*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 から何度かに分けて紹介します。21回目の紹介
現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!
「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」
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(カスタマーレビュー)から
救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)
読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。
そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。
「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。
この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。
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★過去に紹介した記事>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧 ※下の方に1回~16回までのリンク一覧あり
【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※21回目の紹介
-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「第4章 落選議員回り」 を紹介-
前回の話:【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※20回目の紹介
【登場人物】
小島 厳 日本電力連盟常務理事 関東電力総務部長を経て日本電力連盟に出向
総額15兆円の売り上げを誇る業界でありながら、その業界団体が法人格すら取得していない・・・これは極めて異例である。日本の自動車、鉄鋼、電気、化学、通信、産業機械といった他の主要な業界団体はすべて法人格を取得しているにもかかわらず、である。
理由は何か?それは、日本電力連盟が外部の介入を過度に警戒しているからである。
公益法人という法人格を取得したとなれば、主務官庁による検査や帳簿閲覧といった監督権が法律上及ぶことになる。実際には、よほどのことがなければ、主務官庁が実質的に公益法人の経営に介入してくることはないが、念には念を入れて、公益法人化を避けているのだ。
電力会社が決して国の補助金を受け取らないのも同じ理由だ。会計検査院の検査が入り、電力会社の秘部に外部の目が届くことを忌避している。国の補助金を受け取ると、政治資金規正法上、政治献金ができなくなることも、電力会社のそうした行動を正当化していた。
電力業界全体が外部に発注する金額の総計はなんと5兆円もある。その上前の上前だけで、日本電力連盟には、400億円もの預託金が使途自由な工作資金として積まれることになる。
このプロセスに1つでも違法な部分があれば、内部告発などが表面化した際には、マスコミや司法当局も触手を伸ばすことが可能であろう。しかし、違法性がない以上、たまに暴露話として、その存在が外部に漏れることはあっても、決して広がることはなかった。
しかも関東電力の取引先は、東栄会からの指示に従って淡々とパーティ券の領収書を処理するだけで、相場より15パーセントも高い取引額を安定的、継続的に享受できる・・・安定して関東電力から仕事を受注する限り、倒産する心配はまずない。経営権争いや女性スキャンダルなどによる内輪もめが起きない限りは、取引先から秘密がばれることはなかった。
そして関東電力自体が、取引先において内紛やスキャンダルが起きていないかどうか慎重にウォッチし、この集金・献金システムに綻びが出ないよう注意していた。
小島という一個人が編み出した集金・献金システムではあるが、誕生したあとは、日本の政治社会を支配するモンスターとして、独自の生命を得たように活動をし始めた・・・。
関東電力はもちろん、その最大の受益者だ。言い換えるならば、関東電力は、国の政策に関して拒否権を持つに至ったともいえる。
たとえば日本は、温室効果ガスの排出量削減について、国が約束した「京都議定書」の削減目標がありながらも、環境税も排出量取引も導入していない唯一の国である。「できないことは約束しない、できることだけ約束する」というのは、個人でも国家でも守らなければならない所作ではあるが、日本が環境税と排出量取引のどちらも導入できていないのは、関東電力が反対をしているからである。
関東電力一社が反対しさえすれば、温室効果ガスの1990年比25パーセント削減を日本国の総理が国際公約として掲げても、それは実現しなかった。
その一方で、このモンスター・システムはもはや関東電力の手を離れ、独自の生命体として、その鼓動を強め始めた。多くの政治家が、この集金・献金システムの稼動を前提に活動をし始めたのである。
こうなると、関東電力の一存で、このシステムを止めるということもできなくなる。システムを編み出したのは小島厳ではあるが、彼の一存ではもちろん仮に電力会社10社の社長全員がこのシステムを止めようとしても、もはや政治との関係で止められない。
政党交付金が表の法律上のシステムとすれば、総括原価方式の下で生み出される電力料金のレント、すなわち超過利潤は、裏の集金・献金システムとして、日本の政治に組み込まれることになったのだ・・・。
こうして、公共事業への国家予算の分配がゼネコンの集金集票との見合いであることや、診療報酬の改定が日本医師会の集金集票との見合いであることと同様に、このモンスター・システムは、日本の政治に必須の動脈となったのである。
近年の構造改革路線で、ゼネコンや医師会の利権が痛めつけられていることからすると、もはや日本では最大最強の利権になっている、と言っても過言ではない。
佐賀では、別の落選議員が小島の前に跪き、キンタマにほおずりしかねない勢いで、彼の訪問を歓迎した。
昔も一度落選経験があり、小島の訪問の意味を理解している。漫然と、薄く広く支援しても、相手にとってありがたみは薄い。国政復帰の可能性がある落選議員に絞って、生かさぬよう殺さぬようにしながら、一番苦しいときにそっと手をさしのべるのだ。
2大政党制といっても、衆議院であれば小選挙区300議席のうち、どんな風が吹いても確実に当選してくる地盤が安定した強い議員は、民自党と保守党ともに50人ずつくらいだ。よく巷では「二世議員は世襲でけしからん」と言われるが、現実には、世襲議員以外の一代で議員になった先生は、むしろ御しやすい。いつ解散・総選挙があるかわからず「常在戦場」といわれる衆議院では、世襲以外の議員は、常にカネの心配ばかりしている、と言っても過言ではない。
カネが弱点であれば、カネで押さえ込めばよい。民意の振り子が振れる時代は、よりカネの影響を及ぼしやすくなる・・・。
-長崎と佐賀、土曜日の午前中だけで、将来的な2票を小島は確保した。
日本電力連盟が預かっている、年に400億円の、わずか0.01パーセントの額で、数年後に民自党に追い風が吹いても、日本電力連盟に逆らうことはない、確実な票を買うことができた。
「脱原発のデモにどんなに人が集まったとしても、今日の午前中の2票ほどの力は持ちえない。世の中はつくづく不平等にできている・・・」
小島はニヒルな笑みを片頬に浮かべながら、随行の副部長に、こううそぶいた。
※「第4章 落選議員回り」の紹介は、今回で終了。
次回は、「第13章 日本電力連盟広報部」を、7月30日から紹介予定です。(記事のUPは21時頃)
民間の会社がつくる任意団体・・・世に知られざる仕事内容は、マスコミの言論を監視することであった・・・
*『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 から、「第4章 落選議員回り」の過去紹介のリンク
【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※17回目の紹介
【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※18回目の紹介
【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※19回目の紹介
【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※20回目の紹介
【原発ホワイトアウト】第4章 落選議員回り ※21回目の紹介
★過去に紹介した記事>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧 ※下の方に1回~16回までのリンク一覧あり