星空研究Memo

ここは某天文屋の外部記憶装置である。

新星の分布

2012-08-21 16:42:28 | 研究ネタ

della Valle (2003) などによれば新星には二つの種族があると言われている。
つまり、明るくて速い新星は disk に関連しており、暗くて遅い新星は bulge に関連しているらしい。


[自分の中の問題点とか着目点みたいなもの、ざっくばらんに]
彼らの関係論文を眺めていると、例えば銀経でざっくり銀河中心とディスクに分けて
両者の間で t3 の分布傾向が異なるといったことが言われている。
他にも t3 が銀河面の高さ (z) にも依存しているといった指摘もある。
恐らくそれらの傾向は概ね正しいのだと感じるが、
もう少し詳細に評価することも可能ではないかと思われる。

例えば先の銀経で区分された新星というのは一次元のみの情報で
シンプルに galactic center と anti-center に分けられているが、
できれば距離 と z を考慮し、空間的な要素を踏まえたいところである。
# 新星の振る舞いが disk や bulge に関連しているとなると尚更。

あと、T Sco とか RW UMi とか KT Eri など
高銀緯で距離も遠い、disk とも bulge とも関連してなさそうな気がする新星に関して
nova population を考える場合にも、空間的な分類 (bulge, disk, halo への割り振り) は必要かと思う。


[試に bulge, disk, halo に割り振ってみる]
このような割り振りをやる場合、まず新星の距離という要素の信頼性が問われるかと思う。
この点は della Valle らも気にしていて、MMRD じゃなくて nova remnant の視差なんかで
距離が決まっているものをサンプルとして使っている。
が、とりあえずこの点は目を瞑るとして、 bulge, disk, halo に割り振る方法を考えてみる。

銀河系の disk やら bulge の大きさに関しては、Allen's Astrophysical Quantities を参照してみた。
太陽から銀河中心までが... IAU 1985 standard では 8.5 kpc らしいが
この話はなんか色々とあるそうで、とりあえずここでは 8 kpc とする。
それから thin disk が 325 pc、thick disk が 1.3 kpc 。
あと bulge に関してだが、spheroid ってのも含めるとして長径 3 kpc、短径 1 kpc の楕円としてみる。


ポンチ絵でイメージを掴む、その1↑


ポンチ絵でイメージを掴む、その2↑

・halo objects の抽出: |z| > 1.3 kpc とする。
・disk objects の抽出: とりあず d < 5 kpc で |z| < 1.3 とする。
・bulge objects の抽出: 0°< l < 30°と 330°< l < 360°の範囲で、d > 5 kpc, |z| < 1 kpc とする。

新星のリストは Downes et al. (2005) などを参照。
距離は Shafter (1997) や Burlak (2008) などを参照し (MMRD からの算出も多数含む)、そして z を計算。
で、上記の条件でそれぞれ抽出してみたところ... ( 最新の新星はまだ抽出には含んでない)


こんな感じになった。
赤が disk にいそうな新星。
緑が bulge にいそうな新星。
黒が halo にいそうな新星。

色々と突っ込みどころはありそうだが、
こうやって見ると、銀河中心方向の新星でも、実際には disk の新星も多く含まれていそう。

halo にいそうな新星に関しては、銀河中心の向こう側である 10 ~ 30 kpc みたいな所にも存在してるが...
このあたりは個々に距離を吟味したほうが良いだろうか。
銀河中心から太陽側へ -10数 pc とかやたら離れたのもいるので、これらも要検討。

# あと bulge の新星 (緑点) で bulge 領域からはみ出ているのがいる。
# これは抽出条件に問題あり。
# でもバルジの向こう側の disk 新星なんて見えるのか... ちょっと不思議というか違和感もあり。

この続きとしては、
これらの空間的な分類が済んだ後、それぞれスピードクラスや分光分類でどのような傾向があるかを見てみたい。


最新の画像もっと見る

4 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (中島淳一)
2012-08-22 00:36:19
面白いですね。このような傾向がでるということは、明るくて速い新星は金属量の少ない環境で、暗くて遅い新星は金属量の多い環境で生まれるということになるのでしょうか?

そうだとすると、LMC/SMCなんかに現れる新星は、明るくて速い新星が多いのかな?LMC/SMCなんかは、新星のモニターはされてるんでしょうかね?
返信する
Unknown (Iak)
2012-08-22 06:12:16
> 中島淳一さん
コメントありがとうございます。

新星爆発の振る舞い (減光速度) は一般に WD 質量に依存すると言われていまして、さらに重元素量も減光速度に影響するという説もあるので、空間的な分布 (環境) が新星爆発の様子に少なからず効いてくるかと思われます。

今、LMC や SMC でどの程度新天体がモニターされているのかは知らないのですが、LMC 新星の観測例はそれなりにあったと思います。確か M31 で見られる新星と比べると、LMC 新星は明るくて速い新星が多い傾向があるという論文を見たことがありますので、中島さんのご指摘通りかと思います。
返信する
Unknown (中島淳一)
2012-08-22 16:53:42
銀河系に比べるとLMCがmetal poorなのは良く知られていますが、M31とLMCでは、もしかしてM31の方が平均的に、metal poor(もしくは同じくらいの金属量)なのではなかったでしたっけ?僕のカン違いかな?

もし新星の観測が、新星近辺領域の金属量のプローブになるかもしれないということだとしたら、いろんな分野への応用が利きそうで、面白そうかなと思っていました。新星だと遠くまで観測できそうですしね。(そういうことを考えている人も既に沢山いるのかも知れませんけれども。)

このページ楽しみに見ています。
返信する
Unknown (Iak)
2012-08-23 07:14:03
> 中島淳一さん
銀河内での金属量から新星の考察をこれまでやったことがなかったので、色々と的を外したことを言っているかもしれません (+_+;  銀河系や LMC や M31 の金属量についても、これからまず基礎を追って勉強してみようと思います。

なにはともあれ、いつもとは違った視点でコメントが頂けて、とても刺激になっております。誠にありがとうございます m(_ _)m
返信する

post a comment