070:籍（村上きわみ）

かなへびをくわえた猫が横切って　あなたの本籍地はきれいだな

069:呼吸（村上きわみ）

くるまって呼吸あわせて飛ぶもののおなか見上げてしあわせだった

068:踊（村上きわみ）

あるいは父祖の声かもしれず薄闇にひくく流れくる踊り歌

067:葱（村上きわみ）

うちがわに保たれているあかるさを羨しみながら刻む白葱

　　　　　　　　　　　　　　　　　※ルビ　羨＝とも

066:ひとりごと（村上きわみ）

ひとりごとつなげて遊ぶ三歳のうぶ毛をなでるおだやかな風

065:眩（村上きわみ）

花終えた藤の不穏を眩しがる一頭とひとりのゆうぐれは

064:可憐（村上きわみ）

おそろしく可憐な水たまりがあって君がじょうずに飛び込んでいる

063:スリッパ（村上きわみ）

じきにみんな忘れてしまうスリッパの奥にひろがる野原のことも

062:浅（村上きわみ）

それでいてここを浅瀬と思わせるあなたの所作にときおりは倦む

061:＠（村上きわみ）

十代はほころびひかる丸文字で＠アンハッピぃと書きいる

　　　　　　　　　　　　　　　　※ルビ　＠＝アット

060:郎（村上きわみ）

ありぎぬの財津一郎くきやかな櫛目保ちて下手へはける

059:ごはん（村上きわみ）

秋弛む夕べはきはき炊きあがる豆ごはんとはつよい食べ物

　　　　　　　　　　　　　　　　　※ルビ　弛＝たゆ

058:帽（村上きわみ）

つつがなくふるびてゆこう夏帽に秋津しずかにとまらせたまま

057:パジャマ（村上きわみ）

はなはだしい色のパジャマがよく似合うこの男どうしてくれようか

056:悩（村上きわみ）

くぐもりを帯びた異称もふさわしく煩悩鷺は沼田をあゆむ