055:乾燥（村上きわみ）

カレーズを流れる水のやわらかな時間を啜る乾燥地帯

054:笛（村上きわみ）

しんと冷えた冬の縦笛　そのようなものに吹き込む息をもつひと

053:キヨスク（村上きわみ）

つくづくと明るく淀むキヨスクで今日も購う外つ国の水

052:考（村上きわみ）

柘榴割り虹を歪めてわたくしの男はついに長考に入る

051:熊（村上きわみ）

この森の湿りを踏んでゆきましょう灰色熊の息をたどって

050:確率（村上きわみ）

とおい街の降水確率　あのひとの明日が七割も濡れている

049:礼（村上きわみ）

統べられて（いるふりをして）紺色のくるぶし尖る秋の朝礼

048:凧（村上きわみ）

菱凧を空にあずけて棒立ちのあのひとがわたしの父である

047:ひまわり（村上きわみ）

みつみつと種子ふとらせるひまわりに見下ろされ（ごめんとてもくるしい）

046:設（村上きわみ）

設定の異なる夏をそれぞれが水を湛えた器となって

045:楽譜（村上きわみ）

濃紺の少女ときには泣きながら楽譜に記すつよいことばを

044:鈴（村上きわみ）

様々なみどりを抜けてきた風がさいごに触れる風鈴の舌

043:宝くじ（村上きわみ）

炎天にカンナはげしく咲く夏の宝くじ売り場主任出奔

042:鱗（村上きわみ）

なにひとつ欠けることなく死んだのだ見事な鱗を持つこの魚は

041:存在（村上きわみ）

存在をぜんぶひらいて夕立を待っている　草もわたしも犬も