いせ九条の会

「いせ九条の会」の投稿用ブログです(原稿募集中)。
会の趣旨に賛同される方、メールでご投稿ください。

ワイツゼッカー元西ドイツ大統領の言葉/山崎孝

2006-12-22 | ご投稿
朝日新聞12月20日付に「歴史と向き合う/第5部 真実と和解」というシリーズの記事を掲載しています。今回はワイツゼッカー元西ドイツ大統領へのインタビューでした。その記事を抜粋します。

戦争や虐殺などの「負」の過去を、後の時代に生きる者はどう受け止めたらよいのか。傷つけ合った者同士は、いかにして和解できるのか。戦争終結40年を迎えた85年に、ドイツ(当時西ドイツ)の国民に「過去を直視する」よう訴えたワイツゼッカー元大統領に聞いた。

 一第2次大戦後、ドイツは隣国との和解をどのように進めてきましたか。

 「ドイツの戦後は、隣国との和解とともに始まりました。最初の課題はフランスとの和解です。ドイツはフランスが主導権をとる欧州統合の理念を支持しました。欧州統合にドイツが加わること自体が、和解のステップでした」

 「次のもっとも重要な和解の相手がポーランドでした。

ポーランドは、ロシアとドイツにはさまれ、厳しい運命を味わってきた国です。18世紀には3度にわたる分割で国が消滅し、第1次大戦後、ようやく独立を回復しました。それも20年後には(ドイツの侵攻により)第2次大戦の最初の犠牲者となりました。こうした事情があるからこそ、ドイツとポーランドの和解は決定的に重要でした」

 ―隣国との和解は、達成されたと思いますか。

 「04年5月にそのポーランドが欧州連合(EU)に加わりました。ドイツが国境を接している国が九つありますが、現在、どの国もドイツを恐れていませんし、またドイツを脅かしている国もありません。ドイツがすべての隣国と友好関係にあるのは、史上初めてのことです。もちろん個別の利害の衝突はありますが、それが原因で深刻な対立が生じることはありません」

 ―歴史の「加害者」として反省してきたドイツでは、最近、空襲や戦後のドイツ系住民に対する強制移住など「被害」の経験に光が当てられているようですが、それは和解の妨げになりませんか。

 「『被害』とは、個人的な体験で、それ自体は尊重されるべきことです。ドイツの都市ドレスデンは、連合軍の空襲で破壊しつくされました。

空襲で家族を失った母親は、自分の運命を納得することはできないでしょう。しかし、そうした個人の被害者としての苦悩をドイツが政治的に利用することは許されないと思います。私たちが侵略を始めたことは明白だからです。ユダヤ人を虐殺したホロコーストなどドイツが行ったことを考えると、ドイツ系住民が追放された『被害』を取り上げて、ドイツが(国家として)行った『加害』と比較すべきではありません」(以下省略)

ワイツゼッカー元西ドイツ大統領が語っていることは日本にとっても学ぶことが多いと思います。《ドイツが国境を接している国が九つありますが、現在、どの国もドイツを恐れていませんし、またドイツを脅かしている国もありません。》という言葉に、2005年暮れから2006年の初めにかけて日本の政治家が盛んに言い立てた中国脅威論を思い起こします。非科学的な北朝鮮の脅威論や中国脅威論を国民に浸透させ、その脅威に備える口実で日米同盟を更に強化していく政治路線を推し進めています。財務省の来年度予算原案には、日米のMD計画に関する費用が大きく増額されています。この投資は北朝鮮の非核化が実現すれば、MD計画は大きく有用性が減ずることになるものです。

ワイツゼッカー元西ドイツ大統領は《ドイツはフランスが主導権をとる欧州統合の理念を支持しました。欧州統合にドイツが加わること自体が、和解のステップでした》と述べています。ECからEUに発展していくことになる当初の大元の構想は、フランスとドイツ国境のアルザス・ロレーヌとザール、ルール地方を初めとする地域の両国の石炭と鉄鋼生産を、独立した国際機関にプール管理させるというものでした。この仏独の地域は、その当時はヨーロッパの心臓部ともいえる資源の豊富な所で、戦争の度に両国の争奪戦の的になっていたと言います。これをECからEUに発展していく元となった「ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)」で管理することになりました。

中国は経済発展に伴い不足するエネルギー確保を世界中に求めています。中国の原子力発電所は現在11基稼動していて、その技術はフランス、カナダ、ロシアの原子力発電技術です。12月17日の朝日新聞記事には、中国が新しく建設する原子力発電所4基を、米国の会社に発注すると報道されていました。

中国はエネルギー確保を世界に依存し、エネルギー生産の重要な位置を占めていく原子力発電が外国の技術に依存しているということは、中国が台湾や他国を先制攻撃するようなことをすれば、国際的な指弾を受け、エネルギーの確保に大きな打撃を受けることを覚悟しなければなりません。中国経済の各国との相互依存関係への打撃、エネルギー確保のリスクを背負っても、なお国益になるような中国の戦争があるのでしょうか。

中国は経済を発展させるためにも地域の安定を望んでいます。6カ国協議は再開され、中国の提案した、問題を個別に審議する作業部会の設置が検討されています。金融制裁問題をめぐって米朝はしのぎをけずり会談は難航をしていますが、両国とも席を蹴らず、会談は来年に持ち越しても対話を続ける姿勢です。経済的制裁で問題は解決せず、軍事的解決はまったく合理的ではありません。対話してなんとか妥協して一致点を見出す以外には解決することは出来ません。大本の一致点はすでに確認されています。北朝鮮の安全の保証と引き換えにした北朝鮮の軍事的非核化です。

6カ国協議を成功させれば、東アジアの平和と安定に大きく寄与すると思います。日本政府の日米同盟を更に強化する方向は、東アジアの平和と安定の方向と論理的に矛盾します。