「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和四年(2022) 3月11日(金曜日)弐
通巻第7256号
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英国がなぜロシア制裁に一番強硬なのか
宿命の英露関係、それともジョンソン首相のパフォーマンス?
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欧米がロシア金融制裁の目玉としたのはSWIFTからの排除だった。ついで3月10日、BISはロシア中央銀行の参加資格を停止した。ドル交換が事実上止まった。
ヴィザ、マスターというクレジットカード大手が決済ネットを遮断し、はゴールドマンサックスがロシアからの撤退を表明した。
SWIFT排除の中味を見ると、英国だけが「全面」排除。すべてのロシアの銀行と取引を停止した。
SWIFTそのものはズベルバンク、ガスプロムとの取引を続行している。米国はズベルバンク、VTB、オトクリティ、ノビコム・ソブコムとの取引停止としたが、英国はすべてを対象に資産凍結という厳しさ。日本はVTBとバンクロシアなど、EUはオトクリティ、バンクロシアだけが取引停止でズベルバンク、VTB、ガスプロム、ノビコムなどとは取引続行である。英国の全面的資産凍結は際立つ。
同時に欧米はオルガリヒというロシアの新興財閥の資産を凍結した。ロスネフチのイゴール・セチン(CEO)やロマン・アブラモウィッツなどが含まれている。
アブラモウィッツといえば、英国のサッカーチーム「チェルシー」のオーナーで、世界で一番有名なオルガリヒであり、プーチンの政商として肥ったのに、プーチンのやり方を批判した。そうであれば、このロシア新興財閥は西側の味方の筈だが、英国は彼の在英資産を凍結した。アブラモウィッツは豪華ヨットの買い手を探していたが、これも資産凍結の対象とされそうなので、モルディブかセイシェルへ曳航したという情報がある。
まるで干し殺しである。
ロシアのオルガリヒの個人ジェット機による国外逃亡が続き、イスラエルがかなりを受け入れている(『イスラエル・トゥディ』、3月10日)。
つづけて欧米はアエロフロートの経営幹部、USMホールディングのアリシェウ・ウスマノフ、トランスネフチのニコライ・トカレフらオルガリヒ19名の資産凍結、ヴィザ発行差し止め措置を取った。
米英両国は3月8日に、ロシア産原油、ガスの輸入を禁止するとした。バイデン米大統領は全面禁止の大統領令に署名し、即日発効した。バイデンは「アメリカはプーチン(大統領)の戦争の資金支援をしない」と強調した。しかしロシア依存度が高いドイツ、フランス、イタリアなどは見送った。
シェールガスの新規開発は地球温暖化、カーボンゼロの影響を受けて中断しているが、アメリカの原油とガスは国内でまかなえる。そのうえ、米国はシェールガス輸出でも世界一、これを機会に欧州へ売りこみをはかる。米国LNG輸出は60%急伸した。
▼魔女狩りのヒステリーに似てきたのでは?
芸術家に難儀が降りかかった。巨匠と言われる指揮者ヴァレリー・ゲルギエフや、オペラ界のスター、アンナ・ネトレプコら世界的な音楽家たちがプーチンを批判しなかったとして降板を余儀なくされた。こうなると魔女狩り、ロシア批判全体主義とも言える。ロシアにおけるプーチンの人気は69%である。
嘗て日本でも「海ゆかば」で知られる作曲家の信時潔は「反動的な歌」を作曲したとして斯界から追放され、失意の中に埋もれたが、最近復権し、カンタータ「海道東征」が全国で開催されている。
天才画家の藤田嗣治も戦争画を描いたという理由で追放の憂き目にあい、フランスへ渡り、レオナルド藤田として、国籍も仏蘭西に替えた。死後、彼の真価が評価される。とくに秋田県立美術館ロビィに飾られた大壁画「秋田の行事」(縦3.65メートル、横20.5メートル)ほか二十点が常設展示されている。日本の叙情をみごとに描いている。
ワグナーはナチスの理解者だと吹聴され、ながくイスラエルでは禁止だった(10年ほど前から解禁された)。ワグナーは十九世紀の人であり、ナチスとはまったく無縁である。生前の三島はワグナーが好きだった。
フェルトベングラーはナチスと距離を置いた。カラヤンはナチス党員だった。戦後しばらくしてこのふたりは大活躍をした。
この魔女狩りに似たヒステリー症状、過去の風景に似てきた。
令和四年(2022) 3月11日(金曜日)弐
通巻第7256号
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英国がなぜロシア制裁に一番強硬なのか
宿命の英露関係、それともジョンソン首相のパフォーマンス?
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欧米がロシア金融制裁の目玉としたのはSWIFTからの排除だった。ついで3月10日、BISはロシア中央銀行の参加資格を停止した。ドル交換が事実上止まった。
ヴィザ、マスターというクレジットカード大手が決済ネットを遮断し、はゴールドマンサックスがロシアからの撤退を表明した。
SWIFT排除の中味を見ると、英国だけが「全面」排除。すべてのロシアの銀行と取引を停止した。
SWIFTそのものはズベルバンク、ガスプロムとの取引を続行している。米国はズベルバンク、VTB、オトクリティ、ノビコム・ソブコムとの取引停止としたが、英国はすべてを対象に資産凍結という厳しさ。日本はVTBとバンクロシアなど、EUはオトクリティ、バンクロシアだけが取引停止でズベルバンク、VTB、ガスプロム、ノビコムなどとは取引続行である。英国の全面的資産凍結は際立つ。
同時に欧米はオルガリヒというロシアの新興財閥の資産を凍結した。ロスネフチのイゴール・セチン(CEO)やロマン・アブラモウィッツなどが含まれている。
アブラモウィッツといえば、英国のサッカーチーム「チェルシー」のオーナーで、世界で一番有名なオルガリヒであり、プーチンの政商として肥ったのに、プーチンのやり方を批判した。そうであれば、このロシア新興財閥は西側の味方の筈だが、英国は彼の在英資産を凍結した。アブラモウィッツは豪華ヨットの買い手を探していたが、これも資産凍結の対象とされそうなので、モルディブかセイシェルへ曳航したという情報がある。
まるで干し殺しである。
ロシアのオルガリヒの個人ジェット機による国外逃亡が続き、イスラエルがかなりを受け入れている(『イスラエル・トゥディ』、3月10日)。
つづけて欧米はアエロフロートの経営幹部、USMホールディングのアリシェウ・ウスマノフ、トランスネフチのニコライ・トカレフらオルガリヒ19名の資産凍結、ヴィザ発行差し止め措置を取った。
米英両国は3月8日に、ロシア産原油、ガスの輸入を禁止するとした。バイデン米大統領は全面禁止の大統領令に署名し、即日発効した。バイデンは「アメリカはプーチン(大統領)の戦争の資金支援をしない」と強調した。しかしロシア依存度が高いドイツ、フランス、イタリアなどは見送った。
シェールガスの新規開発は地球温暖化、カーボンゼロの影響を受けて中断しているが、アメリカの原油とガスは国内でまかなえる。そのうえ、米国はシェールガス輸出でも世界一、これを機会に欧州へ売りこみをはかる。米国LNG輸出は60%急伸した。
▼魔女狩りのヒステリーに似てきたのでは?
芸術家に難儀が降りかかった。巨匠と言われる指揮者ヴァレリー・ゲルギエフや、オペラ界のスター、アンナ・ネトレプコら世界的な音楽家たちがプーチンを批判しなかったとして降板を余儀なくされた。こうなると魔女狩り、ロシア批判全体主義とも言える。ロシアにおけるプーチンの人気は69%である。
嘗て日本でも「海ゆかば」で知られる作曲家の信時潔は「反動的な歌」を作曲したとして斯界から追放され、失意の中に埋もれたが、最近復権し、カンタータ「海道東征」が全国で開催されている。
天才画家の藤田嗣治も戦争画を描いたという理由で追放の憂き目にあい、フランスへ渡り、レオナルド藤田として、国籍も仏蘭西に替えた。死後、彼の真価が評価される。とくに秋田県立美術館ロビィに飾られた大壁画「秋田の行事」(縦3.65メートル、横20.5メートル)ほか二十点が常設展示されている。日本の叙情をみごとに描いている。
ワグナーはナチスの理解者だと吹聴され、ながくイスラエルでは禁止だった(10年ほど前から解禁された)。ワグナーは十九世紀の人であり、ナチスとはまったく無縁である。生前の三島はワグナーが好きだった。
フェルトベングラーはナチスと距離を置いた。カラヤンはナチス党員だった。戦後しばらくしてこのふたりは大活躍をした。
この魔女狩りに似たヒステリー症状、過去の風景に似てきた。
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