「中華民国台湾」は既に国家、日本は台湾の現実を直視せよ
平成国際大学教授 浅野 和生
今から15年前の2005年3月14日、中国は第10期全国人民代表大会第3回会議で「反国家分裂法」を制定した。すなわち、「祖国統一の大業を達成することは、台湾同胞を含む全中国人民の神聖な責務である」とし「台湾独立の分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる」と定めた。
そして習近平国家主席は昨年1月2日、「台湾同胞に告げる書40周年」記念式典の重要演説で、「台湾独立」の分裂活動に対して、「武力の使用を放棄することを約束せず、あらゆる必要な措置を取る選択肢を保有する」と述べ、「反国家分裂法」が生きていることを確認した。ただし「それはあくまでも外部勢力の干渉と極めて少数の『台湾独立』分裂勢力および分裂活動に対するもので、決して台湾同胞を対象とするものではない」と付言した。
<<中国との統一断固拒否>>
去る1月11日の台湾の総統選挙の結果、817万票の史上最高得票で、いわゆる「独立派」の蔡英文総統の再選が決まった。817万人は、14億人の中華人民共和国からみれば「極めて少数」であるかもしれないが、投票者の57%余であって、台湾では堂々の多数派であった。つまり、台湾の民意は、台中接近、さらには台湾の中国統一に、明確な「ノー」を突き付けたのである。
なお、台湾の総統選挙、立法委員選挙の投票時間は、午前8時から午後4時までの8時間だけである。しかも期日前投票その他の投票手続きは設けられていないので、住民票所在地の投票所にこの時間内に必ず出掛けなければ投票できない。その投票率が、台湾の有権者の74・9%だったことは強調しておきたい。
さて、再選を果たした蔡英文総統は、1月14日に英国国営放送(BBC)の単独インタビューに応じた。このインタビューは英語で行われ、John
Sudworth特派員の質問に蔡英文総統が原稿なしに答えて、「今さら独立宣言を発する必要はないと考えている」「我々は既に独立国であり、わが国の名は中華民国台湾であって、我々は政府を持ち、軍隊を持ち、そして選挙を実施している」と明言した。これについて、台湾の総統府公式ホームページ英語版では「we
call ourselves the Republic of China (Taiwan)」と遠慮がちに(
)を付けているが、ネットの動画を視聴する限り「we
call ourselves the Republic of China
Taiwan」としか聞こえない。「我々の国は中華民国台湾だ」である。
蔡英文総統は、16年5月の総統就任前から、中国の主張する「一つの中国」原則を受け入れない立場を貫く一方、「現状維持」を主張して、必要以上に中国を刺激しない姿勢を取ってきた。インタビューでも、中国による「軍事力行使の危険性は排除できない」との認識に立って、自国防衛の準備の必要性に言及しつつ、さらに重要なことは台湾の大義に対して国際的な支持を得ることであるとし、そのため台湾は自らトラブルメーカーにはならないと述べた。実際、国際秩序の現状破壊勢力は、中国であって台湾ではない。
<<“分裂勢力”こそ多数派>>
しかし、今回の総統選挙では、台湾は台湾であって中国ではないという台湾の民意があふれ出した。だから蔡英文総統は、習近平主席に対してこの現実を直視するように求めた。すなわち、「極めて少数の台湾独立勢力」という習主席の台湾認識は完全に誤りで、習主席の言う「台湾独立」の分裂勢力こそが「台湾同胞」の多数派なのである。そして蔡英文総統は「曖昧さはもはや機能しない」との認識に立って、「今さら独立宣言を発する必要がない」「我々は中華民国台湾である」と明言した。民主化を達成した台湾と中国とでは、「平和統一の可能性」は存在しないということである。
蔡英文総統はインタビューで、「中国がこの現実を直視するかどうかがカギだ」と述べた。しかし、中台関係の将来のために、台湾の国家としての存在とその民意を直視しなければならないのは中国だけではなく、日本であり、世界各国である。
<<(あさの・かずお)>>
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台湾の声