一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
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人間のストーリー/プロット変換機能について(2)

2005-07-07 00:03:15 | Essay
小生、興味があって、現在「将門伝説」について、いろいろと調べているところです。
結構、広い範囲にわたって「将門伝説」は残っているのね。もちろん、関東が中心なんですが、一番北では青森県北津軽郡から、南が熊本県熊本市に至るまで、各県にあるんです。将門の「天慶の乱」といわれる事件が起きてから、千年以上も経っているのに(いや、経ったから広まったというべきか)、各地に根強く伝えられているというのは、実に驚くべきことでしょう。

その伝説の中に、有名なものとして、首塚にまつわるものがあります。
ご承知とは思いますが、簡単に触れておくと……。

東京都千代田区大手町のオフィス街の真中に、石碑が建っている。これは将門の「首塚」といわれ、京で獄門にあった将門の首を埋葬してある。
今でも、将門の祟りか、不思議なことが起り、この塚を移転させようとすると、関係者に死者や負傷者が出るそうな(関東大震災後の都市計画、GHQの駐車場建設などなど)。
そのためか、周囲のビルでは、この塚に尻を向けた席は作らないといわれる(本当かね?)。

というのが首塚にまつわる「将門伝説」のあらまし。
ここからが、主題の「ストーリー/プロット変換機能」なんです。

前回、Aという事実と、Bという事実とが、相前後して起ると、人間はそこに因果関係(Bという事実を説明する理由)をどうしても読み取ってしまう(多くはAに原因を求める)のでは、という仮説を述べました。
この「首塚」の伝説については、
A: 将門の首は、京で獄門に掛けられた。
B: 将門の首は、現在の大手町に埋められている。
との2つの事実が明らかです。
このケースでは、〈A→B〉という因果関係とは言えないかもしれませんが、何らかのプロットを作り上げる力は働いている。それも、広い意味での「ストーリー/プロット変換機能」と呼びたい。

さて、人びとの想像力(創造力)は、どのように働いたか。
まあ、普通に考えれば、誰か(将門の一党)が、何らかの方法で首を奪い、京から東国まで運んだ、というのが普通でしょう(また、そのような合理的な説も、「首塚伝説」の中には含まれる)。
ところが、人びとの想像力は飛躍しておりまして、首が空中を飛んできた、とするのですねえ。しかも、故郷(現在の茨城県)に帰る途中で、力尽きてここに落ちた、というおまけまでついている。

現在の歴史小説で、これをやったらリアリズムも何もあったものではない(ファンタジーとか伝奇ロマンなら別よ)。
でも、面白い想像力の働かせ方ですね。
一つ、こういう伝説ができると、それに派生した伝説がまた生まれてくる。
「鳥越」という地名に関する話もそうです(台東区にそういう地名があるんです)。
将門の首が、この地にあった丘を「飛び越え」たから「とびこえ」。それが転じて「鳥越」、っていうんですが(いわゆる folk etymology ってやつね)。

結構、面白いでしょ。しかも、文学の根っこにもつながってくる可能性がある。
次回も、続きを述べましょうか?