連載小説「Q」第二部3
S社は台湾の大手サニー社に吸収された。
犬型ロボットは台湾の老人に人気があった。
営業の秀才達はすぐに台湾語をマスターして台湾勤務になったが、大谷光一は企画室に配置替えになった。
企画室は十一人中九人が女性で、課長と光一だけが男性だった。
その課長の鈴木さんも定年で守衛室に配置換えになり、企画室は光一と九人の女性になった。
「大谷君は、十時に六十階に呼ばれているのね」
姫が声をかけた。
姫はあだ名で、本名は山本沙苗。
内勤になった今もエントランスで出会うが、風のように光一の横をすり抜けていく。
「そうだ。十時だった」
「忘れちゃダメじゃん。縛り首だよ」
そう言って、手鏡で化粧を直した。
「六十階には何があるのか。何がいているのか誰も知らない。もしかして、幽霊がいるかもしれないよ」
姫は鏡の中の自分に喋りかけた。
「幽霊ですか?」
「怖い?」
「見たことないす」
「見たことしか信じないの?」
「まあ、そうすね」
「だから君は愛慕を一つしか売れなかったんだ」
「関係があるの?」
「多分あると思う。愛慕はないものを売るのよ」
姫は光一君はかわいいと思う。
だけど、そこで話を止めた。
光一も話は終わったと思い、抽斗の整理をはじめた。
九人の女子社員は、協定を結んでいた。
――独り占めしないこと。
連載小説「Q」第一部をまとめました。
S社は台湾の大手サニー社に吸収された。
犬型ロボットは台湾の老人に人気があった。
営業の秀才達はすぐに台湾語をマスターして台湾勤務になったが、大谷光一は企画室に配置替えになった。
企画室は十一人中九人が女性で、課長と光一だけが男性だった。
その課長の鈴木さんも定年で守衛室に配置換えになり、企画室は光一と九人の女性になった。
「大谷君は、十時に六十階に呼ばれているのね」
姫が声をかけた。
姫はあだ名で、本名は山本沙苗。
内勤になった今もエントランスで出会うが、風のように光一の横をすり抜けていく。
「そうだ。十時だった」
「忘れちゃダメじゃん。縛り首だよ」
そう言って、手鏡で化粧を直した。
「六十階には何があるのか。何がいているのか誰も知らない。もしかして、幽霊がいるかもしれないよ」
姫は鏡の中の自分に喋りかけた。
「幽霊ですか?」
「怖い?」
「見たことないす」
「見たことしか信じないの?」
「まあ、そうすね」
「だから君は愛慕を一つしか売れなかったんだ」
「関係があるの?」
「多分あると思う。愛慕はないものを売るのよ」
姫は光一君はかわいいと思う。
だけど、そこで話を止めた。
光一も話は終わったと思い、抽斗の整理をはじめた。
九人の女子社員は、協定を結んでいた。
――独り占めしないこと。
連載小説「Q」第一部をまとめました。