創作日記&作品集

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連載小説「Q」16

2020-04-24 06:20:45 | 小説
連載小説「Q」16
成人した彼らの子供は同居を望まなかった。
彼らも望まなかった。
二世帯が住むには土地が狭かったし、親も子も戦後の個人主義の中で育っていた。
家制度など無縁だった。
ほとんどの子供は結婚と同時に親元を離れた。実家は結婚までの下宿屋みたいだった。
核家族は核分裂を繰り返し明生団地から出て行った。
三十代中心の世代がローンで家を買い、定年後五年間嘱託で働き、ローンを返し終えた時が六十五歳。
年金生活者になって十五年。
子供の姿は消え、昭和の新興団地は限界集落になっていた。
四十年間往復三時間の通勤に耐えたサラリーマン達は、今は、年金泥棒とまで言われている。
田代順平もその典型的な老人の一人だ。
三十七年間大阪市内の病院薬局に勤めた。
通勤時間は三時間。
二万六千六百四十時間の通勤時間、つまり三年近く車内にいた。
田代順平は昭和21年(一九四六年)大暑の日に生まれた。
ニバブル状態だった。
五年早く生まれたら戦争を背負っていた。
田代順平には何も背負うものがない。
田代順平は、今の世の中には二種類の人間がいると思う。
戦争体験者と非体験者だ。
田代順平は非体験者だ。
母の腹の中にもいなかった。
田代順平の中に戦争はない。
その意味で、令和生まれと一緒だ。
小学校の屋上に焼夷弾が埋まっていた。
田代順平の戦争体験ってそんなもんだ。
連載小説「Q」#1-#10をまとめました。