太極拳は中国の伝統身体文化であるから、そこで言われる言葉は中国語である(もちろん!)。
漢字であるから文字を見ればおおよその意味は分かる。。。しか〜しッ!日本語としての理解でいると、思わぬ違い(それも基本的なこと。大きな間違いになる違い)がある。
よく聞かれる言葉に「放鬆(ファンソン)」がある(放松と書くことも)。
最初に太極拳を習い始めると、「力を抜いて」という意味でしきりに言われる言葉だ。
これを単純に力を抜く、緩める、と取ってしまうと、身体全体の芯もだらっと抜けて、「立身中世」も崩れる。丹田にも力(気)が入らない。やがて腰回りやお腹周りが締まりなくだらっとしてきて、歳を取るほど体型が(普通に)崩れてくる(!)。”剛柔相在”ー柔らかさの中に強さもあるのが太極拳なのであります。
日本人が理解している「緩む」の状態は、実は中国的には「散」。バラバラになることを意味する。「散」を避けるとは日本でも指摘されるが、では「鬆」とは何?
鬆(song)は、中国語でも緩むという意味はあるが、空間を空けるとか、ゆとりがある。キツくない。といったニュアンスを含んでいる。硬く結んだ結び目を緩める、ネクタイを少し緩める。ほどくなどなど、バラバラになるのではなくて元はまとまっているのだ。
「鬆」は緩まない。身体の芯はしっかりと立ち上がって力がある。その中に柔らかさ、弾力、膨らみがあることが要求されるのだ。
Wikipediaによると、鬆は、日本語では「す」。「本来は均質であるべきものの中にできた空間をいう」とある。蓮根の孔とか煮過ぎた豆腐にできる気泡のようなもの。いずれにせよ、実体があるものの中にできるゆとり、隙間、空間。。全体が萎むわけではない。
同じように転と旋の違いもある。
「転」は転がる。軸を中心として回転すること。
一方、太極拳や気功は「旋」。回転に方向性が加わることで旋転となる。(足元から)巻き付くように(全身に伝わり)、(足から手に)纏わり付いて、(上下に)伸びていく、(左右に)広がる。。
伝統拳で良く言われる「纏糸勁」は、形としては前腕が内旋・外旋をすることによって掌が外に向いたり中に向いたりするが、これは軸を中心として回転すること。陳式太極拳ではそれに方向性が加わることで「旋」になる。台風とかトルネードの渦巻きをイメージすると分かりやすい。下(足の裏)から湧き上がった渦巻きが背中を通って大きく広がって指先に至る。その中心は柱のように下から上まで繋がっている。これが「旋」。螺旋階段のように柱に巻きつきながら上がっていく感じ。
他にも“拳理”と言われる言葉(大抵は四文字熟語)がいくつもあって、文字面だけを見ると難しくもない(と思ってしまう)が、正く理解するには相当の意識と感覚が必要。四文字熟語大好き!なワタシ的には、言葉の説明は簡単。でもそれを身体の状態で説明するには言葉の真の意味を知り、身体の感覚を認識してそれをもう一度日本語に置き換えるのが必要。でなければ人に指導するにも行き詰まる。指導する立場になっても、勉強はまだまだ続くのであります。
伝統拳は知れば知るほど深い!面白い!!
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