いつしか私は、彼女にはこの家で育つ私の味方であって欲しいと切実に願っていた。私の様々な考えの帰結する所、その思いはいつしかその一つの願いへと向かって行ったのだ。じっと私を見つめる祖母は、そんな私の考え、その私の面差しへと気付いた。「分かっているんだよ。」。私と目が合った彼女は、はにかむように微笑むと静かに言った。
祖母の顔は微笑んでいた。元気がなさそうに沈んだ彼女の全体的な雰囲気とは違う、この微笑みに私は少なからず違和感を覚えた。そこで私は彼女に尋ねた。
「元気が無さそうだったから、具合が悪いのかと思って…。」
おずおずと尋ねてみた私は、じっと彼女の顔を見上げてみる。実は私はこの時祖母の心情を推し量っていた。彼女は何人かの孫に対して、如何対処しようも無く身の置き所に困っているのだろうと。そこで私はこう、敢えて祖母の元気の無い様子に合わせて問いかけたのだ。お祖母ちゃんは誰の味方なのか、勿論この問いかけの言葉が喉元まで出掛けていた。それにも拘らずだ。
それは私自身が祖母の孫の内で一番年若い孫で有る事に所以していたのは確かだった。やはり自身が彼らの内で後進者である事に対する遠慮があった。それは私が両親と共にいくら寝食を祖父母と同じくしていてもだ。私の胸の内には暗澹と遠慮の気持ちが湧くのだった。
沈み込んで俯いた私に、祖母は返って気を回したのだろう、おばあちゃんは元気だよと、矍鑠とした彼女の声が返ってきた。私がはっと見上げると、祖母はエプロンの前で手を組んで胸を逸らし、晴れやかに顔を上げていた。私の目に彼女の顔は顔色も明るく見えた。私は彼女と目が合うと2人でにっこりと笑い合った。
私は祖母と気持ちが通じ合ったのだとほのぼのと嬉しくなった。思わず涙して視界がぼやけた。そんな私に祖母は、それでも私は皆のお祖母ちゃんだからねと、小さくそっと囁く様に口にした。
「それにしても驚いただろう。」
一旦途切れた私達の間での会話は、祖母が先に口火を切る形で始まった。2人の間の沈黙が座敷の私の父と従兄弟の話を際立たせたからだ。その話し声は祖母のみならず私の耳にも鮮明だった。彼女はこの声が私の耳に入るのを防いだのだ。
兄とは話だけだから、…私とは約束してください。…ね、叔父さんと、そんな従兄弟の声がしていた。父の声は低く私には彼が従兄弟に対して何を答えているのか分から無かった。
「ビックリしただろう!。」
祖母のこの大きな声に私は文字通り驚いた。えっ、何を?。私は合点がいかず、祖母の顔を見詰めた。思い余って私は彼女に、何をと問いかけてみるのだった。