Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(251)

2018-11-05 16:56:09 | 日記

   これには父も全く手を焼いて仕舞うのでした。仕様が無く父は蛍さんの傍を離れ、立って行って蛍さんの母に相談してみるのですが、母の方は父以上に蛍さんに無頓着でしたから、私ではらちが明かないでしょうと型通りの返事をするだけで、父の相談には一向に乗る気配が有りません。こうなると父の頼みの綱は両親である蛍さんの祖父母でした。

 ところが、祖父母とも孫の嫌がる事をすることは無いよと、嫌だというなら嫌でいいじゃないか、年端も行かない子の事だ、何だかんだ言ってもその内忘れるよと、案外悠長に構えて2人共に父の相談には乗ってくれないのでした。

「そうは言うけど、茜に頼まれてるんだ。」

と、蛍さんの父。「茜に?」茜さんの名前が出ると、祖母の方は父の話に乗って来るのでした。

   「どれ、可愛い茜の頼みなら…」と、祖母はこれこれと、経験から息子に、ご機嫌斜めの子に対処する物言いの言葉を教えるのでした。喜んだ父は、最初は嬉しげに母の言葉を聞いていましたが、段々うんざりとした顔で伏し目がちになってしまいました。…話はまだまだ続きます。

   「母さん、母さんから言ってくれないか。」

父は頃合いを見て自分の母に言いました。とても母さんの様にうまく言えないと、自分の母をおだてるのでした。

   さて、祖母はそうかねという様にこれを二つ返事で引き受けると、どれと蛍さんのところへやってきて彼女に声をかけました。蛍さんも祖母のいう事なら嬉しそうに顔を上げて聞く気になるのでした。

 


土筆(250)

2018-11-05 15:59:15 | 日記

 『雨降って地固まる』の言葉通り、その後は数日の内に家族が纏まって行きました。蛍さん一家は前以上の和やかな雰囲気の家族になったのでした。

 さて、数日の内に、茜さんから蛍さんの父は蜻蛉君の希望の件を聞きました。彼が蛍さんと引き続き遊びたがっている事、それで彼と遊ぶように何とか叔父さんの口から蛍さんの気持ちを和らげて欲しい、怒っている蛍さんを説得して欲しいと訴えられました。父はあれこれと盛んに蛍さんに言って聞かせるのでした。

 「ご近所さんなんだから、遊ばないという訳にはいかないぞ。」

それに同い年同士だ、あの子もそうだが、ずーっとこれからは、お前は同じ年の生まれの子供達と一緒に、遊んだり学んだり、皆で進んで行くんだからなと、同じ学年で学校も同じだという事を、それとなく分かり易く言って娘を諭し始めました。

 何で怒っているんだとか、何故嫌いなんだとか、そんな事も質問して娘の気持ちをほぐそうとしました。父にすると、蛍さんの不機嫌の原因はどうでもよいのです。子供に話をさせる事で気を紛らわせ、彼女のうっぷんを晴らそうという魂胆でした。あれこれ話す内には娘の気持ちも緩んで来るだろう。その内娘の方は遊ぶと言い出す事になるだろう。と目算していました。

『なぁに、幼い子の事だ、2、3日もすれば忘れるだろう。』

そんな風に気楽に考えていました。

 ところが、蛍さんと来たら、4、5日経っても一向に変化なしの状態でした。父が蜻蛉君の事を話し出すと、それ来たといわんばかりにコタツに潜り込んで仕舞います。そして全く父の言う事を聞かないのでした。彼女は父にあれこれと聞かれて、その当時の悔しい気持を話した物の、彼女の無念を聞いている父の方は全くもって素っ気ない態度だったのです。

 「へーそんな事で」、「何だ大した事無いじゃないか」、と、こんな言葉で彼女の話に合いの手を入れたりするものですから、どちらかと言うとうっぷんが晴れるどころか、逆に蛍さんの方は怒りが再熱し、そんな生返事をした父に憎悪の怒りが爆発するのでした。

「お父さんなんか、大嫌い。」

そう言うが早いか、ガバリとコタツ布団を被ってしまい、その後は父の声は勿論、姿も暫くは見たくないという有様でした。


土筆(249)

2018-11-05 11:15:53 | 日記

 「裏庭の戸が開いたままだよ。」

ここで蛍さんが皆に声を掛けました。が、誰も彼女に答える者は無く、蛍さんの声を聞いている者もいない様子です。大人は大人の話で手いっぱいなのでした。

 父は母を養護し、祖父は嫁を養護するという感じで話は進んで行くのでした。突然、「親子で不潔よ。」と蛍さんの母が言い出しました。一瞬間があり、それは何故かと祖父が尋ねると、母はふんとばかりに話し出しました。先程彼女が覗いた廊下では、夫と姑が抱き合ってキスをしていたというのです。この嫁の話にびっくりした祖父が、如何言う事かと妻と息子に尋ねたのは言うまでもありません。が、祖父は何となく何が起こっていたのかは察しがついていました。

 「お父さん、これが倒れた私を起こしてくれたんですよ。」

と祖母。

「それで、沢山叩いて悪かったねと、私がこれの赤くなったほっぺにちゅっちゅ、ぺろぺろと、」

と、祖母はやや頬を染めて言うのでした。「何時もの様に嘗めてやってたんですよ。」成る程、やはりねと祖父は思いました。妻は昔から子供達が軽い怪我等すると、ペロペロ患部を嘗めてやるのでした。「自然の動物はそうやって傷を癒すんです。」私の唾はそんじょそこらの傷薬よりよく効くのだ、というのが祖母の持論でした。確かに、唾液には殺菌作用等あるのでした。祖母は年寄りの知恵、経験からその事を知っていました。

 そこで、妻の話を聞いた祖父は蛍さんの母に言いました。

「今聞いた通りだよ。母親が息子の頬をぶった痕を嘗めていただけだよ。」

これは昔から子供達にそうするんでね、そう言うと、分かったね、もうこれであれと喧嘩はしないでおくれねと、妻を手で差し示し嫁を諭すのでした。

「お前さんも、何時までも息子は子供じゃないんだから、あとは嫁に任せなさい。」

と妻の方にも声を掛けると、蛍さんの父に、「裏庭の閂を掛けておいで。」と指図しました。祖父には孫の声がちゃんと届いていたのでした。