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創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

みんな歳をとる

2016-11-14 20:55:11 | 
みんな歳をとる
階段を上がるのか
階段を下りるのか
分からないけれど。
みんな歳をとる
平等に。
それでいいのだと思う。
戦争でちょん切られるなんてごめんだ。
みんな歳をとる。
平等に。
それがいい。

言葉のない村

2016-11-09 14:30:19 | 創作日記
 むかしむかし、おおむかし、言葉のない村がありました。
 だから、とても静かでした。耳を澄ませば、様々な音が聞こえてきます。村人は風の音を聞いたり、川の音を聞いたり、虫の声に耳を澄ましたりして暮らしていました。
 鳥の羽ばたく音、蝶の羽音さえ聞こえました。
 村では人が一人死ぬと、花を供えて、種を一つ植えました。その種から一人生まれます。だから、人数は変わらないのです。
 村人には男女の区別がなく、とても静かな人たちでした。彼等は森の命を呼吸して生きていました。
 一人一人が小さな穴で生活していました。 言葉に代わるのは身振りと瞳です。互いに瞳を覗き込んで言葉のないお話をします。分かると、いつもは白い瞳が青に変わります。瞳には青と白しかありません。
 森に清流があります。彼等は裸で向かい合って、青と白の瞳で交流します。
「よい天気だね」
 と、心に思います。
 相手の心が分かると、白い瞳が青に変わります。
「君は元気?」
 と、返します。
「大丈夫。今日一日一緒に生きましょう」
と、返します。

 村には見えない動物がいます。動物も声を失っています。村人の手が動物を撫でてかわいがります。時々、風のように通りぬけていきます。誰も動物の姿を見た者はいません。
 [ヒカリ]と[カゼ]の二人がありました。二人は幼なじみでした。ものごころついた時から二人で遊んでいました。
 [ヒカリ]が太陽を指さし、次に自分をさしました。[カゼ]の瞳が青に変わりました。[カゼ]が風に揺れる木の葉を指さし、次に自分をさしました。[ヒカリ]の瞳が青に変わりました。
 [ヒカリ]が撫でている動物の背に真っ赤な[アカイハナビラ]を一枚置きました。[アカイハナビラ]は萌えるような夕焼けの色でした。小さな夕焼けは、空中に静止しました。[カゼ]の瞳が青に変わりました。 [カゼ]が撫でている動物の背に白い花びらを置きました。[シロイハナビラ]は蝶のように空中に静止しました。[ヒカリ]の瞳が青に変わりました。
 村には季節がありません。いつも十分な光と風に満ちていました。裸で過ごしても暑くも寒くもありません。
 ある日、村に旅人がやってきました。初めて見る村人以外の人です。旅人が鳥のようにさえずるのが不思議でした。言葉が通じないことを旅人は知りました。彼は一生旅をする人でした。訪れた土地の絵を描き、描き終わるとその地を去るのを繰り返していました。
 [ヒカリ]と[カゼ]は絵に魅せられました。二人の興味を特に引いたのは海の絵でした。
「これは海。みんな海から生まれたんだよ」
 旅人は言いました。でも、村人には、鳥のさえずりのようにしか聞こえませんでした。言葉を知らなかったからです。
 打ち寄せる波。海に沈む夕日。見たこともない水の姿に[ヒカリ]と[カゼ]は興奮しました。旅人は盛んにさえずっていました。意味は分からないが、違う世界があるのだと訴えているように二人は思いました。
 二,三日すると旅人は村を出ました。二人は「海」について何時間も交流しました。この村には何かが欠けていると思いました。欠けているものは村の外にあると思いました。二人は長老の家に行きました。
 村を出る仕草をしました。村を出たいと訴えたのです。
 長老は目を閉じてしばらく考えていました。長い沈黙の後、長老は種を植える仕草をしました。二人は村では死者として扱われ、もう、村に戻ることは出来ません。二人の瞳が青になりました。
 村を一歩出ると、二頭の鹿が二人を見送っていました。鹿は黄金(こがね)色に輝いていました。二人は[アカイハナビラ]と[シロイハナビラ]の姿を初めて見ました。

 二人は旅を進めるに従って、二人だけに通じる言葉を少しずつ持つようになりました。最初にヒカリとカゼという言葉。言葉を一つ持てば、今まで心の中にあった意味を一つ失いました。ヒカリとカゼという言葉を持てば[ヒカリ]と[カゼ]を失いました。
 いつの間にかヒカリは男になり、カゼは女になりました。
 村の外には、森の命はありません。だから、命を奪わなくてはなりません。植物を引き抜き、動物を殺しました。季節の試練も受けました。冬は容赦なく体温を奪いました。動物の皮や草で体を覆いました。二人は旅人の言ったことは嘘だと思いました。「どこにも海はない」ヒカリとカゼは言いました。その時お互いが愛おしいと思いました。自分にはカゼしかいないと思いました。「海」なんてなくてもいい。カゼもそう思いました。自分にはヒカリしかいないと思いました。「海」なんてなくてもいい。
 その時、二人の目の前に海が現れたのです。とてつもなく広い水の世界が。
 ヒカリとカゼは海の見える場所に家を建てました。近くに川があり、水も豊富でした。カゼのお腹がふくれてきました。ヒカリとカゼの子供たちは、二人の言葉を引きつぎました。子供は増え続け、村には言葉が満ちていました。火を使い、道具を作りました。言葉は人と人との交流を容易にしましたが、人をだましもしました。村と村との争いも起こりました。
 ヒカリとカゼは時々言葉のない村を思い出しました。帰りたいとも思いました。あの村にはこの村にないものがあった。
 彼等のずーと、ずーと後の子孫が、言葉のない村を滅ぼすことをヒカリとカゼは想像さえしませんでした。

   了



日本語のために・日本文学全集30 池澤夏樹=個人編集

2016-11-09 14:12:34 | 読書
様々な日本語の文体について書かれた本である。
大変難しいが、パラパラとページをくるだけでも楽しい。
日本語は言葉である。日常の会話も文学も言葉である。
言葉がなければ文学もない。
言葉を文字に置き換える作業に日本人は信じられないほどの知恵を絞った。
表意文字の漢字を取り込み、また、漢字を訓読みにすることにより日本語に取り入れた。
―「春」を「はる」,「北風」を「きたかぜ」と読む類。→大辞林―。
表音文字のひらがな、カタカナ。フリガナという奥の手もある。
日本人は賢い。
話は変わるが、その「言葉」がなかったらという想定で書いた小説がある。
拙著「言葉のない村」である。
突然自分の話しになってごめんなさい。
To be continued 


僕への手紙

2016-11-07 13:39:30 | 
僕への手紙
一歳の僕へ
ボール箱に入れられていた。
十歳の僕へ
よだれたれ。
二十歳の僕へ
二十歳で死ぬと言っていたのに生きている。
三十歳の僕へ
妻が僕を「お父さん」と呼ぶようになった。
四十歳の僕へ
つまらない仕事をしている。
五十歳の僕へ
嫌われないように定年を待つ。
いい人と言われて定年を待つ。
誰かがどうでもいい人と僕のことを言っていた。
六十歳の僕へ
「おじいちゃん」と呼ばれるのにも馴れた。孫にも気をつかう男。
七十歳の僕へ
いつも死を恐れている。
八十歳の僕へ
いつまで生きているのと言われた。
九十歳の僕へ
死んでいる。
百歳の僕へ
知らない人が花を供えてくれた。なんだ君か……。



狩りの時代・津島佑子著

2016-11-03 14:34:42 | 読書
狩りの時代・津島佑子著を読んだ。
巻末に津島 香以さんの
『「狩りの時代」の発見と経緯』があり、
「差別の話になったわ。」
―母がそう言ったのは二〇一五年の暮れ。夏前から新作に取りかかっていた。―
とある。
津島祐子さんの言葉を深読みすると、「差別の話になった」ことが作者にとって不本意のようにもとれる。
作者のテーマは、「不適格者」という言葉である。
あの人は教師には不適格だというが、不適格者という言葉はない。
不適格な者(人)とは、人としての資格がないと言うことになる。
もっともひどい差別語である。
そんな小説を書きながら、それも「差別の話」ねえという作者の嘆きと諦めのように私には聞こえた。
そして、「狩りの時代」は相模原障害者施設殺傷事件として私達の目の前で起こった。

言葉探し

2016-11-02 09:33:37 | エッセイ
「失われた言葉の断片」はかなり好意的に読まれた。
話の展開に引き込まれたという嬉しい感想も戴いた。
ただ、最後の「この男に抱かれてもいいとさえ思った。」の言葉に違和感を覚えた読者が多かった。
推敲では、「この男に抱かれてもいいとさえ思った。私は淋しかった。悲しかった」と言葉を追加した。それからまた言葉探しをしている。
昨晩「助ける」という言葉が浮かんだ。
何度も頭の中で繰り返した。
案の定眠れなかった。
「この男に抱かれてもいいとさえ思った。」→「私はこの男を助けたいと思った。」
とした。文章の場所も変えた。
有賀の腕から血がにじんでいた。彼は気にならないようだ。痛覚もないのか。私はこの男を助けたいと思った
確かに、作者の思うところはぐっと近くなった。
私の中でこの小説はなかなか終わらない。