恵比寿のTOP(東京写真)美術館ホールで開催中の「ポーランド映画祭」の一つ、1962年のロマン・ポランスキー監督の映画「水の中のナイフ」。
日本公開は1965年とのことだが、その後の再上映の時に観た映画だ。エッジの効いたモノクロの画面と、どことなくただよう緊張感や孤独、不安感、怯えなどが、モダンジャズのアドリブによって共振されて、美しく強く心に残っている。
主人公は、裕福な中年夫婦と、ヒッチハイクで車に乗せた若者の3人。
若者と中年という世代間ギャップと、成功した裕福な社会人夫婦と貧しい学生という階層間ギャップ。それに中年になった夫婦間の気持ちのギャップが絡み合って、ふとした会話のやりとりからそれぞれの不安、不信、怯え、嫉妬等々がヨットの揺らぎに共振する。
映画は、”若者を死なせてしまった(妻と言い合いになって水に飛び込み探すが、見つけられずにそのまま陸に上がってしまった)”と罪の意識を抱えた夫と、彼が実は隠れていただけだ(夫が飛び込んだ隙にヨットに戻った)ということを知っている妻が、警察に届け出るか何もなかったように家に戻るか、互いの気持ちを探りながら分かれ道で車を止めているところで終わる。
重いロープを何本も束ねて肩に担ぎ、ヨットを広い湖面まで水路を引いていくシーンや、ラストの朝靄がかかったT字路のシーン、凪の昼間にヨットの上で日光浴をする若者を俯瞰で撮影したシーン、風を受けたヨットが水を分けて進むシーン。。。記憶に残っていた通りのいくつもの映像が蘇って、なんだか不思議な気分。
終わって外にでれば、恵比寿ガーデンプレイスの中庭には、バカラのゴージャスなシャンデリアが輝いて、もうすぐクリスマスイルミネーションが始まる夕暮れ前の静かな一時を醸し出している。
思えば、ここ恵比寿ガーデンプレイスは出来た当初は話題を集めた注目のスポットで、ヨーロッパの宮殿風のレストラン「ジョエル・ロブション」に女友達とランチに行ったこともある(その彼女は2年前の秋に亡くなり)。当時は映画館もあって、よく通っていた場所である(映画館は一時休館したが何年か前に再開している)。
そんなせいか、今はひっそりと想い出の中に静かに佇んでいるような風情があって、仕事の人も買い物しているマダムもどことなくゆったりと時間が流れているような雰囲気がある。やっぱり好きだな〜、この場所。
映画が上映された東京都写真美術館では、「愛について」というアジアの写真展も開催中でこちらも観たかったが、このところ、一日に2件の展覧会、映画のハシゴはキツイ(!)ので、夕方のガーデンプレイスに気持ちを残して帰宅。
TOP美術館ホールで11月24日〜12月7日まで上映される「チェコ・スワン」という映画もとっても面白そう!で、きっと来週もまたここに来たいな〜と思った午後でした。
映画「水の中のナイフ」
ガーデンプレイスのバカラのシャンデリア