思わずゾ―ッとした。きっと私の顔も青ざめていた事だろう。すかさず寝室に戻ろうとした私の足は、竦んで動けなくなっていた。
困ったと思ったが、身動きできないのだから致し方ない。そこで私は眼下の異様な物の中に、少しでも何かしら平常な部分を見つけようとした。もしそれが見つかれば、この世の中に妖怪やお化け等そういった類の物はやはりいないのだ、こう私は胸を張って言えるのだと思った。
私は暗がりをしげしげと覗き込んだ。階段の左右の端々に迄目を注いだ。すると、私の足元左側の少し下、階段端に有る手摺の部分にぽうっと浮いた様に白みの有る事に気付いた。何だろう?。私はそれに注意を向けて食い入るように見つめた。すると、それは益々白さを増して行き、私の視界がはっきりとその物質を捉えて見ると、それは1つの白い手となった。『手だ!。』私はハッとした。
白い手は人の手だ、ごつごつとしているようだ、手摺を掴んでいる様子だがやや長く見える。
『祖母の手かしら?。』
うそら寒く思いながら私は思ったが、直ぐに彼女の手にしては大きい様だと感じた。私は再び祖母の様子を観察すべく、彼女の頭のある方向に目を移した。
彼女はやはりまだ頭と髷の部分しかこちらに向けていなかった。そこで私は自分の目が届く範囲で彼女の体の全体像を探ってみた。すると、祖母の頭の大きさや、彼女の今いる位置、下を向いている彼女の体の向きから、私から見て階段左に有る、今手摺を掴んでいる手は全く彼女の手では無い事が判断出来た。あれが祖母の手なら、彼女は相当長い手をしている事になるし、肘の部分で通常の人とは反対の方向、腕を肘の外側にぐにっと折り曲げている事になる。第一彼女の手にしては厳つくて大きすぎる。再度確認と手摺の手を眺めると、その手は益々白さを増した。青白くさえ見えて来る。「鬼の手、…般若の手?。」先程の祖父の言葉が蘇って来る。私の内心の恐怖や気味悪さはいや増した。思わず竦んでいた私の足から力が抜けた。
カクン!。私は後ろによろめいた。私は倒れ込まない様に足を動かしたので、体が2、3歩後退した。『動ける!』、私はハッとして気付いた。体が動けるならしめた物だと思った。私は寝室方向へ向きを変えると一目散、後ろも見ないでぱたぱたと寝室に向けて駆け出した。急いで足を運んだのだ。