いせ九条の会

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どの方向を向いて闘うか/山崎孝

2006-09-08 | ご投稿
毎日新聞9月8日の電子版の報道を抜粋します。ブレア英首相は7日、来年秋までに退陣する意向を明らかにした。首相が退陣時期を表明したのは初めて。後継首相はブラウン財務相の就任が既定路線とみられている。英労働党史上初めて3期連続で政権を担ったブレア政権は、イラク参戦への批判をかわしきれず、任期途中で退陣に追い込まれることになった。

前党首の急死を受け94年に党首に就任したブレア首相は「ニューレーバー(新しい労働党)」を掲げて97年総選挙で圧勝。20世紀で最年少の43歳で英首相となった。しかし、03年のイラク戦争では米国に追随し、世論の反対を押し切って参戦。開戦の根拠となった大量破壊兵器は戦後も見つからない上に脅威を誇張していた疑惑も浮上し支持を失った。(以上)

ブレア首相はイスラエルのレバノン侵攻問題でも米国へ追従したとして英国民から批判されています。米国のイラク侵略に追従したスペインやイタリアの政党は権力を失っていますが、日本は残念なことに、米国に更に擦り寄っていく政権が誕生しそうです。

そして、自民党総裁・首相の座を確実にしそうな安倍官房長官は、「美しい国へ」で「ここ一番、国家のため、国民のためとあれば、批判を恐れず行動する」という「闘う政治家」を標榜して、米国との同盟は「血の同盟だ」と考えて、海外で自衛隊と一緒に行動している軍隊が攻撃された時は支援しないのはおかしいと考えて、従来の自衛隊の海外活動のあり方を変更したいとする人物です。

更に、今までの政権が踏襲してきた、日本の植民地支配と侵略を反省した「村山談話」を踏襲するかどうか9月7日の記者会見では明言を避けました。これをみればどの方向で戦うかは明らかです。「批判を恐れず行動」といっていますから、政権党への批判は、自衛隊のイラク派遣、首相の靖国神社参拝、国民間の経済格差の拡大を国民の多数は批判していますから、平和を愛する国民、経済的に苦しむ国民のために戦うことはありえないでしょう。おそらく隣国との批判と戦うことでしょう。そして、米国と敵対する国とも戦うのでしょう。

9月7日の記者会見を報道した朝日新聞の記事を紹介します。(前略)安倍氏は会見で「基本的にその精神を引き継いでいく」と、「村山談話」を取り消す閣議決定は行わない考えを強調した。だが談話の中の「植民地支配と侵略」がアジア諸国に損害を与えたという部分については「基本的に歴史家に任していくべきであろう」と評価を明言しなかった。

談話は歴史認識に関する日本政府の基本姿勢を内外に示したものだ。だが、安倍氏は6日の朝日新聞などとのインタビューで談話を自らの政権で踏襲するかどうか明言を避けた。その後、談話の存在は否定しない姿勢は明らかにしたものの、戦争責任につながる「国策の誤り」や「植民地支配や侵略」といった談話の根幹部分の認識を共有するかどうかはあいまいにしたままだ。安倍氏の首相としての歴史観やアジア外交に対する不透明感が高まる可能性がある。

一方、安倍氏は会見で先の大戦について「国民の多くが塗炭の苦しみの中にあり、多くの国々の国民に大きな被害を与えた」としたうえで「そうしたことに対して率直な反省の中で、平和で民主的な国をつくってきたという認識を持っている」と「反省」に言及した。ただ、この認識については「事実について申し上げている。歴史認識とは少し違う」と説明した。

 安倍氏は今年2月の国会審議でも、戦争責任についての認識をただす質問に対して「政府が政府の名において、この長い歴史の中での様々な出来事について、裁判所のごとく定めることが果たして適切だろうかと思う」語っていた。(以上)

安倍氏の述べた事を考えてみます。「多くの国々の国民に大きな被害を与えた」という「事実」を認めた安倍氏の認識は、日本の行為が良くなかったという考え方につながるはずです。それなのに、戦争責任につながる「国策の誤り」や「植民地支配や侵略」といった談話の根幹部分の認識を歴代政権と共有するかどうかはあいまいなのです。「多くの国々の国民に大きな被害を与えた」と「事実」は、国策の誤りであり、「多くの国々の国民に大きな被害を与えた」という結果を招いた原因は、他国の諒解なしに軍隊を派遣して他国で軍事行動を起こした結果なのです。他国政府の諒解なしに軍隊を派遣して軍事行動を起こすことは紛れもない侵略なのです。安倍氏の述べることは全体として論理的に矛盾があります。

歴史の評価を「基本的に歴史家に任していくべきであろう」と言うのは、日本の戦争を記述する場合、避けることの出来ない負の事実を記述することを自虐史観と決めつける歴史家がいることを念頭にいれて、日本の歴史家は二通りの歴史観をもっているから、自らの歴史認識を「裁判所のごとく定めることが果たして適切だろうか」と言い逃れをするのです。

国民の個人という立場であれば、思想信条の自由がありますから、日本の国民のそれへの批判はともかくとして、他国からは国民個人の歴史認識までは批判はされず、外交関係に支障にはならないでしょう。しかし、安倍氏はこのままの趨勢では自民党総裁になり、日本の総理大臣になります。一国の代表者の言動は他国からの批判の対象となり、日本の信用と品格に関ってきます。小泉首相が中東の国でラクダに乗ってはしゃいだことさえ、イスラエルの攻撃で多数の犠牲者を出している最中のアラブの人たちの感情を害して批判されるのです。
歴代政権がアジアに対する「歴史認識に関する日本政府の基本姿勢を内外に示した」村上談話を踏襲すると明言をしないのは、隣国から不信を招き、安倍氏が政権公約に掲げた「中国、韓国等近隣諸国との信頼関係の強化」は難しいものになると思います。