漱石 「草枕」 紀行
愛読書 漱石「草枕」の地をゆっくり、じっくり歩きました
山路を登りながら、こう考えた・・・・
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。
峠の茶屋で・・・・
「おい」と声を掛けたが返事がない。
軒下から奥を覗くと煤けた障子が立て切ってある。向う側は見えない。
五六足の草鞋が淋しそうに庇から吊されて、屈托気にふらりふらりと揺れる。
今宵の宿は那古井の温泉場で・・・・
漱石が入っている風呂場へ 美人の那美さんが入ってくる
朦朧と、黒きかとも思わるる程の髪
真白な姿が雲の底から次第に浮き上がって来る
肩の方へなだれ落ちた線が、豊かに、丸く折れて、
流るる末は五本の指と分れるのであろう
ふっくらと浮く二つの乳の下には、しばし引く波が、
又滑らかに盛り返して下腹の張りを安らかに見せる。
張る勢を後ろへ抜いて、勢の尽くるあたりから、
分れた肉が平衡を保つ為めに、少しく前に傾く
逆に受くる膝頭のこのたびは、立て直して
長きうねりの踵につく頃、平たき足が、凡ての葛藤を、
二枚の蹠に安々と始末する
世の中にこれ程、錯雑した配合はない、
これ程統一のある配合もない
これ程自然で、これ程柔らかで、これ程抵抗の少い、
これ程苦にならぬ輪廓は決して見出せぬ
・・・・
・・・・
2014年夏
熊本 小天温泉にて
笠原 道夫