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原発問題

原発事故によるさまざまな問題、ニュース

【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※6回目の紹介

2014-06-15 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

**『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。6回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47)  ※6回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (47)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※5回目の紹介

 「すぐ、逃げるべ」

 そう答える妻も、新崎原発のおかげで、冬の内職をせずに済むようになっていた。

 着のみ着のまま、餅箱や預金通帳を抱えて、一家全員で車に乗り込む。フクシマでは、いまだ帰還困難区域の指定が解除されていないことが、一家の頭をよぎる。

 「ダッフィー、忘れちゃった!」

 と娘が泣き叫ぶ。関東電力の招待で、昨年、東京ディズニーリゾートを訪問したときに父に買ってもらった娘のお気に入りである。

 しかし、ダッフィーのために逃げ遅れるわけには行かない。

 「すぐにダッフィーは迎えに行けるからよ。しばらく家の留守をダッフィーに守ってもらうべさ」

 と父が娘を諭す。が、本当は、いつ戻れるかわからないのだ・・・。

 自宅に近い県道は積雪があったが何とか走ることはできた。しかし、県道をわずか2キロ走ったあたりで、車は早くも渋滞に巻き込まれた。

 実は伊豆田知事は以前、緊急事態を想定して、400人の住民が避難する訓練を行ったことがある。ところが、たったそれだけの人間が一斉に車を動かしただけで、大渋滞が発生したのである。そのときの反省は、今回の避難計画には生かされていなかった。

 ・・・県道の先には国道が、その先には高速道路がつながっている。高速にさえ乗れれば、原発から50キロでも、100キロでも先に逃れることができるだろうに。

 見る見るうちに、後ろにも車の列が並んだ。そのうち列の最後尾は見えなくなった。皆、テレビを見て、慌てて集落から逃げ出してきたのだ。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※7回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※5回目の紹介

2014-06-14 21:00:00 | 【原発ホワイトアウト】

**『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。5回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47)  ※5回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (47)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※4回目の紹介

  新崎原発の施設課長が除雪業者への連絡に腐心していた午前9時、官房長官の緊急記者会見が再度行われた。NHKは正月番組を中断して放送する。

 官房長官から、

 「先ほど午前8時、原子力災害対策特別措置法に基づく原子力災害対策本部を、官邸に設置いたしました。原子炉の冷却につきましては、バッテリー電源から非常用電源への切り替えに向けた作業を行っているところであります」

 との説明がなされた。

 「現在原子炉の冷却は継続できているのでしょうか?」

 本社から出張ってきたのかもしれない。普段は見かけない年嵩の記者が質問を投げかける。

 「現時点では、一時的に、冷却が中断しております・・・」

 官房長官の苦渋に満ちた表情を前に、正月返上で官邸に詰めていた記者たちのあいだに、どよめきが起こる。記者会見室から外に走り出す者や、その場で携帯をかけ始める者も現れた。

 以下、緊迫したやりとりが続く。

 「冷却はいつ再開できる見込みでしょうか?」

 「それについての情報は、まだありません」

 「非常用ディーゼル発電機は、なぜ作動していないのでしょうか?」

 「現在調査中であります」

 「発電所内にある外部電源車は使えないのでしょうか?」

 「現在鋭意作業中であります」

 ・・・・民放の正月番組にも、「新崎原発、冷却一時中断 冷却再開の見通し不明」とのテロップが一斉に流れた。生放送のお笑い番組は中断され、官邸の緊急記者会見に切り替わった。

 「メルトダウンが始まっているということでよろしいでしょうか?」

 「いつ格納容器の外に放射能漏れが起きると予想されますか?」

 「SPEEDIでの予想はいつ公表されますか?」

 「原子力緊急事態宣言ということで理解してよろしいでしょうか?」

 矢継ぎ早に記者が質問を浴びせかける・・・。

 


 寝ぼけ眼で新春のテレビを見ていた新崎県民のあいだに、官邸の記者会見のテレビ中継によって、衝撃が走った。

 原子炉の冷却ができていないということは、核燃料棒のメルトダウンが進行していることを意味する-そのことは、フクシマの三度のメルトダウンを経験した日本国民なら、多かれ少なかれ、誰でも理解できることであった。新崎原発周辺の住民はなおさらである。

 「おい、餅焼いている場合じゃねぇぞ。メルトダウンだ!」

 とテレビを見ていた夫が叫ぶ。新崎原発のおかげで、それ以前の世代のような冬の出稼ぎから解放されて、正月を自宅で迎えられるようにはなっていた。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※6回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※4回目の紹介

2014-06-13 21:01:13 | 【原発ホワイトアウト】

**『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。4回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

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  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47)  ※4回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (47)を分けて紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※3回目の紹介

 午前7時半にバッテリー電源が切れたあと、原子炉の圧は急速に上昇し始めた。俄然、中央制御室の緊張が、原子炉の圧の上昇に比例して、ぐんぐんと上り詰めていった。

 所長代理は、外部電源車の出動を命じた。

 外部電源車は、フクシマの事故の反省から、原子炉のある海岸線から少し離れた高台の車庫棟の中に格納されていた。作業員が外部電源車の車庫棟に向かおうとするが、そこに行く道は、50センチメートル以上の深い積雪に覆われていた・・・・吹雪も強まっていた。

 「車では近づけません!」

 「馬鹿野郎、歩いていけ!」

 現場の作業員と所長代理のあいだで、こんなやりとりが何度も交わされた。

 海岸線から海抜40メートルの高台にある車庫棟へ歩いて近づくのは、雪山登山の様相を呈した。いったんシャーベット状になった積雪は、昨夜からの冷え込みで、カチンカチンに凍結している。アイゼンもピッケルもない状況で、吹雪のなか車庫棟に登っていくのは、遭難の危険も感じられるほどだった。

 「除雪車を呼べ、すぐにだ!」

 中央制御室の所長代理が、必死の形相で施設課長に指示する。その施設課長は除雪業者に連絡を取ったが、業者の事務所の電話は通じなかった。

 しかも、除雪業者の保有する除雪車は、この猛吹雪のなか、幹線道路の除雪にすべて出払っていた。発電所で除雪車の運転手の携帯番号を把握していない以上、業者が捕まらない限りは、連絡を取ることは不可能だった。

 施設課長は110番で警察に連絡をして、除雪車を捕捉し、新崎原発に向かうよう要請した。しかし警察の答えは、幹線道路でも雪による事故が多発しており、それどころではないという、絶望的なものだった。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※5回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※3回目の紹介

2014-06-12 21:14:23 | 【原発ホワイトアウト】

**『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。3回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47)  ※3回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 (47)を分けて紹介 

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(46) ※2回目の紹介

(47)

 「関東地方で大規模な停電が発生、原因は調査中」

 とのテロップがNHKの「ゆく年くる年」の放送の途中に流れたのは、新年を迎える数分前だった。

 停電が起きたのは関東地方の50万世帯だったが、停電を食らった世帯ではテレビでテロップを確認することもできず、不意の停電に不吉な予感を覚えてはいたが、多くの人間はそのまま床についた。たいていの場合、大雪のせいによる停電なのだろう、くらいにしか受けとめられていなかった。


 翌、元日の早朝6時から、官房長官の緊急記者会見が官邸で行われた。

 「昨夜12時前、関東電力の高圧送電線の鉄塔が倒壊する事故があり、新崎原発が緊急停止いたしました・・・現在、原子炉を非常用電源で冷却中であります。

 周辺住民の方々は、冷静に対応願います。この事態によりまして、関東電力の供給区域内で、現在、50万世帯に停電が起きておりますが、順次復旧する見込みであります。」

 緊張した面持ちで官房長官がこう述べる。

 記者から次々と質問が浴びせされる。官房長官は蒼白な顔で、それでも丁寧に答えていく。

 「放射能漏れはありますか?」

 「一切ございません」
 
 「現在原子炉は冷却できているのでしょうか?」

 「非常用電源が稼働中であります」

 「非常用電源の燃料はどのくらい備蓄しているのでしょうか?」

 「所内に一週間分は確保しておりますが、念のため、タンクローリー車による輸送を、官邸から指示したところであります。」

 「鉄塔の倒壊の原因は何でしょうか?」

 「現在調査中です」

 「停電の復旧にはどのくらいかかりますか?」

 「関東電力において、火力発電所の出力上昇を現在、行っておりまして、本日午前中には復旧できる見通し、との報告を受けております」


 新崎原発では、午前7時の段階で、原子炉を冷却中のバッテリー電源の残量がほとんどなくなりかけていた。そのため、非常用のディーゼル発電機を始動させようと、現場の当直の作業員が努力していた。

 前日夕方からの冷え込みは非常に厳しく、気温は、氷点下9.5度に達していた。キンキンに冷え込んでいるためか、ディーゼル・エンジンがかからない。軽油に含まれる成分が気温の低下によって流動性が低くなり、フィルター部で燃料を詰まらせていたのだ。燃料が詰まると、当然、エンジンには燃料がいかない。

 作業員は、エンジンをかけようと焦る。ただ、原子炉についての知識はあるが、ディーゼルエンジンについての基礎知識は欠落していた。作業員にはディーゼル・エンジンが始動しない理由がわかっていなかった。

 新崎原発の所長は、正月休みをとって、東京へ帰省していた。作業員が昨夜から中央制御室につめている所長代理に無線電話で連絡を入れる。

 「ディーゼル・エンジンがかかりません!」

 所長代理が怒鳴る。

 「そんなことあるか、馬鹿野郎!」

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※4回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(46) ※2回目の紹介

2014-06-11 21:31:03 | 【原発ホワイトアウト】

**『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。2回目の紹介  

 現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!

 「政財官の融合体・・・ 日本の裏支配者の正体を教えよう」

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カスタマーレビュー)から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

  「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。

  こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。

  私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。

  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

そして、表紙とびらに引用されたカール・マルクスの次の言葉が本書の内容を言い尽くしていると気づく。

  「歴史は繰りかえす、一度目は悲劇として、しかし二度目は喜劇として」。

この国の統治のあり方を根本的に変えなければ「二度目は喜劇」を防くことができない、と私は考える。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(46)  ※2回目の紹介

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 から紹介

前回の話【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45)

(46)

 大雪が続くなか、金山剛と崔のオヤジが、関東山地から日本海側に連なるエリアの鉄塔の足元にたどり着いたのは、ちょうど「紅白歌合戦」が終わりに近づくころだった。

 吹雪は激しいままで、ホワイトアウトと呼ばれるような、大雪で視界が遮られ何も見えない状況だった。崔がどこからか手に入れてきた暗視ゴーグルのおかげで、金山たちは、なんとか無事に鉄塔までたどり着いたのである。わずかな熱を暗視ゴーグルは感知するのだ。


 金山は、崔のことは詳しくは知らない。半島系の建設会社の社員ということだった。

 もともと突然の父親の逮捕によって新崎原発に左遷されていた金山に近づいてきたが、崔だった。最初は新崎原発の定期検査の二次下請けの社員と電力会社社員という関係であり、顔はお互いに認識していても、立場上は直接、口を利くことすらままならなかった。

 二人が接近したのは、偶然、休日にバイパス沿いのパチンコ屋で出くわしたのがきっかけだった。一回りも年上の崔が金山に飲みに行こうと声をかけ、単身で独身寮にいて無聊をかこっていた金山がそれに応じた。

 崔はなぜか金山の出自や転勤の経緯を知っているようだった・・・最初は少し警戒したが、無骨な顔付きながら、なぜか憎めない崔の人柄にほだされて、金山は今までのすべてを語った。崔もまた、自らが半島に出自を持ち、それゆえに差別もされてきたが、その一方で、同胞から仕事を得ていることを語った。

 二人は、日本社会から疎外され、また、出自からも切り離され、どちらのアイデンティティも失った存在であることを、お互いに確認した・・・自分達の境遇を変えるには、この社会や世界の構造を大きく変えなければならない。そしてそのためには、拠り所が必要だ。崔に勧められるまま、同胞組織の地方支部の活動に金山は参加することになった。

 金山は同胞組織の綱領と規約を承認し、同胞に祝福された。

 その金山は、やがて関東電力を辞職した。左遷され座敷牢で晒し者になるよりも、自分の出自を受け容れてくれ、役割を与えてくれる道を選択したのだ。以後、金山は、今ままでの遅れを取り戻すかのように、同胞組織の活動に誰よりも専念するようになり、誰よりも同胞の指導者に忠誠を尽くすようになっていった。


 崔のオヤジが、手馴れた手つきで鉄塔の基礎の部分にダイナマイトを装着し、発破器をつないだ。

 ダイナマイトは、火薬類取締法で、都道府県知事の許可がなければ入手は不可能ということになっていたが、現実には広く工事現場で使用されており、残余の横流し品を入手することは、カネの手当てさえすれば、そう難しいことではなかった。

「準備完了」とのメールを金山の携帯が着信した・・・南新崎幹線を担当する別の仲間からだ。

「当方も完了。当初の予定時刻に」と、返信する。

 午後11時44分、NHKでは、「蛍の光」の合唱が「紅白歌合戦」で流れ始めるころだ。崔のオヤジが顎をしゃくって金山をうながした。

「共和国は永遠なり!」

 金山はそう叫び、発破器のスイッチを押した。

 轟音が山中にこだました。雷にも似た火花が暗い山中を不連続に切り裂いた。しかしそのとき、金山自身も、頭部に強い衝撃を感じた。

 目の前が閃光に包まれ、何も見えなくなっていた。ホワイトアウトが金山の脳内にも出現していた・・・。

 その隣で、崔のオヤジが中国でライセンス生産されたトカレフを手にしていた。銃口からは煙が上がっている。

「結末」・・・そう、静かに崔はつぶやいた。任務は終了したのだ。

 吉林省朝鮮族出身の崔は、共産党の国家安全部で訓練され、日本の同胞組織に潜入した工作員だったのだ。

 崔はトカレフを金山の右手に握らせ、黒々と開いた弾丸の射入口に銃口を当てた。関東電力に恨みを持った男が送電塔を爆破し、恨みを晴らし、そして清く命を絶った、というわけである。

 尾根をいくつか越えた場所でも、別の日本人の死体が転がっているはずだ。祖国がテロの犯人にされることはない。

「自分の国のど真ん中も守れないのに、尖閣を守れるはずなんてないだろうが・・」

 崔はそう言って片頬で冷たい笑みをつくると、急いで下山の準備にかかった。自分の足跡も、振り続ける雪が消してくれる。特殊な訓練を受けた崔にとっては、もっとも難度の低いオペレーションだった。

 いや、体力さえあれば、日本人の素人でも、送電塔を倒すことなど、実はたやすいことなのである・・・。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(47) ※3回目の紹介

 


【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45)

2014-06-10 22:49:38 | 【原発ホワイトアウト】

**『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽  から何度かに分けて紹介します。**  

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救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。

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  さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」(毎日新聞 10月22日)

読み終わって私は、このままでは本書の予言どおり原発事故は再び起こる可能性が高い、と思った。

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【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45)

-『原発ホワイトアウト』著者:若杉冽 「終章 爆弾低気圧」 から紹介

(45)

 年の瀬は典型的な冬型の気圧配置となった。爆弾低気圧ともいわれる急激な天候の変化が日本列島を襲った。

 12月28日の仕事納めから3日連続で激しい降雪が続き、日本海側の山沿いでは、一気に5メートル超の積雪となった。海沿いは積雪量が少ないと一般的には言われるが、平野部でも積雪は2メートル、海岸線沿いでも積雪は50センチメートルを超えた。

 仕事納めが終わり、発電所の人員も最小限の態勢となった。大晦日の31日、昼時は一時暖かくなり、雪が雨に変わったが、夕方に再び冷え込みが厳しくなると、積雪の上に降った雨の水分が雪を凍らせていった。

・・新崎原発の高台にある、非常用電源者の車庫棟の入り口も、50センチメートルの積雪で埋まり、夕刻からの厳しい冷え込みで、表面が硬化していた。 

 普段であれば、構内で除雪車を稼動させるところだが、正月休みなので、業者は帰してしまっていた。発電所では、東栄会に所属する地元業者と除雪車の稼動を契約しているのだが、当該業者は正月に当たり態勢を縮小させていた。


 この業者は、幹線道路の除雪作業も地元自治体から請け負っていたため、新年を迎えるに当たり、原発の周辺の住民が無事に初詣に行けるよう、幹線道路の除籍を優先していた。

 それでも積雪は、態勢を縮小させた業者の除雪能力を超えていたため、新崎原発周辺の幹線道路は、通行する自動車のスタッドレス・タイヤにより、圧雪路面が磨き上げられ、鏡面のようにツルツルになっていた。

 スパイク・タイヤやチェーンを付けた車が一定程度走っていれば、路面はツルツルに鏡面化したりしないが、新崎県でももう、ほとんどの車が、冬にはスタッドレス・タイヤを使用していた。

 大晦日の夕方は、交通量自体は多くなかったものの、年末年始が故郷や自宅で過ごすために慌ただしく移動する車が多く、路面の状況と相まって、幹線道路や高速道路も軒並みノロノロ運転となっていた。


 新しく公表された規制基準は、テロ対策として、原発そのものを24時間武装した警官で警備することや、いざという場合には自衛隊が出動することなどが定められていたが、原発の敷地外の対策に関しては、一切定めていなかった。

 原発は膨大なエネルギーを発生させるので、つくられた電気を送電線で送り出さなければ、エネルギーが蓄積されることになる。

 仮に、送電線に支障を来し、発電した電気を送り出せないことになれば、原発自体をスクラム(緊急停止)したとしても、外部電源か非常用電源かで冷却し続けない限り、崩壊熱で炉心がメルトダウンする・・・・。

 その送電塔は、電気事業法の定める施設基準に適合するように建てられていたが、送電線などの電線路の基準自体は1964年に法律が制定された当時から大きな見直しはなされていない。特段の技術の進歩もないローテクの分野だからだ。

 東日本大震災の際ににも鉄塔が倒れるといった事故はあったが、電線路の規制基準の見直しという話にはならなかった。あれだけの大地震でも倒れたのは数本だったから、という理屈である。

 仮に見直すということになれば、カネを新たに生み出さない電線路への投資でコストアップということになるし、その影響は全国に波及する。ただでさえ原発の稼動停止で石油・LNG購入のコストアップを迫られていた電力会社としては、できるだけ避けたい投資であった。

 さらに、そういう電線路の施設基準の厳格化といった提案を言い出すインセンティブが、そもそも原子力規制委員会にはなかった。

 なぜならば、原子力の安全規制の部分は、フクシマ事故で経済産業省から独立したが、原子力と関係ない電気工作物については、相変わらず経済産業省の所管のままだったからである。自分の所掌でない事項に対して、行性は常に無策だ。役人が自分の縄張りしか守らないことも、万人が承知している通りだ。

 このように、民間施設としては考えられるすべての防備を施している新崎原発だが、そこから送り出される電気が通る送電塔は、無防備に、むき出しにされたまま、大雪のなかで寒々と立っていた。

 一応、鉄条網で足元には囲いが施され、「立入禁止 高圧電線 危険」との表示はあるが、誰が監視しているわけでもない。

 フクシイマの三度のメルトダウン以降、保安上の観点から、国土地理院の最新電子国土基本図データには送電線の情報が提供されなくなってはいた。しかし、それ以前に発行されていた2万5000分の1の地図には、送電線の位置が正確に記載されていたし、国土地理院も利用者サービスの維持の観点から、引き続き旧式の2万5000分の1の地図をインターネットで提供し、世界中の誰もが、どこからでも、無料で閲覧することが可能となっていた。


 新崎原発で発電された電気は、北新崎幹線と南新崎幹線という二系統の50万ボルトの高圧電線で、それぞれ約200基の鉄塔を介して、関東電力のエリアに送られていた。

 自然災害であれば、二系統のどちらも支障を来すという可能性は著しく低いと評価されていたが、自然災害以外の災害はおこらないという「性善説」に立った考え方であった・・・・。

続き>>【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(46) ※2回目の紹介