伊佐子のPetit Diary

何についても何の素養もない伊佐子の手前勝手な言いたい放題

映画 東京物語

2023年12月13日 | 映画



2023年、今年は小津安二郎の生誕120周年で、
没後60年だったそうだ。
新聞でもテレビでもたびたび特集を組まれていたのはそのせいだった。
12月12日の誕生日にはNHK BSで「東京物語」の放送があった。


小津の映画は今まで見たことがなかった。
チャンスがなかった。

が、もちろん小津の評判は知っていたし、
世界中の映画人がリスペクトをしていることも、
今でも世界中で小津の映画が公開されていることも知っていた。
一度はしっかりと心して小津映画を見たいとも思っていた。

「東京物語」は世界の映画ベストワンになったこともある。
ちょうどNHKで放送されたので、念願の小津映画を見ることが出来た。
初めて見る小津映画である。
感想を書こうと思うが、小津安二郎に関しては素人なので、
かなり的外れなものかもしれないが・・。




「東京物語」は1953年の作品で戦後まもなく制作された。
モノクロだし、退屈だろうかと思っていたが、
そんなことはなく、どんどん物語が進んで行き、
最後まで一気に見ることが出来た。
家族に関する普遍的な問題を扱っているからだろう。


小津映画といえばローアングルと家族のテーマが有名だ。
「東京物語」もその典型だ。


まず昭和の中ほどの風俗が懐かしいというか。
女性の着ている衣服までが昭和初期のもので、
今見るとエレガントだったり、
(フレンチスリーブに長めのフレアースカートが素敵)
瓦屋根が連なる尾道の風景も昭和を反映していて、
今見ると、今はもう見られない風景かもしれないと思うと、
昭和の時代は良かったと思ったり。

会話も魔法瓶だの、汽車だの昭和の言葉が出て来て、
時代を感じさせる。
女性の服装も、寝る時は寝間着(着物)だったり。
念入りに結われた髪型も時代を反映していた。
制作された時はそれらが普通の情景だったのだろうが、
今となっては昭和中期の風俗描写として貴重なものになってると思った。

ローアングルの画面作りはモンドリアンの絵画のようで、
静謐さを演出していた。


小津は原節子を気に入っていたと思う。
「東京物語」でも唯一良心のある人物を演じていた。

尾道に住む老夫婦が思い立って東京に住む息子や娘に会いに行く。
が、それぞれが独立して自分の生活がある。
小児科医の長男、美容室を経営する長女は忙しくしていて、
両親にかまう暇がない。
戦死した次男のお嫁さんである原節子が老夫婦を厭わず面倒を見る。
しかし・・・
これはどこの家庭でも起こる問題でもある。

子どもが大きくなり、自分の家庭を持ち
そうすると親より自身の家庭や仕事の方が大事になってしまう。
そうした誰もが抱える家族の問題を描いているから、
支持者というか小津ファン?も多いのだろう。


老母の葬儀の場面で、長女が大泣きしたかと思うと、
すぐに母の形見が欲しい、とか、
こう言っては何だけど、と言いつつ、
お父さんの方が先に亡くなった方が良かった、だの言う。
この長女、杉村春子の演技も良いが、
現実主義的というか、ずいぶん薄情なと感じるが、
親の葬儀ではこのような会話はいつの時代でもつきものだ。
死を嘆きつつ、現実の段取りも同時に考える。

こうした身内のいやらしさを生々しく冷徹に描いているからこそ、
この作品が今に通ずる、決して古びない映画である所以だろう。

老父(笠智衆)は次男の未亡人の嫁、原節子の優しさに触れ、
救われる設定で、そこに理想主義的な明るさも見出せる。


老夫婦が東京から尾道に帰って来た時の会話が印象的だった。
「(私たちは)幸せなほうでしたよ」

次男が戦死するという不幸はあったものの、
おおむねよい人生だった、と。
そうした小市民的な幸福、
それは誰もが持ちたいものかもしれないし、
誰もが持っているものでもある。
結局そこに行きつくのだと。

裕福ではなく、仕事をし、働き、そして老いてゆく。
子は自分の思うようには行動してくれない。
家庭に不満はあるが、それでも人生はおおむねそうしたものであると。

極めて日本的で、
日本人にしか理解できない感覚かと思われたこの作品が、
日本国内のみでなく、世界中で受け入れられるようになったのは、
ひとつの家族の問題を描いているものの、
それがしかし誰もが思い当たる、誰もが経験する、
普遍的なテーマであるからだろう。


この作品は小津が48歳の時の作品だそうである。
48歳にしてこれほど家庭の機敏、
様々な年代のキャラクターを描ききれることを脅威に思った。

家族のありよう、庶民の思いや心情、
それは昭和であれ、平成であれ令和であれ、違いはなくて、
根本には変わらないものであって、
だからこそ小津安二郎映画はこれからも世界中で見られ、
評価されてゆくだろう。




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