連載小説「Q」第二部14
私は山本沙苗(さなえ)。
ニックネームは『姫』。
名付け親は、前の課長の鈴木さんだ。
あざなをつけるのだけが取り柄だった。
『お局』『トリプル』『トリオ』。
トリプルとトリオの差は微妙だ。
『円さん(主婦)』はそのまんまん。
関心がなかったのだろう。
私は短大卒で光一君より一個年上だ。
もう直ぐ三十路。
「大谷光一君を独り占めしないこと」の協定はもういいのかなあと思う。
あれは一昨年の忘年会で結んだ協定だ。
あの忘年会は乱れに乱れた。
課長の鈴木さんはお局の胸をわしづかみにしたし、小学生のトリオが悪酔いをしていた。
私も三つ子が六つ子に見えた。
みんなに了解を得る必要があるだろうか?
もういい。
私は光一が好きだ。
恋してる。
光一君がぼんやりした目で私を見ている。
「まだ帰らないの?」
私は言った。
少し言葉が震えた。
「何をしているの?」
「なんとなく」
「明日五九階に呼ばれているの」
「管理棟だね」
会話は途切れた。
でも、私は幸せだった。
連載小説「Q」第一部をまとめました。
私は山本沙苗(さなえ)。
ニックネームは『姫』。
名付け親は、前の課長の鈴木さんだ。
あざなをつけるのだけが取り柄だった。
『お局』『トリプル』『トリオ』。
トリプルとトリオの差は微妙だ。
『円さん(主婦)』はそのまんまん。
関心がなかったのだろう。
私は短大卒で光一君より一個年上だ。
もう直ぐ三十路。
「大谷光一君を独り占めしないこと」の協定はもういいのかなあと思う。
あれは一昨年の忘年会で結んだ協定だ。
あの忘年会は乱れに乱れた。
課長の鈴木さんはお局の胸をわしづかみにしたし、小学生のトリオが悪酔いをしていた。
私も三つ子が六つ子に見えた。
みんなに了解を得る必要があるだろうか?
もういい。
私は光一が好きだ。
恋してる。
光一君がぼんやりした目で私を見ている。
「まだ帰らないの?」
私は言った。
少し言葉が震えた。
「何をしているの?」
「なんとなく」
「明日五九階に呼ばれているの」
「管理棟だね」
会話は途切れた。
でも、私は幸せだった。
連載小説「Q」第一部をまとめました。