040:粘（村上きわみ）

繰るたびに粘る時間の先々をきれいに錆びてゆけ、沈丁花

039:王子（村上きわみ）

王子的資質そなえた三歳の会釈をのせてバスがゆきます

038:有（村上きわみ）

有り体に言えば泣きそう　はつなつの風にいくつも結び目がある

037:V（村上きわみ）

朝帰りばかりしていたあのころの、チカの Vivienne Westwood

036:船（村上きわみ）

春の手が波をなだめる　あと少し船のつもりでいていいですか

035:過去（村上きわみ）

過去というまるい時間をうちがわにおさめて眠るひだまりの猫

034:岡（村上きわみ）

ゆめにくるおとこの下駄にさそわれて時雨岡に庵をむすぶ

　　　　　　　　　　　※ルビ　時雨岡＝しぐれのおか

033:すいか（村上きわみ）

それは祖父の烈しさなればくろぐろと重きすいかは鉈をもて割る

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※ルビ　祖父＝おじ

032:ルージュ（村上きわみ）

ノワールとルージュだったね（八木くんとチカは（毀れて（夏をのろった

031:忍（村上きわみ）

あれは蛇　あなたの森に忍びこみ深いみどりとまじわるいのち

030:湯気（村上きわみ）

やわらかな湯気をまとったいきものが息ととのえる地上と思う

029:杖（村上きわみ）

もう遠いこころになってわたしたち虎杖の茎くわえてあるく

028:供（村上きわみ）

ぎぃぎぃと啼く鳥がいて六月の供花はどれもこれもむらさき

　　　　　　　　　　　　　　　　　※ルビ　供花＝くうげ

027:消毒（村上きわみ）

肉体は国土にも似て傷口に朝の消毒薬は泡立つ

026:基（村上きわみ）

基準値をはるかにこえる夕闇をからだにいれて持ち帰るひと