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映画「ダークナイト」の感想

2008年08月27日 | 映画
バットマンといえば、まず最初に思い浮かんだのは原作コミックの絵でした。
悪を退治する、仮面を着けた闇のヒーロー。
宿敵ジョーカーはピエロのような奇妙なメイクを顔に塗っていて、
いかにも漫画の世界というイメージでした。

でも、この映画を観たら、そんな漫画チックなイメージは払拭されてしまいました。
舞台となるゴッサム・シティの街並みと、闇に包まれたその美しさは、
まるでどこかに実在するようなリアルな景色です。
そして、そのゴッサム・シティを守るバットマンと、宿敵ジョーカーも、
実にリアルな存在として描かれています。

ジョーカーは、メイクこそ不気味ですが、見た目はひ弱な体つきで、爆弾やいろいろな仕掛けを使うのですが、基本的には丸腰です。
バットマンも、仮面で顔を隠し、バットスーツに身を包んでいるのですが、生身の人間っぽさが伝わってきます。
そして二人の闘いは、人間同士の精神と肉体のリアルなぶつかり合いです。

なぜ、この映画が、こんなにリアルに感じられるのか。
それは本作の真髄が、精神の葛藤を描くことにあり、人間の内面の本質に迫っているからだと思います。
爆破やカーチェイスのシーンの迫力は満点で、ハイテク機器を使用した近未来のような作戦には目を見張りますが、それら以上に激しく重いのが心理的な戦いです。
中盤以降は、何度もあるクライマックスに心臓が高鳴りっぱなしで、自分の心臓の鼓動が最大の効果音という初めての体験をしました。

バットマンとジョーカーの他に、バットマンの理解者であり協力者である一人の警官と、正義のリーダーのような地方検事が登場します。
この四人の関係と立場が次々に変化して、それぞれの精神的な葛藤が、ものすごい緊迫感で胸に迫ってきます。
こんなに精神的に揺さぶりをかけてくる映画を初めて観ました。
特筆すべきは、ジョーカーの狂気に満ちた頭脳戦の巧みさでしょう。
しかし、その狂気は、誰の心にもある闇の部分を照らし出しているようで、これもまた実にリアルに感じられ、人間の一面を表していると思います。
そんな狂気が、ゴッサム・シティの総ての人々の内面をえぐり出し、観ている私たちにも究極の選択を突きつけてくるのです。
ジョーカーの犯罪は、まさにゲームを楽しんでいるようで、理由も目的もなく、心情的な理屈は全く通用しない相手です。
そんな狂気と闘うことができるのは、高潔な信念だけなのでしょうか。
バットマンが仮面で隠しているのは正体だけでなく、感情までも仮面で封じているように感じられます。
バットマンの孤独と寂しさは、あまりにも切なく、胸に迫るものがありました。
彼は、なぜバットマンになったのか。
前作の『バットマン・ビギンズ』を未見なので、たまらなく観たくなってしまいました。

バットマンが守った希望の光とは何なのでしょうか。
正義は、ほんとうに実在するものなのでしょうか。
人々が求めているものは、幻想なのでしょうか。