かちこのアメリカ奮闘記その後

アメリカの大学院での登録栄養士(RD)を取得、帰国して日本の病院でNST奮闘中

アメリカで病院に収入をもたらすRDたち~栄養失調の診断~

2014年01月13日 | RD(アメリカの管理栄養士)

先日NYに遊びに行ったときにNYPという病院では

RDが栄養失調の診断をすることで病院に収入をもたらしていると書きましたが、

詳細な論文を手に入れました

http://ncp.sagepub.com/content/early/2013/10/30/0884533613508788

内容読みましたが、やっぱり画期的です。

これによるとアメリカの医療保険制度では入院患者の医療費は主病名病院の位置づけ大まかに決められます。

さらに主病名以外の合併症や共存する病態(MCC,CC)が治療に影響を及ぼしたり、

入院期間が長くなったり、ケアの必要性が上がるなどする場合は

先に述べた主病名病院の位置づけによって決定される医療費が割り増しになります。

合併症と共存する病態は、MCC(major complication or comorbidity)

と CC(complication or comorbidity)のどちらかですが、

MCCはCCより重いと考えるのがいいかと思います

どれほどの医療費の違いになるかというと

たとえば脳血管疾患が主病名の場合

①脳血管疾患のみで合併症や共存する病態がない場合 基本の医療費×RW(0.7506)

②脳血管疾患に合併症や共存する病態(CC)がある場合 基本の医療費×RW(1.0174)

③脳血管疾患に重い合併症や共存する病態(MCC)がある場合 基本の医療費×RW(1.7056)

もし基本の医療費が10万円とすると、①の場合 75,060円

②の場合 101,740円

③の場合170,560円

というわけでMCCがない場合と比べてMCCがあると保険会社から病院に医療費が倍ほど出るというわけです

 

栄養失調もMCCやCCに該当することになっており、

ASPEN(アメリカ静脈経腸栄養学会)がNYPと共同でエビデンスある栄養失調の診断について論文を発表しています

それらの指標にのっとって、しっかり根拠のある栄養失調と診断がつけばMCCやCCとしてカウントできるわけです。

 

とはいっても、主病名の他に採用できるMCCやCCはひとつだけ

どんなMCCやCCかによって支払われるお金は異なるため、

その人に最も多く支払われるMCCやCCを選択する必要があります。

そのため、多くの人は主病名と、付随する疾患でお金のとれるものをMCCやCCとしてあげ、

栄養失調がMCCやCCとして取り上げられる頻度は

それほど多くはありません。

しかし、入院患者の半数以上が栄養失調といわれる現代、

主病名でしか保険での医療費が下りてなかった人で

栄養失調があれば合併症として挙げ、

それに対する治療、医療費が支払われるのです!

画期的ですね!

もし他の合併症が多く保険が出るとして栄養失調にお金が支払われなかったとしても、

患者さんの疾患名として栄養失調があげられ、それに対する治療として

栄養介入が計画され、モニタリングされるということは

本当に大切なこと。

お金が取れなかったとしても意味のあることです。

医者は栄養に関することはRDにまかせっきりということですが、

治療プランの一部として栄養改善が入ってくるため、

主治医や医療チームと話したり、栄養に関するコンサルトが来ることも増えたのだとか。

 

病院としても栄養士が積極的に患者のアセスメントや治療を行うことでお金が入ってくるとなれば

採用する人数を増やしたりする可能性も出てきます

 

ああ、アメリカのRDは日本の管理栄養士よりも20年くらい進んでると思うけど、

日本にそんな時代がくるんだろうか・・・。

 

ブログ読んでくれている栄養士さんたち、がんばりましょう!

 


アメリカでのNSTの最新情報

2014年01月04日 | RD(アメリカの管理栄養士)

2014年、明けましておめでとうございます。

昨年はまたもやブログのアップをサボってしまい、猛烈反省です・・・

今年はがんばりますので応援よろしくお願いします

 

ところで、2013年12月から2014年1月にかけてNYに久々行ってきました。

アメリカでインターンシップをしたときのクラスメイトの一人とお茶をして、RDの話などを聞いたのですが、

ビックニュースです!!!

 

私の友人は New York Presbyterian Hospital (http://nyp.org/)という病院でRDとして勤務しているのですが、

ここ1~2年ほど、すばらしいことをしているというのです。

 

それは、、、

 

RD(栄養士)が malnutrition (栄養失調) の診断をしている

 

ということ。これがなぜすごいかというと

 

RDが病院に収入をもたらしている

 

ということなのです。

これまでは栄養介入が頻繁に行われているアメリカにおいても、その効果は

・「患者の入院日数を短くする」ことや

・「治療の効果を上げる」ことや

・「患者の予後をよくする」ことなどで評価され、

結果として間接的に病院に利益をもたらすとされてきました。

しかし栄養失調の診断をすることで

保険会社からの病院への収入が生まれるということなのです

つまりは、栄養失調が病名として独立し、それを治療することに保険点数が付加されるということなのです。

アメリカでも栄養失調をRDが診断して保険から収入を得ている病院はこの病院だけだということで、

画期的な取り組みに全米の病院経営者やRDたちからの注目が集まっています

そのため、この病院のRDたちは自分たちの取り組みが、病院にどのような利益をもたらしているか

ということについてアメリカ全土で講演をしているとのこと

もちろんRDの重要性を高めるということでアメリカ栄養士会もこの取組みを推進しているとのことで、

これから急速にRDの立場が向上していくことが予想されます

 

実際の法的な手続きとしてはこの病院ではRDが栄養失調に該当する患者を見つけたら

その根拠をカルテに示し、主治医にタグ付(電子カルテの場合)を行い、これを見た主治医がそれにサインするというもの。

医師は栄養に疎く、ほぼRDに栄養介入を任せているという点から、

RDの栄養失調の診断を認めないということはほぼ皆無とのこと。

 

すごいですね~。

その病院では今や、RDはガンガン働いてお金を稼ごう!となっているらしく、

予算削減で管理栄養士をどんどん減らされそうな日本の事情とは正反対。

収入がふえるのなら管理栄養士(RD)を増やそうという動きもあるとのこと。

 

久しぶりに管理栄養士/RDの明るい未来が見えた気がして

アドレナリン急上昇でした!

2014年の幕開け(正確には2013年の年末ですが)好調です!

 

日本もそんな日が早く来るよう、みんなでがんばっていきましょう!


卒業、日本へ帰国、そして・・・

2012年07月27日 | RD(アメリカの管理栄養士)

ご無沙汰しておりました。

3月の書き込みから7月の今日まで書き込みをおろそかにしておりました

5月に無事ニューヨーク大学の大学院を卒業し、6月に日本に帰国していました。

卒業の2週間ほど前には日本にいたときに同居していた祖母が家の中で頭を打って転び、

外傷性のクモ真っ赤出血で病院に運ばれてその後意識がない状態が続いていました

その後祖母に意識は戻ったのですが、何も反応がなく、誰を見ても誰か分からない状態です

私は期末試験の真っ最中&卒論発表を控えていたのですが

日本に急遽帰国するかの選択に迫られました。

結局家族と相談して、帰国せずにちゃんと卒業する道を選びました。

祖母はきっと私が無理して帰っても私のことがわからないだろうし、

話もできないから、卒業後帰国してからじっくり看病をしたほうが祖母も喜ぶのではないかという結論に

至ったからです。

命の危険もある中で、毎日病院に通い、詳細に祖母の様子をメールで知らせてくれた母には

心から感謝しています

 

卒論の私のテーマは「人口甘味料の使用実態と間食のパターンおよびBMI」でした。

アメリカは日本よりも人口甘味料を使用している人が多いのですが、

甘味料を使用している人は甘味料を驚くほど多く飲料などに入れている姿を目にしていたので

甘味料を多く使う人は味覚が狂って、より甘いものを間食で食べているのではないかと思ったことが

きっかけです。

その後色々な論文を読んでいるうちに以下のことが分かりました。

1.甘味料の使用とBMIは相関がある。(甘味料を使う人は使わない人に比べてBMIが高い)

2.甘味料を使っている人は使っていない人に比べて、より甘いものを好む

3.甘味料の入った食べ物や飲み物を飲むと、その後の食事や間食の摂取カロリーが増える

要は甘味料をたくさん使っていると味覚が甘いものを欲するようになり、

また通常甘いものはカロリーが高いと身体が認識しているのに、

甘味料はカロリーがほとんどないため、

長年甘味料を使うことで、甘いものを食べてもすぐにお腹がすくようになる。

結果として甘味料を使うことでかえってBMIが上がってしまう。

 

実際私の研究では100人以上のNY在住の人たちを対象に調査し、

BMIと甘味料の使用(期間、量ともに)には相関がある (統計学的に有意さあり)と確認しました。

また、推測とは反対に、甘味料の使用量が多ければ多いほど野菜や生の果物を多く間食として

食べることがわかりました

 

一見矛盾する、甘味料を使えば使うほど太る、ことと、甘味料を使う人ほど健康的な食生活をしている

という研究結果・・・。

 

私の研究は介入をしない研究なので

今の身長と体重、現在甘味料を使っているか、どれくらいの頻度と量で使用しているか、

どのような間食をどのような頻度で食べているか、といったことを自己申告として

記入してもらうわけです。

その為、まずデータが客観的ではなく、自己申告の値であるということ。

甘味料を使用している人はダイエットをしている可能性が高いということ。

(言い換えれば、ダイエットをする必要があるほどBMIが高いということ)

つまり、甘味料を使うからBMIが高いのではなく、BMIが高いから甘味料を使っているという可能性があるということ。

また、ダイエットをしている人は、自分が甘いものを控えて健康的な、身体にいい食べ物をしっかり食べているという

主張をする可能性があるということが、この研究のピットフォールであるということ

を考察で触れています。

 

卒論として認められる研究のやり方だとA→BやB→Aという関係を成り立たせることはできず、

AとBに相関があるということだけしか言えないわけです。

でも、この研究を通じて色々な論文を読み、甘味料というものが身体に及ぼす(かもしれない)影響を

たくさん知ることができましたし、

甘味料の研究がまだまだこれから進む余地がたくさん残されているということもわかりました。

研究の計画の立て方、サンプルの収集がどれだけ大変かも体験することができました。

これは本当に貴重な体験です

今後、長い目で見て自分で実験などを考えるときに役に立つのではないかと思います。

 

長くなりましたが、そんなこんなでこの卒論発表を行い、

5月にニューヨーク大学を卒業しました!

山あり谷ありの合計3年間の大学院生活。

毎日が何かの課題に追われているという忙しない学生生活でしたが、

家族、友人、皆様の温かい声援のもと、

無事やりとげることができて感謝でいっぱいです。

ありがとうございました

日本に6月に帰国しましたので今後は日本での奮闘記として

アップしていきたいと思いますので引き続きご声援よろしくお願いします!


ビタミンDの摂取基準

2012年02月25日 | RD(アメリカの管理栄養士)

今ビタミンとミネラルのクラスの試験勉強中です。

今回の試験範囲はビタミンA、D、リン、カルシウムの4種。

代謝から摂取基準、病気や病気の予防まで幅広く学びます。

そこでびっくりしたのが、ビタミンDの摂取基準の日本とアメリカの違い!

アメリカ(世界も含む)ではここ数年栄養の世界ではビタミンDの話題で持ちきりです。

というのも、これまでの必要量と考えられてきたビタミンDの量が低すぎたということが

わかったからです。

また、ビタミンDはカルシウムが骨に沈着するのを助ける働きが主なものと

考えられてきましたが、近年の研究で

自己免疫疾患(一型糖尿病やリウマチ)、癌などに深くかかわっているということが

わかってきたんです。

これまで欧米では日光に当たると皮膚癌になりやすいということで

日光を避ける傾向がありましたが、現在では一日15分程度日光に当たるのが推奨されています。

それというのも日光に当たることでビタミンDが皮膚で作られるからです。

また日光にあたったビタミンDは摂りすぎになるということがなく

過剰に作られたビタミンDは体内で壊されていきます。

そのため摂りすぎを心配する必要がないんです。

 

さて、ビタミンDの摂取基準、日本とアメリカではどう違うのでしょうか。

単位をIUで統一して比べてみます。

            アメリカ     日本

成人男女摂取基準    600IU   220IU

成人男女上限摂取量  4000IU   2000IU

そう、日本の方がずっと基準が低いんです!アメリカではこの基準も低すぎるということで

基準量を増やす検討がなされているところなんですが、日本の基準は低い。

日本以外の国ではビタミンDの研究がたくさんなされているんですが、

日本はどうなんでしょう。

私は最近の研究結果を読んでいる限りでは

日本でも基準値を早急に上げる必要があると感じています。

特に日本の女性はSPFの高い日焼け止めをばっちり塗っているので

日に当たることで皮膚で合成されるビタミンDは

ほとんどないと考えていいのではないかと思っています。

ビタミンの歴史を読むと世界各国でビタミンD欠乏によるくる病が問題になっていたころは

日本はビタミンD欠乏のない国として紹介されているぐらいなんですが、

現代の日本人の生活と食事を見ているとどう考えてもビタミンDが足りているとは思えない。

日本でもビタミンDに対する意識が上がってくれるといいんですが・・・。

ちなみに昔日本でビタミンDが少なかったのは、

緯度がそれほど高くなく、十分な日光が得られる、

比較的外を歩く生活(日光に当たる機会が多い)

食品からのビタミンDの摂取が多い(天日干しのしいたけや魚類)

などが原因だと思われます。

でも現代では食事が欧米化しているので干しシイタケの消費もあまり期待できないし

なんといっても干しシイタケは天日乾燥されて初めてビタミンDの含有量が上がるので

大量生産温度を上げての室内乾燥ではビタミンD豊富な干しシイタケは生まれないんです。

また、魚も昔ほど食べなくなってきたと思います。

アメリカでは今、多くの食品にビタミンDが添加されています(牛乳やシリアルなど)

そのうえ、多くの人がビタミンDサプリメントとして摂っています。

日本でも問題意識が上がってビタミンDの重要性がしっかり普及するといいなと

思っています


アメリカの肥満防止政策

2012年01月05日 | RD(アメリカの管理栄養士)

アメリカは世界で一番の肥満大国です

日本では肥満の子供の割合が1割程度なのに対して

アメリカでは過去40年間で子供(12-19才)の肥満者の割合が

3倍に膨れ上がっています。

2010年のデータによると72%の男性、

68%の女性が肥満(obese)またはオーバーウェイト(overweight)で

2-19歳の子供では32%が肥満またはオーバーウェイトとされています。

この肥満の増加に対して政府などはさまざまな政策をつくって改善を試みていますが、

なかなか効果が上がらないのが現状です。

もっとも、いろいろな政策があったからこそこのような数字ですんでいて、

それらがなかったらもっと悲惨な状況になっていた可能性は否めませんが・・・。

肥満は糖尿病、高血圧、心臓病、脳梗塞、一部の癌など、さまざまな病気の原因になるとして

アメリカでは肥満防止は医療費の削減につながるという考え方が主流です。

そのため、肥満防止対策が国の緊急課題となっているのです。

また、特に子供のころの肥満は将来の健康を害するだけでなく、

・自分に自信がもてない

・友達が少ない

・成績が悪い

などの影響が出ることもわかってきています。

アメリカは日本と違って、

国の政策以外に州の政策や法律が大きくそこに住む人に影響を及ぼします。

また、州の政策はかなり簡単に成立してしまいます。

そのため各州ごとに特徴のある政策がとられており、

それぞれに論文などでそれらの効果が発表されています。

いくつかの取り組みをあげると

国全体の取り組み

・Let's move!

(ミッシェル・オバマが始めたキャンペーンバランスのとれた食生活に加えて

 子供の運動を増やすことに焦点がおかれている)★1

州や市単位の取り組み

・最近始まったレストランでのカロリー表示義務

 (ニューヨークでは始まったばかりで効果はまだ評価されていない)★2

・一部の公立の学校で取り組まれている学校給食の低脂肪乳

 または無脂肪乳しか提供しない取り組み★3

・カリフォルニアでいち早く取り入れられた、

 学校の自動販売機ではペットボトルの水しか提供しない取り組み

 (ほとんどの学校はジュースやスポーツドリンク、

 お菓子などを購入できる自動販売機が設置されている)

・ニューヨーク市で取り入れられている、

 一定の栄養価をクリアしないと学校では販売できない政策

 (カロリーや脂肪の割合などで、学校では販売してはいけないという基準が

 設けられている)

・ソーダ税

(一部の州ではソーダに特に多くの税金が課せられている。

 日本でたばこに税がたくさんかけられているのと似たような感じで、

 体に悪いんだから税金を特別高くかけてあまり買わないようにさせる狙いがある。

 しかも税金収入が増えるので国や州としては一挙両得)

 

その他もろもろ、マクドナルドのおまけもそうですが、

小さいものから大きいものまでいろいろな政策が作られているんです。

以下は上記にあげた例の出典です。参考まで。

でも私としては日本のようにバランスのとれた給食と、

家庭科などでされる栄養教育が重要なんじゃないかと思うんですが・・・。

ただ、日本の子供たちもどんどん欧米化してきて肥満が増えているらしく、

世界的な問題ですね。

私も日本の子供たちの尿酸値がとっても高いとか、

肥満の割合が増えていると聞くと、

何かできることはないかと焦る気持ちでいっぱいです。

日本に帰国した暁には子供の栄養教育をしている人たちの取り組みに

協力したいなと思っています。

★1 http://www.letsmove.gov/learn-facts/epidemic-childhood-obesity

★2 Elbel B, Kersh R, Brescoll VL, Dixon LB. Calorie labeling and food choices: A first look at the effects on low-income people in New York City. Health Aff. 2009;28(6):w1110-1121

★3 http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5903a2.htm