いせ九条の会

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政府として大上段に構えて子供たちに道徳を教える資格を問う/山崎孝

2007-03-31 | ご投稿
朝日新聞3月30日付1面トップ記事は、政府の教育再生会議は3月29日の学校再生分科会(第1分科会)で、「道徳の時間」を国語や算数と同じ「教科」に格上げし、「徳育」(仮称)とする提言する方針を決めた。「教科」になれば、児童・生徒の「道徳心」が通信簿など成績評価の対象になるうえ、教材も副読本ではなく教科書としての扱いになって文部科学省の検定の対象になる、と報道しています。

朝日新聞の記事は、《道徳は現在、小中学校で週1コマ行われている。第1次報告では「我が国が培ってきた倫理観や規範意識を子供たちが身につける」ことを求めており、再生会議で充実策を検討してきた》。第1分科会の主査白石真澄氏(東洋大教授)は《戦前の修身のように先祖返りするのではなく、人としてどのように生きるか、他人をどう思いやるか。命あるものを尊重すること(を教えること)で、環境教育にもつながる。決して全体主義になったり、右になったりするわけではない》と強調した。》と伝えています。

日本人を個々にみれば「他人を思いやり、命あるものを尊重する道徳を持った人たちは居ます。しかし、国家という次元でこの道徳観を培ってきたかを検証しなければなりません。

「新しい歴史教科書をつくる会」の会報「史」は、扶桑社版教科書の改訂版のポイントを「日本を糾弾するために捏造された『南京大虐殺』『朝鮮人強制連行』『従軍慰安婦強制連行』などの嘘も一切書かれていません。旧敵国のプロパガンダから全く自由に書かれている」と述べています。アジアの人たちに2千万以上の犠牲者を出した戦争を「大東亜戦争は自存自衛の戦争だった」と戦争を肯定する立場で記述しています。

このような教科書を2005年の教科書採択時に、自民党各都道府県連組織に「歴史教育の問題は憲法改正、教育基本法改正の問題と表裏一体の重要課題」と位置づけて、教科書の採択をバックアップする通達を出した人物を党の総裁にし首相にしています。論理的には自存自衛のためなら他国の人や自国の人の犠牲は止むを得ないと考える立場の教科書と考えることが出来ます。

また、安倍晋三氏は日本の政治指導者に人道に対する罪を査問した東京裁判に法律的には人道に対する国際法は戦争を行っていた当時は無かったという考えで東京裁判に疑問を呈しています。仮に法律は無かったとしても当時でも、仏教の「不殺生 命あるものを尊重する」倫理観はありました。

3月25日、下村官房副長官が民放ラジオ番組で、「従軍看護婦とか従軍記者はいたが、『従軍慰安婦』はいなかった。ただ、慰安婦がいたことは事実。親が娘を売ったということはあったと思う。だが、日本軍が関与していたわけではない」と、軍の関与を認める「河野官房長談話」の見解を否定し、“国家の責任を割り引こうとする人物”が政府の要職についています。

このような政府の状態が、世界に通じる普遍的な人道観・倫理観を持っているとは思えません。

子どもたちに道徳を教える前に自らの道徳観の歪みを正さなければ“道徳の権威を維持”して「我が国が培ってきた倫理観や規範意識を子供たちに身につけ」させるとは言えません。

日本は明治以降、台湾、朝鮮、中国東北部満州を植民地下して、他国の人たちを抑圧してきました。日清・日露・太平洋戦争を行い人道に悖る政策を実行、戦後もベトナム戦争やイラク戦争で米国が多くの他国の人たちを犠牲にする政策に軍事基地を提供し加担しています。

そして、現在もイラクの人たちを殺傷にする米兵たちを運んでいます。その根拠となる法律の期限が本年7月に切れるのに法律施行期間を延長することを決めています。

「他人を思いやり、命あるものを尊重する」最大の道徳は戦争をしないこと、加担とないことです。二度と戦争を起こさないとした高い倫理性を持つ現行憲法を変えて、外国で戦争が出来るような憲法を考えてはなりません。戦争の教訓から生まれた憲法を変えようとする政治家たちを戴く日本政府は倫理観や規範性を培ってきたといえません。憲法を変えようとする政治家たちは、国家として大上段に構えて子供たちに道徳を教える資格があるかを自問自答しなければならないと思います。

追伸 3月31日の朝日新聞のトップ記事は、《文部科学省は30日、2006年度の教科書検定結果を発表した。地理歴史・公民では、沖縄戦の集団自決をめぐって「日本軍に強いられた」との記述に修正を求める検定意見が始めてついた。今回も、イラク戦争や靖国参拝などについて、政府の見解に沿う記載を求める傾向が続いた。》と報道しています。

この政府の見解は、日本の異常な軍国主義の記述を弱めること、現在の政府の政策を「米英軍のイラク侵攻」を「イラク攻撃」などに修正して、イラク戦争が国際法違反であることを子供たちに教えないようにする。自衛隊が派遣された時期を「戦時中」から「主要な戦闘終結後も武力衝突がつづく」に修正させて、政府の戦争への加担を弱める意図を持っています。これらを見れば政府が人道に対して厳しい倫理性を備えているとはいえません。

「戦時中」から「主要な戦闘終結後も武力衝突がつづく」に修正を加えても、日本政府がイラク戦争を始める前の2003年3月17日に小泉首相が「米国が英国など各国と共同して武力攻撃に踏み切った場合、日本政府としてはこの決断を支持します」と表明した事実は消せません。それに国連活動として国連が戦争を認めるように、国連理事国に日本の経済援助をぶら下げて人の心をお金で買うようなことや、人を殺す戦争への支持を働きかけていた事実も消せません。安倍首相は今でもイラク戦争は正しかったという態度を国会で表明しています。小泉前首相、安倍首相が人道に対して高い倫理性を備えているとは考えられません。子供たちに「他人を思いやり、命あるものを尊重する道徳」を教える資格があるかないかは明白です。