散文的で抒情的な、わたくしの意見

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東條英機暗殺の夏・東條英機を考える。

2019年04月19日 | 戦争責任
吉松安弘「東條英機暗殺の夏」は実にいい「小説」なんですが、読み返そうとしたら本棚にありません。で図書館で借りようと思ったら、わが自治体では「わずか1館が所蔵」です。17の図書館で1館しか所蔵していない。驚きです。いい小説なのになー。

東條を過剰に批判してはいません。ほのぼの談なんかも書いています。ただ暗殺計画の部分はシビアです。故三笠宮(昭和天皇の末弟)の暗殺計画への関与などにも触れています。(これはねつ造ではなく、史実です)。関与などというものではない。途中で躊躇し、自ら憲兵隊に通報しているのです。小説ではお母さんに怒られたという感じのことも書かれています。

戦後、ジェントルマンを絵に描いたような三笠宮まで、「もはや暗殺しかない」というところまで追い詰められていたのです。それほどに東條の権力は強大でした。

彼が毎日のように参内し、昭和天皇の了解を得ていたからです。

また、行政権の責任者である首相、陸軍軍政の長である陸軍大臣、軍令の長である参謀総長の三職を兼任していました。(嶋田繁太郎が海軍大臣と軍令部総長の兼任)。

日中、太平洋戦争中、日本には3つもしくは4つの「権力」が存在しました。

1、政府・総理
2、参謀総長
3、軍令部総長
4、陸軍、海軍に対して、政府から独立した統帥権を持つ昭和天皇

5、宮廷勢力(これには法的根拠はなし)

陸軍の作戦には政府は口出しできない。海軍の作戦には政府は口出しできない。上記の1、2、3と(2と3の上に立つ昭和天皇)の「強大な権力」は法的には完全に独立しているのです。総理、参謀総長の兼任があっても法的には独立です。嶋田は東條の子分ともされますが、東條すら海軍の作戦行動には法的に口出しできないのです。

東京裁判の被告は言っています。政府、陸軍、海軍、あんなバラバラであったのに「共同謀議をした」とはよく言ったもんだ。連合軍が言うように「共同謀議していたら、もっといい戦いができた。」
実際は独立した権力で、バラバラ。共同謀議なんて高等な行動がとれるわけもなかった、というわけです。

わたしは東條をかばっているのか。批判しようとしているのか。実は批判しようとしています。

戦争を起こした、、、これ自体は罪ではないという解釈もできる、、、これが罪ならルーズベルトも罪人です。チャーチルも。

では何故東條を批判するのか。それは作戦指導があまりに「稚拙」だから。「兵站を考えない軍事行動なんてありえない」からです。戦死者の6割、戦死約230万の6割が餓死者です。

作家の半藤一利氏が言うように「軍の指導者たちは無責任と愚劣さで、兵士たちを死に追いやった」わけです。食事がない、、のです。

戦争を追っていけば「戦争指導者、その頂点だった東條の無能さ」が「餓死者を生み出した」ことは歴然です。

つまり「戦争自体は罪ではない」とか「下らないごたく」をいかに言おうが、「実際に餓死してるのだから、作戦指導が無能」ということです。

自国兵の集団虐殺と私は呼んでいます。その無責任と残酷な作戦指導の頂点に立っていたのが、東條、嶋田ということになります。戦争の罪とかアジアへの罪とか言うまでもなく、「無能な作戦指導によって自国兵を虐殺=食事を与えない」をしているわけです。

この1点だけでも、東條は断罪されてしかるべき人物です。そして「無能な餓死大量製造機械のような東條」を批判することは、自虐でもなんでもありません。


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