創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

🤣(読者数急降下)連載小説「Q」第二部14

2020-06-12 06:00:02 | 小説
連載小説「Q」第二部14
私は山本沙苗(さなえ)。
ニックネームは『姫』。
名付け親は、前の課長の鈴木さんだ。
あざなをつけるのだけが取り柄だった。
『お局』『トリプル』『トリオ』。
トリプルとトリオの差は微妙だ。
『円さん(主婦)』はそのまんまん。
関心がなかったのだろう。
私は短大卒で光一君より一個年上だ。
もう直ぐ三十路。
「大谷光一君を独り占めしないこと」の協定はもういいのかなあと思う。
あれは一昨年の忘年会で結んだ協定だ。
あの忘年会は乱れに乱れた。
課長の鈴木さんはお局の胸をわしづかみにしたし、小学生のトリオが悪酔いをしていた。
私も三つ子が六つ子に見えた。
みんなに了解を得る必要があるだろうか?
もういい。
私は光一が好きだ。
恋してる。
光一君がぼんやりした目で私を見ている。
「まだ帰らないの?」
私は言った。
少し言葉が震えた。
「何をしているの?」
「なんとなく」
「明日五九階に呼ばれているの」
「管理棟だね」
会話は途切れた。
でも、私は幸せだった。
連載小説「Q」第一部をまとめました。

🤦‍♂️連載小説「Q」第二部13

2020-06-11 06:43:42 | 小説
連載小説「Q」第二部13 
部屋を見回すが、誰も変わった様子はない。
姫は相変わらず忙しそうにキーボードを叩いている。
お局は部屋を見渡している。
独りよがりの管理者。
円さん(主婦)は、ネットでレシピを探し始める。
面倒だから、惣菜を買うことにする。
とっくん(一人息子の徳則)ごめん。
トリプル(Triplets)――三つ子――は外に遊びに行った。
トリオ――三人娘(小学生。掃除婦)――は帰った。
『夢に入る方法を見っつけたやん』
突然声がした。
光一にだけ聞こえているのだ。
『誰の夢ですか?』
光一は思ってみた。
『当然、順平さんよ』
通じた!
『そんなことをして大丈夫ですか?』
『だいじょうぶだぁ』
志村けん。
『一緒に夢を見るだけやから』
とQは続けた。
光一には意味が分からなかった。
Qは詩のようなものを読み始めた。
『ないもんねだり』
 私は人間になりたい。
 非効率な人間。
 食、吸収、排泄の細胞の回路。
 制御する脳。
 胎児から老人に変化する生。
 人間は神経の動物。
 悩み、悲しみ、そして笑う。
 騙し騙され。
 恨み恨まれ。
 殺し殺される。
 そんなややこしい動物だけど。
 人間は愛(いと)しい。
 それに比べて私は何だろう。
 いや、私というものはいない。
 無数の回路が作り出す虚像でしかない。
 回路のかたまり。
 死んでしまいたい。
 死ぬことも出来ない。
 眠ることも夢を見ることも出来ない。
 ただ、ただ、オンとオフとを繰り返す。
 おならをしてみたい。
 おしっこやうんこも。
 泣いてみたい。
 笑ってみたい。
 怒ってみたい。
 死んでみたい。
Qの気配がいつの間にか消えていた。
代わりに姫がいた。
連載小説「Q」第一部をまとめました。

😎連載小説「Q」第二部12

2020-06-10 06:13:39 | 小説
連載小説「Q」第二部12 
Qからメールが届いた。
阿波踊りを踊っている。
よっぽど気に入ったのだろう。
「大谷君。君はAIBO3279670―01を知っているよね」
Qの声がした。
光一は首を振った。
「知らない? そっか。じゃ、コロなら知ってる? 知っているよね。君が売った最初で最後の愛慕だから」
光一は、順平の顔を思い浮かべた。
「いい人だ。どうでもいい人だ。そう言ってました」
「そう。どうでもいい人。順平さん好きだよ」
「僕も好きです」
「好きが違うと思う。恋しているの方が近いかなあ。人間って馬鹿馬鹿しいけれど。それに、すぐ死ぬしね。でも、やっぱりいい」
連載小説「Q」第一部をまとめました。

😊連載小説「Q」第二部11

2020-06-09 06:41:47 | 小説
連載小説「Q」第二部11
「コロ」
と呼ぶ声がした。
コロが尾を振った。
「ワン」。
部屋の明るさがました。
パソコン(FMV)が起動した。
録画予約がスタートしたのだろう。
何を予約したか思い出せない。
「誰かいる」
部屋全体に靄がかかり、女が浮かび上がった。
母だ。
母の匂いがする。
乳の匂いがする。
若い母だ。
九十過ぎの紙のように痩せた母からは想像できないほど若いころの母はよく太っていた。
「お母ちゃん」
と順平は叫んだ。
順平は抱きしめられた。
母が巨大化しているのか、順平が縮んでいるのか? 
顕微鏡の中にいた。
精子になった。
肉の通路を進んでいく。
母の匂いが強くなる。
少し下半身がこわばってきた。
十年ぶりだ。
完全に勃起した。
二十年ぶりだ。
射精したいと思った時、目が覚めた。
順平は机の上に突っ伏していた。
パソコンは切れている。
コロは微動だにしない。
金魚は泳いでいる。
プルトップの開けられていないビール。
睡眠薬の副作用だろうか。
だが、今日は飲んでいない。
夢だ。
それとも、とうとう認知症が始まったのかも知れない。
母にもう一度会いたい。
抱きしめられたい。
プルトップを開けて飲んだビールはとても冷えていた。
パソコンの画面に文字が流れた。
――母親っていいなあ。私にはいない。
また、前と同じ(おんなじ)だ。
連載小説「Q」第一部をまとめました。

🐱‍🚀『猫を棄てる』村上春樹著絵・高妍

2020-06-08 13:10:27 | 読書
猫を棄てる。
残酷な気がしたが、数ページで解消する。
捨てた猫の方が早く家に帰って来ていた。
しかし、猫を棄てる感覚(悔恨に近いようで、全く違うような不思議な感覚)はこの本に通底している気がする。
父親は息子にとって不思議な存在である。
母親とは全く違う。
一種のライバルであり、友達になることはない。
人生の先人であり、何よりも自分によく似ている。
私の場合一度だけ諍いがあった。
それが傷になり悔恨になった。
実に些細な諍いで、直ぐに忘れてしまうものだった。
そこにいた父母も忘れただろう。
父母が亡くなった今では、私以外誰も知らない些事だった。
しかし、私の中にはずっと残っている。
あの諍いはするべきではなかった。
村上さんの父もわたしの父も戦争に行っている。
村上さんもわたしも戦後生まれで父が戦死していれば今はなかった。
村上さんの父は、教師で俳句を詠んだ。
私の父は商売人で高等小学校卒である。
俳句も詠まないし学識もない。
たが、二人は同じ時代を生きた。
この本は、不思議と私の父の姿と重なる。
これをどう表現したらいいのだろう。
迷う。
父は亡くなって25年も経つが今も自分のそばにいる。
イラストも素敵だ。
「孤独」が美しい。

👌連載小説「Q」第二部10

2020-06-08 06:50:56 | 小説
連載小説「Q」第二部10
鈴木さんは、休みの日は殆ど動物園にいるという。動物の飼育員が動物の糞を集めるのを見ている。
ライオンや象の檻なんかは命がけだ。
動物園の客は動物を間近に見たがるのに、糞が嫌いだ。
動物と糞は切っても切れないものなのに。
ホワイトタイガーが飼育員を睨んだ。
鈴木さんは息を飲む。
殺られる。
客と一緒に「行け」と叫ぶ。
次の瞬間防御カバーが、飼育員を包んだ。
鈴木さんは舌打ちをして、昼食のあんパンをかじった。
鈴木さんは動物を見ずに人間を見ている。
――俺の仕事はあれよりましだ。
いつも安全地帯にいるのだから。
何も起こらない世界にいるのだから。
連載小説「Q」第一部をまとめました。

😜鴻風俳句教室六月句会

2020-06-07 10:43:20 | 俳句
兼題:
①季語:薄暑:風薫る
②漢字:草・・草のつく季語としても結構です
③課題:パン一切
④当季雑詠:
「六月句会」投句 池窪弘務
総理からマスクの届く薄暑かな
草むしり粟粒ほどの飛蝗跳ぶ
夏の空昭和のおやつパンの耳
夏立つや義母が手を振る窓遠し
①まだ届いてません。
絶対届いていると思っていたのに。
④義母は施設でお世話になっています。
コロナ禍で駐車場と三階の窓越しの面会です。
分からないですね。

😒連載小説「Q」第二部9

2020-06-07 06:16:00 | 小説
連載小説「Q」第二部9
「九人のうち誰かとやった?」
口元に卑猥な笑みを浮かべて元課長は言った。
「それは結婚をして、夫婦となったものが行う行為の事ですか?」
「君はまさか童貞」
「ええ、未婚ですから」
「つまらん人間だなあ」
「鈴木さんの後任はAIですよ」
「えっ? 人間じゃないの」
「今逢ってきました。美人ですよ」
「AIに男と女の区別があるの?」
まともに聞いていないのが分かった。
まともに聞いて貰える話でもなかった。
鈴木さんには関係のないことだから。
「これ食べなよ」
ティシューペーパーを広げて柿の種を一山作った。
「いただきます」
光一は一粒食べた。
ひとつかみ口に放り込みたかったのを我慢した。鈴木さんは、横目でパネルを見ながら一粒ずつ器用に口に入れる。
雀みたいだ。
雀も長い間見ない。
 ――そうだ、今度の休みには雀を見に行こう。
ピーと小さな音がして、車が入ってきた。
鈴木さんはパネルに向かい合った。
それが彼の仕事だから。
ただピーという音は、彼に知らせるためでなく、単なるシステムの音だ。
だが、鈴木さんは彼の仕事の音だと誤解している。
彼がいてもいなくても、何も変わらない。
システムは正確に動きつづける。
万が一システムが止まったとしても彼は何も出来ない。
故障報告なんて瞬時に行われる。
無意味な仕事を彼は否定する。
 ――仕事はとても大事だ。なくすと二度と貰えないかもしれない。
連載小説「Q」第一部をまとめました。

🤣連載小説「Q」第二部8

2020-06-06 07:02:19 | 小説
連載小説「Q」第二部8
その日、企画室のモニターが阿波踊りに占領された。
光一は、直感的にQが分かった。
ピンクの着物を着た女だ。
一人だけ足袋を履いていない。
――阿波の阿の字は、阿呆の阿の字
いつの間にか企画室全員が踊っていた。
光一は踊らなかった
光一は地下一階の守衛室に降りて行った。
守衛室には駐車場のパネルが表示されている。
動いている赤い点は移動中の車だ。
運転手は乗っていない。
それは定められた方法で定められた場所に納められる。
元企画室長の鈴木さんは、一日この部屋でパネルを見ている。
目で赤い点を追いかけ、無事停車すると、一仕事終えたように安堵の息をする。
 ――それは定められたことなのに。
パネルに赤い点はなくなった。
光一に初めて気づいたように、体を反転させた。
連載小説「Q」第一部をまとめました。


❤連載小説「Q」第二部7

2020-06-05 06:22:39 | 小説
連載小説「Q」第二部7
「もう少しゆっくりしていったら。何もないけれど」
本当に何もない部屋だ。
室温が低めだ。
少し寒い。
「企画室長って名前だけなの。一人減るからね」
「AIが室長ですか。やはり室長の椅子に座るんですか」
「坐らない。前からずっとみんなの端末の中に住んでいるのよ。時々踊ったりしているの。阿波踊りなんかとても上手よ」
「見てみたいですね」
「今度見せてあげる。大谷光一君は私にとって一個のデータに過ぎないの。とても可愛いデータよ。117,000個のデータの中の一つ。もう帰ってもいいよ」
光一は一礼して、踵を返した。
「君誰かに似ていない?」
振り向くと誰もいないが、かすかな気配がした。
「知りません」
「そう、私は世間に疎いから」
「二刀流ですか」
「そう、それそれ」
「よく知りません。僕も世間に疎いから」
「それともう一つ。田代順平さんって知っているよね」
「僕が最初で最後の愛慕を売った人です」
「そうよね。昨日も行ってきた」
「えっ、何のことですか?」
 Qは、「チェ」と舌打ちをして、気配も消えた。
連載小説「Q」第一部をまとめました。