作のナイロン卿
ではありえない行動である。

大臣とナイロンの絡みは多いが、ずっと見ているとただならぬものに見えてくる。
セリフの一つ一つを見ていると、明らかにナイロンは大臣を慕っているし、
大臣はナイロンを気にかけ、可愛がっている。

「実は2人は血の繋がりがあって・・・・」といったサイドストーリーまでは
さすがに用意してないだろうが、2人のシーンにある種の情を感じるのである。


そうしてみると、なんて小川麻琴にぴったりのキャラクターなのかと驚く。

麻琴は大人と子供の2面性があり、凛々しい表情も無邪気な表情も持ってる。
そして大臣役の吉澤との関係。
甘える麻琴を遠ざけながらも眠れないときは小川に電話をしてしまう吉澤。
代々木で「麻琴は・・・卒業しちゃうの?」と問いただすリーダー。
現実の吉澤リーダーと小川麻琴との関係をそのまま投影したかのような
大臣とナイロン。

木村先生は小川麻琴をモデルにこのナイロンという人物を書いた。
そんな気になってしまう。
ミュージカルリボンの騎士は、間違いなく高橋演じるサファイアの物語だ。
ヘケートと大臣、王様と王妃、そしてフランツが織り成すサファイアの物語。

その裏で、目立たぬようにナイロン少年の物語も用意されているのである。
それは、小川麻琴の物語でもある。

そんなナイロンに、麻琴に会いに、
さあ、コマ劇場へ行こう。