今、食品業界、栄養士界でとっても話題な本を読んでいます
What to EAT という本です。(何を食べたらいいのか?)
著者はマリオンネッスルという人でDietary Guidelines of Americans などの作成にも携わる公衆栄養の分野の大御所。
私の通うNYUの教授です http://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-theme-youasked8.html
この本は今のアメリカの食品業界の動向や、流通している食品が政治や政策、
大企業の思惑にどう影響を受けているのかをとてもわかりやすく描いています
アメリカのオーガニック食品事情や、動物に与えられる抗生物質や成長ホルモンなどについてもとりあげていて、
とっても興味深いです
私は以前に食品会社でレトルト製品の開発の仕事をしていたので
食品業界側の立場をよくわかっていますが、
今は仕事をやめて、消費者を守る栄養士の立場。
本を読みながらいろいろな立場で食の問題を考えさせられます
さて、本当はこの本が日本語に訳されていればいいんですが、どうやら訳されていないようなので
たまーにちょっとおもしろいなと思った内容をのっけていこうと思います
今日はアメリカの牛肉事情について。
牛は穀物で育てられた牛(grain fed)と草で育てられた牛(grass fed)がいるのをご存知ですか?
日本で働いていた時はどちらも肉として試食し、grain fed は柔らかくておいしいなという印象をもっていたんですが・・・
アメリカに来たらちょっと高級な食品を扱うお店はよくgrass fedの牛肉というのを大きく表示しています。
アメリカ人はgrass fed の牛肉が好きなのかな~?と軽くおもっていたんですが、
どうやら牛は本来、草を食べて育つべき動物で、穀物を食べるようにはできていないらしいんです。
本来草を消化するようにできている消化器官なので
穀物のように脂質やタンパク質の多い食事を消化しようとすると体内のいろいろな菌(善玉菌や悪玉菌)のバランスが崩れて
牛は病気をしがちになるようです。
牛が病気をすると直すためには抗生物質が必要。
そんなわけで穀物を食べて育った牛のほうが抗生物質の投与が多いのです。
さらに穀物を食べて育った牛は、その飼料の構成のために脂が多い。
これが、私が昔に味を比べたときにgrain fed の牛を食べておいしいと思った理由か~!と今納得。
でもgrass fedのお肉は人間の健康を考えたときにはgrain fedのお肉よりも
・オメガ3系の脂肪酸が多い
・脂が少ない
・ビタミンE含有量が多い
さらに抗生物質の使用量が少ない可能性が高いので優れているということ。
なるほど~!!!
ちなみにアメリカではオーガニックの食品が非常に増えてきていますが、
肉などでオーガニックの証明シールが貼られている製品はまだまだ少ないです。
参考までにオーガニックと証明シールが貼られているお肉は以下の条件に合致している必要があります。
・抗生物質・成長ホルモン不使用
・オーガニックの飼料を与えられている(オーガニックの牧草は化学肥料、農薬不使用、GMO不使用)
・自由に屋外に出たりでき、日にあたることができ、運動のできる環境に育ち、行動の制限が非常に少ない
・ストレスを低減させる生活環境
・牧場は定期的に所定の機関(州または国)の審査が入る
この上記の条件を満たすのが至難の業。特にオーガニックの資料の確保が難しく、
実際にオーガニック認定を受けたお肉を市場で探すのはなかなか難しいです。
それでも最近は増えてきてるかな。
ちなみにオーガニックがあまりに大変なので実はその下の、なんとも曖昧なランクが存在します。
それが「Natural」(ナチュラル)
これまでうそっぽいっていうか、なんなんだって疑問に思っていたんですが
この本を読んで何なのかわかりました。
「Natural」と表示するには以下の条件を満たすことが必要です。
・お肉に人口香料、人口着色料や保存料が使われていないこと
・加工が必要最小限にしか行われていないこと(ミンチにする加工はOKだが、加熱はしてはいけないなど)
・会社ごとに何が「Natural」なのか表示に説明する。
(たとえば抗生物質不使用、成長ホルモン不使用など)
要は、ナチュラルって表示してもいいけど、何がナチュラルなのかちゃんと自分の会社で決めて、
消費者にわかるようにラベルに説明を載せてねってことらしい。
なんだか不思議な決まりですが、結構これがよくあるんです。
でもこのラベルはあくまで自分の会社の信用において表示しているもので
オーガニック表示のように、第三者のチェックを必要としません。
なのでどこまで本当なのか。
こんな変な「Natural」表示ができたのはアメリカ独特の政治的理由が存在します。
日本もかなりそうだと思いますが、アメリカの食品業界は政治とのつながりが強く、
大きな力を持つ食品産業は政策などにいろいろと口を出してきました。
食品のオーガニック表示が始まった時も、肉業界が、
「オーガニック」という表示を認めたら、オーガニック表示のないお肉が
健康ではない、劣る肉だという印象を消費者に与えてしまうという理由から
猛反発をしたんです。
その結果、アメリカのUSDA(US Department of Agriculture)が肉にオーガニック表示を認めないことにしたんです。
ところが、その後の流れで野菜や果物などでオーガニックの需要が増え、
USDAは肉にもオーガニック表示を認めざるを得なくなり、
現在は肉のオーガニック表示は認められています。
ではなぜ今でもオーガニックのお肉があまり普及していないかっていうと、
スーパーの担当者や肉販売店はこれまで「Natural」という表示で一般の肉との差別化をしてきたため
「今更オーガニック表示にしなくても十分Natural 表示で差別化できてるよ~
しかもオーガニック表示にするとさらに縛りが厳しくなって、実際これをクリアできるお肉なんてほとんどない」
っていうことらしいんです。
最初からオーガニック表示を認めておけば今頃野菜や果物のように
お肉もオーガニックが手に入る時代になっていたかもしれないのに
お金と政治のちからってすごいんですね・・・。
でもこれから数年でどれだけお肉のオーガニックが増えるか、ちょっと気になります。
なんといってもアメリカのオーガニックブームは本当に目を見張るものがあるんです。
日本も近い将来アメリカのような流れになるのかな・・・