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原発問題

原発事故によるさまざまな問題、ニュース

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※21回目の紹介

2014-07-20 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。21回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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★過去に紹介した記事>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧 ※下の方に1回~16回までのリンク一覧あり

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り  ※21回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「第4章 落選議員回り」 を紹介

前回の話:【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※20回目の紹介

【登場人物】
 小島 厳 日本電力連盟常務理事 関東電力総務部長を経て日本電力連盟に出向

 総額15兆円の売り上げを誇る業界でありながら、その業界団体が法人格すら取得していない・・・これは極めて異例である。日本の自動車、鉄鋼、電気、化学、通信、産業機械といった他の主要な業界団体はすべて法人格を取得しているにもかかわらず、である。

 理由は何か?それは、日本電力連盟が外部の介入を過度に警戒しているからである。

 公益法人という法人格を取得したとなれば、主務官庁による検査や帳簿閲覧といった監督権が法律上及ぶことになる。実際には、よほどのことがなければ、主務官庁が実質的に公益法人の経営に介入してくることはないが、念には念を入れて、公益法人化を避けているのだ。

 電力会社が決して国の補助金を受け取らないのも同じ理由だ。会計検査院の検査が入り、電力会社の秘部に外部の目が届くことを忌避している。国の補助金を受け取ると、政治資金規正法上、政治献金ができなくなることも、電力会社のそうした行動を正当化していた。

 電力業界全体が外部に発注する金額の総計はなんと5兆円もある。その上前の上前だけで、日本電力連盟には、400億円もの預託金が使途自由な工作資金として積まれることになる。

 このプロセスに1つでも違法な部分があれば、内部告発などが表面化した際には、マスコミや司法当局も触手を伸ばすことが可能であろう。しかし、違法性がない以上、たまに暴露話として、その存在が外部に漏れることはあっても、決して広がることはなかった。

 しかも関東電力の取引先は、東栄会からの指示に従って淡々とパーティ券の領収書を処理するだけで、相場より15パーセントも高い取引額を安定的、継続的に享受できる・・・安定して関東電力から仕事を受注する限り、倒産する心配はまずない。経営権争いや女性スキャンダルなどによる内輪もめが起きない限りは、取引先から秘密がばれることはなかった。

 そして関東電力自体が、取引先において内紛やスキャンダルが起きていないかどうか慎重にウォッチし、この集金・献金システムに綻びが出ないよう注意していた。

 小島という一個人が編み出した集金・献金システムではあるが、誕生したあとは、日本の政治社会を支配するモンスターとして、独自の生命を得たように活動をし始めた・・・。

 関東電力はもちろん、その最大の受益者だ。言い換えるならば、関東電力は、国の政策に関して拒否権を持つに至ったともいえる。

 たとえば日本は、温室効果ガスの排出量削減について、国が約束した「京都議定書」の削減目標がありながらも、環境税も排出量取引も導入していない唯一の国である。「できないことは約束しない、できることだけ約束する」というのは、個人でも国家でも守らなければならない所作ではあるが、日本が環境税と排出量取引のどちらも導入できていないのは、関東電力が反対をしているからである。

 関東電力一社が反対しさえすれば、温室効果ガスの1990年比25パーセント削減を日本国の総理が国際公約として掲げても、それは実現しなかった。

 その一方で、このモンスター・システムはもはや関東電力の手を離れ、独自の生命体として、その鼓動を強め始めた。多くの政治家が、この集金・献金システムの稼動を前提に活動をし始めたのである。

 こうなると、関東電力の一存で、このシステムを止めるということもできなくなる。システムを編み出したのは小島厳ではあるが、彼の一存ではもちろん仮に電力会社10社の社長全員がこのシステムを止めようとしても、もはや政治との関係で止められない。

 政党交付金が表の法律上のシステムとすれば、総括原価方式の下で生み出される電力料金のレント、すなわち超過利潤は、裏の集金・献金システムとして、日本の政治に組み込まれることになったのだ・・・。

 こうして、公共事業への国家予算の分配がゼネコンの集金集票との見合いであることや、診療報酬の改定が日本医師会の集金集票との見合いであることと同様に、このモンスター・システムは、日本の政治に必須の動脈となったのである。

 近年の構造改革路線で、ゼネコンや医師会の利権が痛めつけられていることからすると、もはや日本では最大最強の利権になっている、と言っても過言ではない。

 佐賀では、別の落選議員が小島の前に跪き、キンタマにほおずりしかねない勢いで、彼の訪問を歓迎した。

 昔も一度落選経験があり、小島の訪問の意味を理解している。漫然と、薄く広く支援しても、相手にとってありがたみは薄い。国政復帰の可能性がある落選議員に絞って、生かさぬよう殺さぬようにしながら、一番苦しいときにそっと手をさしのべるのだ。

 2大政党制といっても、衆議院であれば小選挙区300議席のうち、どんな風が吹いても確実に当選してくる地盤が安定した強い議員は、民自党と保守党ともに50人ずつくらいだ。よく巷では「二世議員は世襲でけしからん」と言われるが、現実には、世襲議員以外の一代で議員になった先生は、むしろ御しやすい。いつ解散・総選挙があるかわからず「常在戦場」といわれる衆議院では、世襲以外の議員は、常にカネの心配ばかりしている、と言っても過言ではない。

 カネが弱点であれば、カネで押さえ込めばよい。民意の振り子が振れる時代は、よりカネの影響を及ぼしやすくなる・・・。

 -長崎と佐賀、土曜日の午前中だけで、将来的な2票を小島は確保した。

 日本電力連盟が預かっている、年に400億円の、わずか0.01パーセントの額で、数年後に民自党に追い風が吹いても、日本電力連盟に逆らうことはない、確実な票を買うことができた。

 「脱原発のデモにどんなに人が集まったとしても、今日の午前中の2票ほどの力は持ちえない。世の中はつくづく不平等にできている・・・」

 小島はニヒルな笑みを片頬に浮かべながら、随行の副部長に、こううそぶいた。

 

※「第4章 落選議員回り」の紹介は、今回で終了。

次回は、「第13章 日本電力連盟広報部」を、7月30日から紹介予定です。(記事のUPは21時頃)

民間の会社がつくる任意団体・・・世に知られざる仕事内容は、マスコミの言論を監視することであった・・・

 


*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 から、「第4章 落選議員回り」の過去紹介のリンク

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※17回目の紹介

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※18回目の紹介

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※19回目の紹介

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※20回目の紹介

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※21回目の紹介

 


★過去に紹介した記事>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧 ※下の方に1回~16回までのリンク一覧あり

 


【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※20回目の紹介

2014-07-19 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。20回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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★過去に紹介した記事>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧 ※下の方に1回~16回までのリンク一覧あり

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り  ※20回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「第4章 落選議員回り」 を紹介

前回の話:【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※19回目の紹介

【登場人物】
 小島 厳 日本電力連盟常務理事 関東電力総務部長を経て日本電力連盟に出向

(11)

 小島が頭角を現したのは、政治改革の美名の下で小選挙区制が導入され、保守党と、保守党から分裂した新政党との間で二大政党制が成立するようになったときである。

 従来の蔵田のやり方であれば、保守党と新政党との双方に保険をかけることになる。すると、個々の集金額を倍にして、二つの党に献金しなくてはならない。しかも、政党同士が小選挙区で競うということだと、資金面のニーズはエスカレートすることになる。その一方、小選挙区制の導入と同時に税金という公費で政党を支える政党交付金制度が導入されたため、政治献金やパーティー券購入については厳しく制限されることになった。

 政治献金の量的規制が強化され、政治資金管理団体の収支報告書で一定額以上の献金やパーティ券購入は公開されることになったため、電力会社が表立って動くと、かなり目立つことになりかねない-そんな窮屈な制度となったのだ。

 蔵田が日本経済団体連盟会長を退任したあと、小島は日本経済団体連盟から関東電力に戻り、本社の総務部総務課長に着任した。総務課長として小島は、関東電力の資材の調達先、燃料の購入先、工事の発注先、検診・集金業務の委託先等を一元管理し、政治献金する新しいシステムを考案した。

 電力会社は地域独占が認められている代わりに政府の料金規制を受けているが、その料金規制の内容は、総括原価方式といって、事業にかかる経費に一定の報酬率を乗じた額を消費者から自動的に回収できる仕組みとなっている。

 ただ、事業にかかる経費自体、電力ビジネスの実態を知らない政府によって非常に甘く査定されているし、経費を浪費したら浪費しただけ報酬が増えるため、電力会社としても、より多くの経費を使うインセンティブが内在している。そのため、結果として、電力会社から発注される資材の調達、燃料の購入、工事の発注、検診・集金業務の委託、施設の整備や清掃業務等は、世間の相場と比較して、2割程度割高になっているのだ。

 -この2割に小島は目をつけた。

 購入する金額が常に2割高であるため、取引先にとってみれば、電力会社は非常にありがたい「お得意様」となる。電力会社が取引先から「大名扱い」される謂れでもあった。

 現代の激動する経済社会のなかで、それぞれの企業がグローバルな競争にさらされてる状況の下、電力会社は、取引先にとって2割増しの単価で仕事をくれる非常においしい存在であり、多少の利幅を減らしてでも確実に維持したいお得意様であった。

 しかも、電力会社の調達先を調達分野ごとにランキングしてみると、子会社・関連会社、そして人的資本的な関係のある関係会社といった電力のファミリー企業はもちろんのこと、人的資本的関係がない会社であっても、なぜか受注の順番や比率が固定化されている。

 小島はこの超過利潤である2割のうち、1割5分を引き続き発注先の取り分とする一方、残り5分については、電力会社を頂点とする取引先の繁栄を維持するための預託金としてリザーブすることを、取引先に提案した。取引先のうち気心の知れた仲間の企業を「東栄会」という名前で組織化し、各社受注額の約4パーセント程度を東栄会に預託するのである。

 燃料購入を除いても、関東電力の外部への発注額は年間で二兆円もあるので、約800億円が、形式的には受注会社が東栄会に預託したカネ、実質的には関東電力が自由に使えるカネ、となる。

 それ以外に、燃料購入でも、商社を通じてカネがプールされた。産油国の王家への接待や政治工作のための裏金が、スイスやケイマン諸島の銀行口座にプールされていった。

 東栄会の会員企業には、「衆議院議員水野幸彦君を励ます会パーティ券10枚の領収書」、あるいは「筑紫女子大学への寄付講座」といった領収書が送りつけられてくることになる。

 すなわち、小島の管理下の総務課に置かれた東栄会のパソコンから、エクセルで割り振った配分結果が記された指摘メールを自動配信するだけで、各社においてカネが機械的に処理されるのだ。各社ごとに見れば、政治資金規正法による収支報告書への記載下限額未満であるから、名前は一切、表に出ることはない。

 そして、東栄会の会長職は関東電力の総務部長が勤めているが、これは職務としてではなく、個人として任意団体の代表を務めているという建て前である。カネの流れとしても、会員企業から東栄会への金銭の預託であるので、外形上、法律上は、東栄会の会長の薦めに従って、会員企業が自らの判断で、パーティ券なり、大学の講座に寄付をしているに過ぎない、ということになる。

 法律上はまったく違法性がない、表には関東電力の名前がまったく出ない、それでいて政治献金の相手方に関東電力への恩義を感じさせることができる・・・これが、このスキームの優れた点であった。それに加え、関東電力の代わりに会員企業との商取引をかませることで、表面上は合法的な取引を装いながら利益供与することもできる。

 関東電力の名誉相談役に退いていた蔵田以下、歴代の社長、会長も、この小島が生み出した集金・献金システムにゴーサインを出し、その後、関東電力の政界に対する影響力は急速に浸透することになった。

 それだけではない。小島と関東電力幹部は、日本電力連盟を通じ、地域独占をしている他の電力会社9社にも、同様に、この集金・献金システムを導入することを強く勧奨した。

 こうして、東栄会、道栄会、みちのく栄会、日本海栄会、東海栄会、近畿栄会、中国栄会、四国栄会、九州さかえ会、琉球栄会と、全国で地域独占を謳歌する10の電力会社に対応した任意団体が、たった1年以内に誕生した。

 さらに、業界全体の反映を維持するための共通の預託金として、各団体に預託されているカネのうち2割が、日本電力連盟に再預託されることになった。

 -驚くベきことに、日本電力連盟自体も、法人格を取得していない任意団体であった。

 


【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※19回目の紹介

2014-07-18 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。19回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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★過去に紹介した記事>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧 ※下の方に1回~16回までのリンク一覧あり

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り  ※19回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「第4章 落選議員回り」 を紹介

前回の話:【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※18回目の紹介

【登場人物】
 小島 厳 日本電力連盟常務理事 関東電力総務部長を経て日本電力連盟に出向

 「今度、うちの先生の会がありますから、よろしく。できる範囲でいいですから・・・」

 こう言われて封筒を預けられる。なかには通し番号付きのパーティー券の束と振り込み用紙が入っている、という次第だ。ひどいときには、議員本人のパーティー券ではなく、所属する派閥の長のパーティー券が入っている、ということもあった。

 もともと国会議員を訪問している趣旨は電力業界や経済界からのお願いことなので、むげに断ることはできない。通し番号付きで、振り込みの際にその番号を振り込み名義人の頭に入力することが求められており、国会議員側からすれば、誰が何枚パーティー券を買ったか一目瞭然なのである。


 伝統的には、長年、日本経済団体連盟は、奉加帳方式と呼ばれる献金システムをとっていた。

 これは、東西冷戦下で資本主義体制を維持するという大儀のもと、個別の会社と政治との間に一定の距離を保ちつつ、保守党単独政権を支えるために行われた。連盟の会長会社は何億円、副会長会社は何億円、会員会社は資本金規模や売上高に応じて一社平均何千万円というふうに、あたかも奉加帳を回すように集金して、これを保守党の政治資金管理団体に上納するものだった。

 これ自体、株主の立場からすれば、株主の資金を経営陣が勝手に特定の政党に献金するものであり、背任行為となる可能性もあった。また、憲法上の政治活動の自由との関係でも論争となっていた。

 しかし最高裁判所は、八幡製鉄所政治献金事件の判決において、法人の政治活動の自由は憲法上保障されている、と判示し、この論争に終止符を打った。最高裁は資本主義体制の維持に一役買ったのだ。

 この仕組みが大きく変わることになったのが、ロッキード事件だ。

 政治とカネが大きくクローズアップされた事件を機に、当時の日本経済団体連盟の蔵田会長が、「日本経済団体連盟は政治献金の斡旋はやめる」と広言し、社会から喝采を浴びたのである。

 蔵田の巧妙なところは、日本経済団体連盟としては政治献金の廃止という大見得を切る一方、関東電力としては、会長、社長、役員、部長、課長に至るまで、社内のポジションに応じてポケットマネーとして集金し、関東電力からの政治献金をロッキード事件以前と変わることなく続けた点である。

 こうして電力のみならず、銀行、証券、ゼネコンといった一流企業から、パチンコ業界やサラ金業界に至るまで、政府と密接な関係にある業種は、このやり方に倣うことになった。これにより、社会に対しては、政治家と経済界とが距離を保っているように見せつつ、実態としては、個別の会社と保守党とが、より密接に、より不透明な形で結びつきを強めていくことになった。

続き>>【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※20回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※18回目の紹介

2014-07-17 20:55:12 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。18回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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★過去に紹介した記事>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧 ※下の方に1回~16回までのリンク一覧あり

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り  ※18回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「第4章 落選議員回り」 を紹介

前回の話:【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※17回目の紹介

【登場人物】
 小島 厳 日本電力連盟常務理事 関東電力総務部長を経て日本電力連盟に出向

 小島は、一呼吸おいて殊勝な表情をつくり、続けた。

 「このたびは、本当に残念な結果となりました・・・」

 頭を垂れる。数秒の時間が経った。

 「まぁ、私の不徳の致すところです。有権者に理解されず、支持されなかったのは、私の責任です・・・」

 先方は口を開いた。もう吹っ切れているようだった。小島は、勧められるがままに、どこかで拾ってきたような古ぼけた布地のソファに腰を下ろした。内心ではスーツに埃が付くのではないかと、少し気になった。先月、銀座の三越であつらえたもので、英国製の生地を使っている。

 「・・・先生が、というよりも、民自党への逆風が大きかったですよね」

 と、小島はしみじみと語る。

 「まぁ、それもありますけどね・・・しかし、今回の選挙だって、当選する人間は当選しているわけですから。有権者に浸透し、支持を受ける努力が足りなかったのだと思います。私の不徳の致すところです。これからしばらくは雑巾がけですよ」

 その通りだと小島は思った。出されたお茶をゆっくりとすすった。バイパスを走るトラックの音が、事務所の窓をビリビリ、ガタガタと振動させた。雑然として人気のない室内・・・色彩のない部屋だった。部屋のサッシの建て付け1つ、調度1つで、カネがないことがよくわかる。

 一呼吸おいて、

 「・・・これからは、先生はどうされるんですか?」

 こう小島は、おもむろに切り出した。

 「6年後の参院選ですよね。まだ私も引退という歳ではありませんし、3年後は次の改選議員がいますから、6年後ですよね・・・6年先に民自党という政党が続いていたらですけどね」

 先方は苦笑した。

 「先生、首長は狙わないんですか?」

 電力会社にとって首長は、国会議員と同等か、むしろそれ以上に重要だ。

 「まぁ、それもにらみつつ、ということだろうと思います。とにかく政治へのファイティングポーズをとりつづけないと、そういう話も降ってきませんからね・・・」

 そう、力なく呟く。小島は出された不味いお茶を再度すすった。喉を潤すためではもちろんない。相手の表情を再確認するためだ。

 「先生、日々の生活のほうはどうされるんですか?」

 先方の顔に表れる苦悩を確信すると、小島はこう、恐る恐る見えるようにして尋ねた。

 「民自党での支部長を続けさせてもらえば、従来の執行部の方針だと、生活費込みの活動費を月30万はもらえるみたいですけどねぇ。まぁ、それじゃどうにもならんわけで・・・いくばくかの貯金を取り崩して、妻にも働きに出てもらって、それから、私も働きに出ないと・・・」

 落選議員は呟いた。切り出すのはここだ。

 「そこで、先生、ご相談なんですが・・・筑紫女子大学で教師を探しておりまして・・・」

 満を持して小島が用意したカードだ。ゆっくりとした口調を保ちながら、トドメを刺す。

 「長崎からは、車でも電車でも一時間で移動できますし。授業は月に1回、土曜日に集中して3コマ連続講義ということで結構です。平日でも構いません。肩書は客員教授になります。

 最近は女子大学生といってもキャリア志向が強く、公務員も就職先として、えらい人気です。そういった女子学生に、基礎自治体と県政と国政のそれぞれを経験された先生が、行政について、あるいは政治について広くお話しいただけると、女子学生も眼を開いて勉強します。

 報酬も、何も奥様が無理に働きに出られなくともなんとかなり、先生が政治活動に専念できるくらいはお出しできると思います。月1回、3コマだけお話いただければ」

 落選議員の表情が、にわかに華やいだ。

 「・・・いやー、本当ですか?そ、それはありがたいっ。いや、申し訳ないっ」

 ここまで話すと、この何の政治的信念も持っていない男は、もう感極まったといった感じで、次の言葉が続かない。顔をくしゃくしゃにしている。小島のオファーのありがたみが骨身に染みているようだ。

 「いや、先生、気になさらんでください。私が、ただ、筑紫女子大からの依頼を受けて、おつなぎしているだけですから。あとは大学のほうから詳しい話を連絡させますから」

 「ほ、本当にありがとうございますっ!」

 頭を下げたままの落選議員を前に、小島は腰を上げた。

 「いえいえ、頭をお上げください。飛行機の時間もあるものですから、私はこれで失礼いたします」

 戸口で頭を下げたまま見送る落選議員をあとにして、小島はタクシーに乗り込んだ。

 「じゃ、長崎駅へ」

  運転手に総務部副部長が告げる。

  「うまくいった。ダボハゼだな」

 小島は副部長に、そうシンプルに伝えた。

 長崎駅10時20分発の「かもめ16号」に乗り込めば、昼前には佐賀駅に到着する。


(10)

 佐賀に向かう列車のなかで、小島は有明海が一面に広がる車窓には目もくれず、これまでの自らの職業人生を反芻した。

 小島は、東京大学経済学部を卒業したあと、関東電力に就職した。在学中は、周りの学生のように学生運動に走ることもなく、ノンポリを貫いた。東京出身の小島からすると、目の色を変えて何かに打ち込むというのはカッコ悪い、というセンスだったのである。勉強も遊びも中程度。強いて言えば、体育会の卓球部に所属していたのが、就職活動におけるアピールポイントだった。

 国家公務員試験にも経済職で合格したが、順位は十人並みで、大蔵省や通産省といった当時の花形官庁には内定をもらうことはできなかった。少なくとも勉学の面では順調に進んでいた小島の人生で初めての挫折だった。だからかもしれない。花形官庁に内定をもらえなかったからといって、地味な二流、三流官庁に入って、安月給でハードワークをする気にはならなかった。

 都会っ子の小島にとって挫折を認めることはプライドが許さなかった。電力という産業に特段の思い入れがあったわけではない。ただ、国家公務員とは別の道をあえて選択したことを正当化する理由が欲しかった。

 たまたま古本屋で松永安左ヱ門の対談集を買い求め、国を支えるインフラを、官ではなく民でやるという志に共感した。公益は官だけではなく民でも実現できるのだ、柔軟な発想が生きる分だけ民のほうがいい・・・「電力会社は安定しているから」という母親の強い勧めも小島の背中を押し、関東電力への入社を決意したのだった。


 関東電力では、入社直後の5年間は、地方の現場勤務を経験させる。小島は水戸支店に配属となった。

 水戸支店の5年間は、東京出身の小島からすると、なんとも歯がゆい日々だった。上司に当たる支店長といえば、ろくに仕事もなく、たまにロータリークラブの集まりや地元商工会議所の会合に出かけたり、地元市役所の幹部とゴルフにでかけたりするだけだった。

 小島と同じ東大卒で、幹部候補生として入社し、支店長にまでなっている幹部が本来担うべき「経営」と呼べる業務、それがこの支店には皆無であることは、新人の小島にもよくわかった。支店長室におけるゴルフのパッティング練習だけが、支店長の日課・・・松永安左ヱ門が標榜していた世界とは真逆の会社の実態であった。民間がすべてのおいて優れてはおらず、かつ効率的ではない、ということをしみじみ実感した。

 日々の実務に関しては、地元で採用された高卒のベテランが支店の総務課長として番頭のように取り仕切っていた。人事、経理はもちろん、慶弔ごと、地元町内会でのお祭りへの提灯の寄付など、すべてが、前例と横並びを熟知したベテラン総務課長の指示で動いていた。

 当時は、電気の検針や集金も電力会社直営でやっていたため、総務課長の仕事は、そうした現場の人々の労務上のトラブルへの対応が中心だった。そして、この総務課長の周辺を除いては、支店長室を筆頭に、支店全体に、なんともいえないどんよりと弛緩した雰囲気が漂っていた。

 電気料金という名の会社の売り上げは、天から降ってくる。景気動向には、それほど左右されない。努力してもしなくても、売り上げの結果は変わらない。創意工夫の余地もない。必然的に、支店の社員は、仕事の中身ではなく、仕事以外の事柄、それは、釣りであったり、鉄道写真であったり、日曜大工であったりと様々なのだが、いわゆる趣味に打ち込むのであった。

 帰ろうと思えば、毎日、定時に帰ることができる。たまに総務課長との飲み会に付き合う以外は、残業といえば、のんべんだらりと勤務報告書を書いて残業代を生活費としてかせぐか、夏の水戸黄門まつりのサンバの出し物に出場するための練習で残業代をせしめるか、それくらいだった。

 この水戸支店で、地方都市の人々と社会の現実を、小島は学んだ。同じ大学の同期卒の官僚たちや金融界に進んだ連中と比べると、小島の社会人生活はなんとも地味で低次元のように思われた。

 定時で必ず退社できるので、いっそアフター・ファイブに勉強して司法試験を目指そうかと、法律の教科書を買い込んで勉強を始めたこともある。しかし、支店の独身寮の生活では、プライベートと仕事の線引きが難しい。先輩から麻雀に誘われたり、後輩からの仕事の悩みの相談に応じていたり、といううちに、5年間が過ぎてしまった。

 今にして思えば、水戸支店で腐らずに賢く実直に仕事をしていたことが評価されていたのかもしれない。小島の人生が変わったのは、水戸支店の現場での勤務の後、本社に戻り、総務部に配属されたことだ。当時の関東電力の総務部長だった蔵田六郎に気に入られ、その後、蔵田が社長になったときには社長秘書、日本経済団体連盟の会長になったときには、会長秘書に引っ張られた。


 蔵田の下で、小島は否が応でも、「政治とカネ」の極意や財界での帝王学を学ぶことになった。蔵田と一緒に議員会館の国会議員を訪問すると、必ず帰り際に、「ちょっと、ちょっと」と、ベテラン議員秘書に呼び止められるのである。

続き>>【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※19回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※17回目の紹介

2014-07-16 20:54:02 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。17回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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★過去に紹介した記事>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧 ※下の方に1回~16回までのリンク一覧あり

【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り  ※17回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「第4章 落選議員回り」 を紹介

【登場人物】
 小島 厳 日本電力連盟常務理事 関東電力総務部長を経て日本電力連盟に出向

(8)

 同じく7月26日金曜日夕方、玉川京子が国会議事堂前駅の出口に立った頃、日本電力連盟の小島厳は、羽田空港第二ターミナルのラウンジで、長崎行きのフライトを待っていた。

 待ち時間の長い国際線のラウンジとは異なり、国内線のラウンジは、せわしなく人が出入りする。小島は、コーヒーを飲みながら、新聞を大きく広げ、夕刊各紙の見出しだけざっと斜め読みする。下手に知り合いと顔を合わせて、週末の行き先を詮索される必要もない。

 これからしばらく、週末は落選議員回りだ。失意の落選議員を訪問することは、決して気乗りする仕事ではない。

 「このたびは誠にご愁傷様で・・・」といった口上で始まる落選議員への訪問は、通夜や葬儀に参列する感覚にある意味似ている。生じてしまった落選という結果自体をどうこうするわけにもいかない。おとなしく伏し目がちに、済まなそうな表情を浮かべるのだ。

 しかし、落選議員にも生活があり、これからも生きていかなければならない。これまで落選中だった元議員に当てがっていた私立大学の客員教授のポスト、非上場会社の顧問のポスト・・・これらを適当にシャッフルしたうえで、再チャレンジの意思がある落選議員にのみ、くれてやるのだ。

 これまでに十分な実績があり国政復帰の可能性が高い有力議員に対しては、議員本人のみならず、秘書の再就職先の面倒も見てやる。

 こうしたポストは、もともと関東電力を頂点とする関係企業で組織する「東栄会」の資金で維持されていて、単に割り当ててていた人材が入れ替わるだけだから、誰の懐も露ほども痛まない。電気料金の形で大衆から広く薄く回収されたカネが原資だ。


 ラウンジで長崎行きのフライトのラストコールが鳴り響く。同じく関東電力から日本電力連盟に出向中の随行の総務部副部長が呼びに来た。小島は足早にラウンジから搭乗口を通り、そのまま機内のエグゼクティブクラスの座席に腰を沈めた。

 それにしても3年半の民自党政権はひどかった-。

 官僚主導から政治主導へ、政治献金の廃止、政官財の既得権トライアングルの打破、といった公約をマニフェストに掲げて政権交代を実現した民自党であるが、実際に政権を奪取した瞬間からメッキが剥がれ始めた。

 その原因として挙げられるのは、第一に、議員の資質である。

 政官財の癒着の打破という理想に燃えて、あえて保守党ではなく民自党からの出馬を選択したという例外的な議員もいるにはいた。しかし民自党議員の多くは、ただ単に政治家になりたいが保守党からは出馬が叶わない、といった類の者たちだった。

 松永経済政治塾で塾生としての経験を積んだが現実の組織を動かしたことのない奴、官庁や大手民間企業に入ったが組織のなかでチームプレイに徹することができずに飛び出した目立ちたがり屋、果ては、就職氷河期にまともな就職ができずにフリーターをしていた奴らだった。

 政権交代後に、こういう連中に、手練手管に長けた官僚がご進講に伺ったり、パーティー券の購入という鼻薬を業界団体が利かせたりする・・・すると、たちどころに、既得権擁護の先兵に変身し、マニフェストの実現阻止に動いていった。

 平家の支配に音を上げた京都の皇族が平家追討の令旨を出したはいいいが、平家を追討し上洛した木曽義仲の軍が京都で平家以上の乱暴狼藉をはたらく、といった風情だった。所詮は国家権力を獲得するところまでが目的の集団で、獲得した国家権力の使い方の要締については何の定見もなかったということだ。

 民自党失速の第二の原因は、政党としてのガバナンスの欠如である。

 たしかに保守党政権では、内閣の方針を党がひっくり返すという族議員の弊害があった。そこで民自党政権では、党と内閣の一致という理想を掲げて、政策決定における政府与党の一元化を図った。

 が、しかし、もともと組織人的な立ち居振る舞いができない民自党の議員たちである。内閣と党とが一体化した部門別会議の決定に従うはずもなく、重要な政策の決定過程においては、「ガス抜き」と称し、何日もダラダラと党政調での放談会が続いた。彼ら彼女らには、いつまでに何をやるというスケジュール管理のノウハウも意思決定のルールもなかったのである。

 ポピュリズムの悪弊も民自党を覆った。

 特定の支持基盤のない、ただ風に乗って当選した連中だから、ワイドショーの主張には弱い。ワイドショーの司会者の主張に定見はいらないが、行政に定見がなければ、場当たり的な対応が国家の土台を崩す。にもかかわらず、民自党政権では、ワイドショー司会者の主張に押される形で、場当たり的に、その場その場で政策が決定された。その典型的な悪例が「原発ゼロ」の意思決定だ、と小島には思われた。

 しかし、保守党政権に戻ったからといって、楽観はできない。

 小選挙区二大政党制であれば、いつ振り子が振れるかはわからない。中選挙区制時代に比べると、個人の努力は資質だけで当選は保証されない。政治家がよりリスクの高い職業になったともいえる。

 今回の保守党の一年生議員の顔ぶれを見ても、以前との比較において、議員の資質の低下は明らかだ。周辺が政治家にしたいと思うような人物が立候補をためらい、闇雲なリスクテイクを厭わない野心家や冒険家が候補者となっている。こんな奴らを上手におだてて一廉の保守政治家に育ててやることも、小島の使命なのだ。

 

(9) 

 ガクン、という衝撃音が響いた。機内のドリンクサービスにすら気が付かないうちに、機体が長崎空港に着陸した。

 金曜の夜だ。脳天気な電力会社の幹部であれば、筑紫電力の長崎支社長に料亭で卓袱料理の設宴でもさせるのだろう。しかし小島には、そうした余興に時間を費やす精神的余裕も関心もなかった。随行の総務部副部長の案内に従って、タクシーで市内のホテルに向かった。

 -関東電力がどの落選議員に梃入れしているかなど、筑紫電力に知られる必要はないのだ。


 翌朝、小島は、ホテルのバイキング形式の朝食を手早く済ませ、タクシーで民自党の落選議員の事務所を訪ねた。

 地元市役所の水道局の労働組合あがりで、若くして県議を2期務めたあと、6年前の参院選で民自党ブームの風に乗って当選した人物。国会では経済産業委員会に所属し、民自党の政策調査会のエネルギー政策委員会のメンバーでもあった。

 事務所は、中心市街地からやや離れた、郊外へつながるバイパス沿いの不動産屋の二階にあった。随行の副部長をタクシーの車内に残し、菓子折り1つ持って、外階段をトントンと小気味よく上がっていった。明るく挨拶する。

 「こんにちはっ!昨日、福岡で仕事がありましたので、週末を利用して、長崎にまいりました」

 ・・・もちろん嘘である。そして、小島は嘘をつくのも平気だった。そう、わざわざ長崎まで来たのではなく、ちょっと立ち寄った、という演出である。相手に心理的な負担感を与えないように、という心掛けであった。

続き>>【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※18回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(50) ※16回目の紹介

2014-06-25 21:03:54 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。16回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(50)  ※16回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (50)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(50) ※15回目の紹介

 新崎の7基の西には、日本海側の「原発銀座」といわれるエリアが並んでいた。いくつかの原発は年末に再稼動していたし、フクシマ事故以降稼動していない原発にも、燃料プールには使用済み燃料が、わずかな建屋の補強だけを受けて、そのまま置かれていた。新崎の状況次第では、こうした原発のオペレーションも難しくなるかもしれない。

 一度引き上げて乾式の貯蔵容器に入れるべきだと忠告する有識者がいたが、早期の再稼動を目指す電力業界と資源エネルギー庁は、あらゆる手を使って、それを妨害した。

 何事も中庸とバランスが大切と教わり、角が取れている政治家四世の総理にとっては、それを止めるだけの強い信念はない。ただぼんやりとそれを許していたことが、結果として、国家の崩壊を招いたのだ。


 同じく政府・関東電力事故対策統合本部に詰めていた日本電力連盟常務理事の小島厳と資源エネルギー庁次長の日村直史は、奇しくも同じことを考えていた。

 「とにもかくにも格納容器の爆発さえ免れれば、急激な放射性物質の拡散は避けられる。6号機と7号機のメルトスルーで汚染はじわじわと地下水や土壌から広がるだろうが、汚染の程度としては、フクシマの2倍にはならなだろう。局地的な汚染にとどまる。

 そうすれば、フクシマと手順は同じだ。1、2年は原発反対の嵐が吹き荒れるが、電力システム改革さえ遅らせて骨抜きにすれば、必ず政治家は総括原価方式のもたらす電力のカネにもどってくる」

 フクシマの悲劇に懲りなかった日本人は、今回の新崎原発事故でも、それが自分の日常生活に降りかからない限りは、また忘れる。喉元過ぎれば暑さを忘れる。日本人の宿痾であった。

 -歴史は繰り返される、しかし、2度目は喜劇として。

 椅子に座り、虚ろな表情で中空を眺めている総理の姿を日村がじっと見つめていた。

 その2人の様子をオペレーション・ルームの片隅から小島が観察していた。総理よりも日村のほうが、意識も体力もしっかししているように見えた。

 夕陽がオペレーション・ルームに射し込んでいた。

 「この人がいれば、何とかなるだろう」と、小島はさしたる根拠もなく、自らを鼓舞していた。

 確かに、この二人の心が折れさえしなければ、日本の裏支配者とも言えるモンスター・システムは、時を経ずしていきを吹き返すことであろう。そしてその悪魔のシステムとともに、日本には、原発をメルトダウンに至らせる1000本以上の送電塔が、無防備のまま残されるのだ。

 

※「終章 爆弾低気圧」の紹介は、今回で終了。

次回は、「第4章 落選議員回り」を、7月16日から紹介予定です。(記事のUPは21時頃)

日本を裏支配する悪魔のシステムとは・・・

 


*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 から、「終章 爆弾低気圧」の過去紹介のリンク

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45)

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(46) ※2回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※3回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※4回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※5回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※6回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※7回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(48) ※8回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(48) ※9回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※10回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※11回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※12回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※13回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※14回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(50) ※15回目の紹介

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(50) ※16回目の紹介 

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(50) ※15回目の紹介

2014-06-24 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。15回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(50)  ※15回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (50)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※14回目の紹介

(50)

 気が付いたら、政府・関東電力事故対策統合本部に、在日アメリカ大使館から、大使以下が通訳とともに駆けつけ座っていた。官房長官が許可したようだ。

 米軍の助けが必要になるかもしれない。民自党のようにアメリカに対するアレルギーがない保守党政権では、むしろ日米同盟の象徴として、大使の常駐を許可したのである。

 大使から、ホワイトハウスの国家安全保障会議の決定として、米エネルギー省国家核安全保障局の特殊専門部隊である被害管理対応チームの投入が、その場で伝えられた。

 在日アメリカ人の保護という理由で、米軍の輸送機を新崎空港に派遣することについても要望してきた。さらに、石棺などの災害防止に関して、あらゆる日本国政府の要請を検討する用意があることも表明された。


 翌1月2日の外国為替市場は、日本時間午前5時にニュージーランドからスタートした。事前に予想されたように、直ちに1ドル150円と大幅な円安となった。6時にはオーストラリア、10時には香港、シンガポールの為替市場が開いたが、さらに円は低下し、1ドル170円台の値を付けた。為替市場ではストップ安の仕組みがないことが恨めしいほどの下落ぶりである。

 債権市場でも、日本国債の利回りが急上昇、ストップ安となった。日本国債の暴落がさらなる円安に拍車をかけた。ロンドンやニューヨークで市場が開けば、円の暴落そして日本国債のさらなる暴落が確実視された・・・。

 原発災害で日本国政府の支出拡大が予想され、国債の償還可能性に疑問がついたこともある。しかしそれ以上に、フクシマのメルトダウンを経験した日本が、その教訓から学ばずに、またも原発のメルトダウンを引き起こしていることについて、マーケットから日本国政府、そして日本国そのものへの不信任が突きつけられたのだ。


 1月2日、海外の市場が荒れ狂っている頃、北京では中国政府の報道官が日本の新崎原発の事故に深い憂慮を示すとともに、在日中国人保護および日本国民への人道支援のため、中国軍を派遣する用意があると発表した。

 中国の艦隊は、尖閣沖に迫っていた。

 韓国艦隊も対馬沖に現れていた。在日韓国人の保護という名目だった。

 オホーツク海にはロシア艦隊が出現していた。

 自衛隊の最高指揮官である総理も、在日米軍司令官も、ホワイトハウスも、日本国の周辺事態に対処する余裕は残されていなかった。


 2日になっても、日本海側に発達した爆弾低気圧と、それのもたらす寒波と大雪は止むことがなかった。外部電源車の海からの輸送を自衛隊に要請したが、荒れ狂う日本海が頑強にそれを拒んでいた。

 政府・関東電力事故対策統合本部に昨日から徹夜で詰めている総理にとって、それは天罰のようにも思えた。そしてそれは、フクシマの警告に耳を貸さなかった日本人に対する天罰でもあった。

 天からの罰である以上、それはただ終わるまで甘んじて受け容れるしかなかった。

 総理の関心は、この天罰がどこまで続くのか、ということだった。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(50) ※16回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※14回目の紹介

2014-06-23 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。14回目の紹介  

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救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

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読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49)  ※14回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (49)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※13回目の紹介

 「燃料プールはどうなってんの?」

 今度は社長が尋ねる。さすがに額に青筋が浮かび上がっている。

 運転停止中とはいえ、1号から5号機の使用済み燃料は、プールに浸けられている。すなわちフクシマの4号機と同じ状態だ。そして、通電して冷却していないと、プールの水が沸騰・蒸発して、使用済み燃料がむき出しになってしまう。

 フクシマの事故後、有識者が、再稼動まではいったん乾式のキャスクに入れて貯蔵するほうが安全だと指摘していたが、放置していたことについて社長は臍を噛んだ。

 「ちょっと、そこまで手が回っていません。ただ、沸騰までは時間があると思います」

 所長代理はどこまでも、あっけらかんとしている。

 「計器だけに頼らずさ、ちゃんと目視しろよ。外の雪をバケツかなんかで運んで、プールに突っ込んでみろよ」

 とは原子力事業本部長だ。原発の燃料棒が放つエネルギーの強大さを、この男が知らずして、日本人の誰が知っているというのか・・・。

 「おい、車庫棟の入り口のシャッターを抉じ開けるよう、警察に頼めないのか?」

 こう官房長官が叫ぶ。

 現場では、テロ対策のために、サブマシンガンやライフル銃のほか、防弾仕様の警備車を備えた警察官が24時間態勢で警備している。つまり、銃器を用いてシャッターを撃ち抜け、という趣旨だった。

 「わかりましたっ、頼んでみます!」

 所長代理は今、敬礼までしている。やけくそなのだ。

 実際には、朝、非常用電源車が格納されている高台の車庫棟の様子を確認しに行った先遣隊が、まだ戻っていない。道は雪に覆われ、氷結し、容易には近づけないことは明らかだった。

 しかし、素人の提案とはいえ、官房長官の提案である。絶対に効果がないとその場で断言できること以外は断ることも難しく、その分余計にマンパワーを取られる結果となっていった。


 ベントにより六号機の格納容器の爆発の危険は去ったが、外部電源がなく、注水はできていないので、溶け出した核燃料が格納容器を破壊し、建屋の基礎部分に進行して、メルトスルーを起こしていることは明らかだった。

 7号機は、既に午後3時の時点で、格納容器の最高使用圧力を超えていた。あとは、どこまで格納容器が持ちこたえられるか、という物理学の限界の問題だった。最新型の欧州加圧型原子炉のように格納容器それ自体が大型化されていれば、まだまだ時間は稼げただろう。後悔しても後の祭りだった。

 午後7時には、7号機の格納容器の圧力が最高使用圧力の3倍の値を示した。

 格納容器には、ハッチやフランジがあり、マイクロメートル単位で完全に密閉されているわけではない。7号機は、最高使用圧力の3倍の圧を示すと、どこからか圧が抜け、圧の値が下がり、また数時間後には最高使用圧力の3倍を示すというジェットコースターのような上下動を示した。

 圧が上下するということは、フィルターで放射性物質が低減されることなく、格納容器の隙間から、事実上、建屋のなかにベントが行われているということであり、格納容器内で発生している水蒸気、水素、一酸化炭素が、建屋内に充満していることが見込まれた。

 -7号機の建屋は、フクシマのように、水素爆発が起こる可能性があった。建屋内の放射線量も著しい上昇を示し、作業員が留まることは困難になった。

 格納容器が破壊されれば、大量の放射性物質が放出され、作業員が退避せざるを得なくなる。そうなると、次は6号機に連鎖し、最終的には1号機から5号機の核燃料プールで保存されている核燃料まで剥き出しになり、大気中に放射性物質が放出されることになる。

 こうした事態が起これば、二位伊崎県から半径250キロ以上の範囲で、日本国民が住めなくなることが予測された。そうなると、決死隊が、砂と水の混合物で遮蔽しなければならなくなる。いわゆる石棺である・・・。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(50) ※15回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※13回目の紹介

2014-06-22 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。13回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

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  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

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読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49)  ※13回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (49)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※12回目の紹介

 午後3時の段階で6号機のベントには成功したが、フィルター付きベントへの配管のつなぎ目の継手の固定が甘く、放射性物質を含む格納容器からの排気が、継手と配管の間から吹き出ていた。周辺の放射線量の値は急速に上昇した。7号機のベントはまだ成功していなかった。

 「7号機、なんでベントできないの!?」

 と、社長がイライラしながら尋ねる。

 「わかってたら苦労しませんっ、て」

 所長代理は腹が据わっている、というよりも、自分の不運を呪っているように見える。所長がここにいさえすれば、自分が日本国民1億2000万人の矢面に立つこともなかった。なぜ所長は自分だけ正月休みなどとっているのだ・・・。

 「所長はどうしたんだ?」

 その所長について、原子力事業本部長が問いただす。

 所長は、朝一番の新幹線で新崎に向かっているはずだった。しかし、道路網の麻痺で原発には辿り着けていない。このとき所長も外部電源車も、新崎原発から50キロ離れた場所で立ち往生していたのだ。

 「7号機のベントのフィルター用の外部タンクは、陽の当たらないところにあるので、貯めていた水が凍り付いているのかもしれません」

 と施設課長。

 「とにかく、ホッカイロ貼ったり、小便でもかけたりして、温めてみようよー」

 原子力事業本部長は相変わらず落語のような口調だ。危機に直面して究極のジョークを吐く、007のジェームズ・ボンドでも気取っているのか。しかし、団子鼻に鼻毛を伸ばしたその風貌では、まるでバカ殿にしか見えない。

 しかしこの会社はどうなっているのか?実はこの時点で、実際に、現場の所員の小便が大量に、タンクを温めるため放出されていたのだ・・・。

 「もう出る小便がありません!」

 と、末端の所員がキレ気味に叫んだ。

 「バカヤロー、雪でも何でも食って小便出すんだぞ!あと、タンクに毛布でも巻いてみろっ」

 と原子力事業本部長。

 一基110万キロワットの出力を誇る世界最高水準の原子力発電所ではあるが、一度トラブルに陥ると、人間の小便や毛布という原始的な手法に頼らざるを得ないのが皮肉であった。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※14回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※12回目の紹介

2014-06-21 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。12回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

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  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

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読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49)  ※12回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (49)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※11回目の紹介

 このとき、現実には、新崎原発の周辺の10キロ圏内の住民はもちろんのこと、新崎県のほぼ全域の住民が、県から退避しようとパニックになっていた。

 県内各所の主要幹線道路で次々と渋滞と事故が発生するなか、なんとかたどり着いた住民たちで、JR新崎駅は殺気だっていた。みどりの窓口では、指定券を奪い合い、大人同士の殴り合いが各所で起きていた。数少ない自由席には、乗車定員をはるかに上回る群衆が乗り込み、お年寄りや小さな子どもにとっては危険な状態になっていた。

 駅員がロープを張って、順番にしたがって列を作るよう呼びかける。しかし、誰も駅員の指示には従っていない。午後3時には、1万人を超える群衆が、駅に入りきれず、駅の周りを取り囲んだ。

 「乗客の安全を確保する」という駅長の判断で、駅のシャッターを下ろすことにした。しかし、インターネットで指定席を予約している客がシャッターをこじ開け、そこから多くの群衆が入っていった。駅の構内から大きな悲鳴が聞こえた。階段ではドミノ倒しが起こった。

 新崎空港にも、群衆が徒歩で押しかけていた。県内の道路の機能はほとんど麻痺していたが、「空港に行けば、定時にたどり着けない予約客のチケットがキャンセルまちのスタンバイで購入できる」-こうした情報がツイッターで拡散したため、こちらも1万人を超える群衆が空港を取り巻いていた。

 「臨時便を出すように、本社に掛け合ってくれよ!」

 と、航空会社の地上勤務職員に、スタンバイで並んでいる群衆が詰め寄っていた。

 「早く、新崎から救出してくれ!」

 「人命にかかわる問題だぞっ」

 口々に群衆が叫ぶ。

 機転を利かせてパスポートを持参した人々は、空席のあったソウル便のチケットを購入できた。ここにとどまって放射能を浴びるより、とにもかくにも、宿のあてはなくても、また言葉が通じなくても、カネをいくら払っても、新崎県を離れるほうがマシだ・・・。

 続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※13回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※11回目の紹介

2014-06-20 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。11回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49)  ※11回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (49)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※10回目の紹介

 正午過ぎから、格納容器の圧が高まっていた。溶け出した核燃料が圧力容器を破壊し、格納容器のコンクリートと反応し、大量の水素と一酸化炭素が発生している証左であった。ベントを行うしかなかった。

 「ベントだ、ベント!」

 と、原子力事業本部長が、画面越しに新崎原発側に指示する。

 「周辺自治体への連絡はどうなっているの?」

 と聞くのは官房長官だ。

 「県はつかまりました。周辺市町村は連絡が取れないところが多く・・・」

 以外にさばさばした表情で、画面越しに所長代理が告げる。

 「県に連絡させたらいいだろ!」

 その表情を見てか、珍しく官房長官が声を高める。

 「周辺諸国はどうしますか?」

 と官房副長官。

 「外務省に適当に連絡させとけ・・・・」

 典型的なたたき上げの経歴を持つ官房長官は、その有能ぶりと総理を支える姿勢が国民に広く評価されていたが、このときその声には、まったく力がこもっていなかった。


 その官房長官は、午後11時、政府・関東電力事故対策統合本部で記者会見を行った。

 官邸と原子力規制委員会と関東電力の三者が、バラバラではなく、ワンボイスで記者会見を行う-これは、フクシマから得られた教訓の一つだった。

 「現在、新崎原発の格納容器の圧力が上昇中であります。したがいまして、準備が整い次第、ベントを実施いたします。これにより、直ちに人体の健康に影響が生じるものではありませんが、念のため新崎原発周辺10キロ圏内の住民銃印には、避難勧告をいたします」

 記者が指名を待たずに質問する。

 「スピーディの予測はどうなっていますか?」

 官房長官の表情には、今も覇気が感じられない。人間の価値は、大きな危機のときにこそ試されるというのに。

 「・・・あとで事務方から提供させますが、現在も、新崎上空は激しい降雪となっておりますので、放射性物質はそれほど拡散せず、降雪とともに原発周辺の地表に到達するものと思われます。フィルターで放射線量は数百分の1から1000分の1にまで低減されております」

 それだけ低減されているとはいえ、降雪とともに地表に到達した場合の汚染度は、住民が立ち退きを余儀なくされる程度である-そのことについては、官房長官は、積極的に言及しなかった。民自党政権の官房長官と同じように・・・。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※12回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※10回目の紹介

2014-06-19 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。10回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49)  ※10回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (49)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(48) ※9回目の紹介

(49)

 新崎原発では、再稼動した六号機・7号機の両方で、核燃料のメルトダウンが進行していた。

 原子力規制庁のシュミレーションでは、電源喪失から一時間後に炉心露出し、メルトダウンが始まり、三時間後にはメルトスルーして圧力容器を破損、その後、格納容器内でコンクリートと溶け落ちた核燃料とが反応して大量の水素と一酸化炭素が発生し、7時間後に格納容器破損、20時間後に建屋の基礎貫通、そして、大量の放射性物質が外部に放出される、と予測されていた。

 再稼動した新崎原発に、最新型の欧州加圧型原子炉のように、格納容器の底部にコアキャッチャーが設置されていれば、メルトダウンした核燃料が冷却設備に導かれて、時間は稼げるはずであった。しかし、最新の規制基準にコアキャッチャーの設置は求められていなかった。

 テレビでも、予定されていた正月番組はすべて取りやめとなり、全チャンネルで原発事故の臨時番組が報道されていた。フクシマの事故を経験した日本のテレビ局には原発事故の知識は相当程度蓄積されていたので、どの局も最速、「安全です」ばかりを繰り返す原子力ムラの御用学者を登場させることはしなかった。

 すべての局で、現在メルトダウンが進行していること、そして間もなくベントが行われるであろうことを伝えていた。

 新崎原発では、新しい規制基準に適合させるため、既にフィルター付きベントの設置が行われていた。施工開始当初は伊豆田知事にばれないよう、秘密裏に工事を行い、知事の逮捕後に工事が完了したことを公表したのだ。

 圧力容器からの上記を、50トンの水を貯蔵した外部タンクに通し、放射性物質を水中で濾過後、排気配管を通じて排気筒から外に出す仕組みだ。放射性ヨウ素やセシウムなどを数百分の1から1000分の1程度に減らせるはずであった。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※11回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(48) ※9回目の紹介

2014-06-18 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

**『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。9回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

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  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

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この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(48)  ※9回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (48)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(48) ※8回目の紹介

 官邸では、午前8時の段階で、原子力災害対策本部が、原子力災害対策特別措置法に基づき、設置されていた。しかし、本部長である総理自らが早々に関東電力に乗り込んだこともあり、参集した各省庁の官僚たちは脱力感に覆われていた。

 五月雨式に政府・関東電力事故対策統合本部から指令が来るが、明らかに、事故対策統合本部と原子力災害対策本部との連携はとれていなかった。

 フクシマの事故の教訓に、電力会社と官邸との意識疎通をよくすることがあった。原子炉のことは電力会社のオペレーション・ルームでないと一次情報は取れない。その一方で、官邸からでなければ、自衛隊、米軍、消防、警察、民間輸送会社等への支持や要請は円滑に進まない。

 フクシマの教訓を踏まえ、事故後すぐに政権幹部が関東電力に乗り込んだのは、原子炉の状況を把握するという面ではよかった。が、原子力発電所の周辺オペレーションが手薄となってしまった。

 周辺オペレーションがうまくいかないと、原子炉の対策も結局はうまくいかない・・・。

 正月というタイミングも悪かった。平常時であれば、省庁から民間企業に電話を一本かければ、国家の非常時ということで、ありとあらゆる物資や解決策のアイデアを提供してくれる。しかし、正月だと、民間企業への連絡は円滑にはとれない。片っ端から代表電話に電話をかけても、正月休み明けの営業時間の案内を、留守電話サービスの音声が繰り返すだけだった。

 平常時には、ディーゼル・エンジンを温めるバーナーがどこにあるか、などということは数時間で回答が来る。しかし、それが正月だと無理だ。事故対策統合本部や官邸の災害対策本部に詰めている電力会社社員や役員の個人的なつながりで、正月休みの民間企業の人に連絡を入れるしかなかった。

 原子力災害という国家の非常事態であっても、普通の民間企業では、電力会社や省庁のように「緊急参集」という動員をかけて、平日と同様、元日から組織を機能させるということは難しい。そういう仕組みも用意されていなかった。


 新崎原発の周辺道路は封鎖されたままだった。

 メルトダウンに怯えた住民は、そのうち、渋滞に嵌った車を捨てて歩き始めた。

 放置された車が、県道、国道、高速道路に溢れた。

 - 新崎原発は、完全に陸の孤島となった。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(49) ※10回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(48) ※8回目の紹介

2014-06-17 21:00:08 | 【原発ホワイトアウト】

**『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。8回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(48)  ※8回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (48)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※7回目の紹介

(48)

 午前10時過ぎには、関東電力の本社のオペレーション・ルームに、総理、官房長官、官房副長官が乗り込んでいた。オペレーション・ルームは新崎原発の中央制御室と、画像と音声でつながっている。

 資源エネルギー庁の日村直史次長もその場に馳せ参じていた。民自党時代の原発事故のオペレーションについては、組織対応ができていない、と野党時代に噛み付いていた保守党であったが、いざ事故が起こると、関東電力や原子力規制委員会に対応を任せ、官邸で報告を待つ勇気はとてもなかった。自然と、誰からともなく、政府・関東電力事故対策統合本部と呼ばれる組織が誕生した。

 「なんで除雪車こないの?」

 と画面に向かって関東電力の社長が尋ねる。

 「わかりません!」

 顔面を紅潮させて、所長代理が答える。原子力発電所の周辺の道路の状況がどうなっているのかなど、発電所では知る由もなかった。

 「ディーゼル・エンジン温めなきゃいかん」

 と、本社の原子力事業本部長が叫ぶ。

 「とにかくすごい寒さで、エンジンがキンキンに冷えているんですよ」

 と所長代理。

 「お湯でもなんでもかけられないの。人肌で抱きついて暖めてみるとかさ、小便かけるとかさ」

 本部長が、まるで、落語のような問いを投げかける。

 「替えのディーゼル・エンジン運ばせよう」と社長、しかし「どこにあるんですかっ?」と周辺から声が上がる・・・。

 非常用電源者は車庫棟にあるが、据え置き型のディーゼル・エンジンの替えが世の中のどこにあるのかなど、誰も想像がつかない。

 「海と空から自衛隊にディーゼル・エンジンを温めるバーナーか何かを運ばせよう」

 と官房長官が叫ぶ。 

 それを受けて、随行した官房長官秘書官が防衛省に連絡を取る。しかし、ディーゼル・エンジンを暖めるバーナーがどこにあるかなどということも誰も想像できない・・・。

 「むしろ、別の原発の電源車を、ヘリで運んだらどうですか?」

 こう、官房副長官が官房長官に言った。 

 すぐに官房長官秘書官が、再度、防衛省に連絡を取った。フクシマの事故の際に、自衛隊や米軍による電源車の空輸を検討するも、重量オーバーにより空輸を断念した経緯があることを、その場にいた誰も覚えてはいなかった。

 そして、新たな規制基準で、外部電源車を各原発に配備させることとした以上、ヘリで空輸するための対策を別途講じているはずがない。それが日本の官僚組織であり、地域独占を許された電力会社の常識であった。

 つまり、電源車を減りで運ぶことができないという状況は、フクシマ以前と何も変わりなかったのである。

 ・・・政権幹部や電力幹部から、いろいろな指示が飛ぶ。が、その指示を実行に移す実働部隊は、正月に押っ取り刀で駆けつけた電力会社の社員たちであった。

 経験したことのない仕事ばかりである。マニュアル通りの仕事しかしたことがない電力会社の社員たちには、指示を実現するための連絡先もわからず、やったこともないオペレーションに戸惑うばかりだった。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(48) ※9回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※7回目の紹介

2014-06-16 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

**『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。7回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47)  ※7回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (47)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※6回目の紹介

 新崎原発でメルトダウンが始まっていると思うと、心臓がせり上がってきて、口から飛び出すような恐怖感を覚える。原発に向かう反対車線には、まったく車が通っていない。皆、原発から少しでも遠くに逃げようとしているのだ。

 後方から一台のバイクが反対車線を平然と逆走し、国道のほうへ走り抜けていった。後ろに子供を二人も乗せた3人乗りだ。ヘルメットもかぶっていない。生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。

 釣られるように、2、3台の軽自動車が、バイクのあとに飛び出していく。その直後、一斉に他の自動車も反対車線を走り始め、一気に車列は前進した。今は、交通法規にこだわっている場合ではない。

 そのまま国道に着くと、県道から来た車の列は、そのままの勢いで、国道の反対車線を逆走して突っ込んでいった。反対車線を走る車が急ブレーキをかけ、スリップを起こし、そのまま逆走した車に激突する。ツルツルに鏡面化した路面では、スタッドレス・タイヤはほとんど制動力を発揮しない。両方向から、次々と後続の車が衝突していった。

 衝突を避けようとしてハンドルをとられた車が、高速につながる車線に突っ込んだ。運悪く、衝突された車のガソリンタンクに着火し炎上する・・・・その後ろでは、次々と玉突き衝突が起きていく・・・。

 性善説に基づいて策定された周辺住民の避難計画には想定されていない事態である。


 新崎原発に最も近いインターチェンジでも、事故が起きていた。

 雪が踏み固められ路面が鏡面化したインターチェンジの出口付近で、官邸の指示を受け、首都圏から向かったタンクローリーが滑り、横転した。漏れた燃料に引火し、インターチェンジの出入口一帯が火の海となった。

地元自治体の消防がインターチェンジに向かおうとしたが、周辺道路は原発から避難する車で一杯で、まったく動かない。消防車がサイレンを鳴らしても、塞がった道路をインターチェンジに向かうことはできなかった。

 高速道路の本線でも、インターチェンジ付近で下りられないことに気づいた車両が速度を落とし、後続に追突される事故が起こった。こうして上下線とも、全面的に通行止めとなってしまった。


 警察から連絡を受けた除雪車も渋滞に嵌っていた。

 いくら電力会社とのあいだで除雪作業の契約があるとはいえ、メルトダウンを起こしている原発に向かうのには、勇気が必要だった。連絡を受けた除雪車の運転手の中には、除雪車を路肩に乗り捨てて、原発から反対の方向に走り去る者もいた。

 単なる民事上の契約しか締結していない民間の除雪業者の従業員に、高い職業論理や決死の覚悟を求めることは酷であった。

 そもそも除雪業者にも、その従業員にも、原発事故に対する心構えができていなかった。国によって「安全」と宣言されて再稼動されているはずだったからだ。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(48) ※8回目の紹介