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創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

二つの出来事

2014-07-14 20:41:57 | 創作日記
病院へ行く途中二つのことがあった。
一つは、行きの乗換駅で待合室から出る時、少女、とても小さかったので小学校低学年だろうが、開けるとゆっくりと閉まる扉を、後から来る僕のため押さえてくれていた。僕はありがとうと云った。
もう一つは、帰りのバス停で突然雨が降ってきた。雨で濡れた椅子を老婆がティシュで吹いて、僕に勧めた。「いいですよ」。僕は云った。老婆は「どうぞ」とまた云った。
バスが来て、行き先の違う僕が先に乗った。僕は小さく頭を下げた。
僕は今「おくのほそ道」を読んでいる。
二つの出来事も「行かふ人」である。
旅で出会う風景、人、そして「枕詞」をよすがとして時を超える古人の姿。
「おくのほそ道」の正体だと思う。
それは最初の数行に書かれている。


アイリス

2014-05-03 16:31:56 | 創作日記
家の前の土手に可愛らしい花が咲きました。
「これ何?」
「アイリスよ」
と妻。
「あの大きいのがジャーマンアイリスよ」
僕はこの方がいいなあ。
アイリスの季語は?
角川俳句歳時記第四版(電子版)にないからパス。
私の俳句修行はここ



「一茶とその人生」・渡邊弘著

2014-03-26 10:08:03 | 創作日記
こころをよむ・NHKシリーズのラジオテキストを購入しました。放送は2014年三月に終了しますが、散歩の友で聞いています。テキストの最初のページに「一茶の俳句の特徴は、芭蕉の「道」、蕪村の「芸」に対して、「生」と表現されることがあります」と書かれています。「生」とは「生命観」とも言えると、作者は繰り返し言及されています。それは、子供であったり、蚊や蚤であったり、草木であったりします。私は、「生活」の「生」もあるのではないかと思います。一茶は生活の為に俳句を作らなければならなかった。生活の糧としての俳句。あちこち渡り歩き、俳句を切り売りする商人でもあった。一茶は超然とした芸術家ではなかった。求道者でもなかった。そこに、厳しい現実が彼を襲う。派閥と戦い、肉親と戦い、子を失い、妻を失い、運命に翻弄される一人の生活者。一茶の俳句の背景には、そんな人間一茶がいつもいるように思います。
一茶が長女「さと」と迎えた正月。初めての家族の喜び。

這へ笑へ 二つになるぞ 今朝からは

「さと」四百日で逝く。一茶親しく見ること百七十五日。半分以上仕事(俳句)をしていたのでしょうね。

露の世は露の世ながらさりながら

私の俳句修行はここ


一コマ小説

2014-03-24 16:09:12 | 創作日記
○ある夜
午前三時頃に目が覚めた。尿意があったが、邪魔くさいのでそのまま寝たら、朝方まで、トイレを探している夢をみた。
○仕事の夢
定年後七年にもなるのに、まだ、時々仕事の夢を見る。その事を妻に話すと、「他に考える事がないからよ」と、言われた。
○犬と猫についての考察
近所で犬が鳴いている。犬はどうして[ワン]としか鳴けないのだろう。猫はどうして「にゃン]としか鳴けないのだろう。たまには、「にゃン」と鳴く犬も「ワン」と鳴く猫もいてもよさそうなのだが。

連載小説トリップ 12回 音の旅 「柳亭(夜)」

2014-03-21 08:56:24 | 創作日記
連載小説トリップ 12回 音の旅 「柳亭(夜)」

 『ジャンヌの肖像』=モディリアーニ

ー作者が誰なのか? モデルは誰なのか? いつ描かれたのか? 全ての分析は無意味に。ただ対峙するだけで、女はあなたに近づいてくるー

 田中さんと僕は、柳亭のカウンター席に腰を下ろした。僕たちを車で送ってくれたウェイターは、「お呼び頂いたら、お迎えに参ります」と言って、ホテルに帰った。
 柳亭は、朝はコーヒー、夜はコーヒーが酒になるだけのシンプルな店だった。アルコールの種類もすくなかった。酒は二種類(熱燗、冷酒)、ウィスキー、焼酎、ビールはそれぞれ一種類だった。
 カウンターは直線的で余分なものがなくすっきりしていた。それに清潔だった。多分人差し指でどこを擦っても埃一つないだろう。僕の部屋みたいに。客は僕たちの他に四人。女二人は僕から二つ席を空けて、男二人は、また、二つ席を空けて腰かけていた。誰もが静かに酒を飲んでいた。会話もなかった。知り合いではないのかもしれない。十席のカウンターでは、最良の配置かもしれない。客が増えれば一席詰める。十席埋まれば誰かが帰る。そんなルールを僕は空想した。
「ホテルに泊まっている四人は観光客です。観光は二日以内ですから、明日帰りますよ」
 田中さんが言った。食堂で見かけた人々だろう。
 マスターは、注文を聞いても頷くだけだった。話しているのは、僕と田中さんだけだった。だから、二人はとても小さな声で喋った。
「町の住民が何人いるのか、私は知りません。だけど、元の町民は誰もいません。みんな、原発が爆発した後にやって来た人間ばかりです」
 僕は、彼らが何故この町にやって来たのか考えた。放射能で汚染された帰還困難な町に。理由はある筈だ。ただ、みんな同じだとは思わない。
「国との約束が一つあるのですよ」
「国との?」
 僕は聞き返した。少なくとも僕は、約束をした覚えがない。父が勝手にしたのだろうか。
田中「不思議ですね。ご存知ないとは。密入国者が一人増えた。アメデオと君と」
僕「父がしたのかもしれません」
田中「お父さんが……。確かに、密入国者はホテルに泊まれませんね」
僕「約束って何ですか?」
田中「子供を作らないということですよ。子孫は作らない。百年もしないうちにこの町には誰もいなくなる」
 マスターがレコードの針を落とすのが見えた。ホテルのロビーで聞いた曲だった。
「シューマンのトロイメライ」
 田中さんは、水割りを一口飲んだ。
「ご存知ですか?」
「知りません」
 僕は素っ気なく答えた。
「素晴らしいピアノ曲でしょう」
「ええ」
 それには全く異存はなかった。僕はピアノを弾いていた女性を思い浮かべた。何故か切ない曲に聞こえた。これは子守歌なのだ。多分的外れだろう。だが、そんな気がした。
「アメデオ君が燈台の灯を入れる頃だよ」
 田中さんは、ぽつりと言った。

写真と俳句 2

2014-02-26 12:55:07 | 創作日記
昨日の芭蕉の俳句「枯枝に烏のとまりたるや秋の暮」は少し?ですね。俳句の先生は多分添削をするでしょう(有名な句らしいので知らないことはないと思いますが)。まず、季語が二つ(枯枝は冬、秋の暮は秋)。「季重ね」は感心しないと勉強しました。次に、5,7,5の7が10で字余り。芭蕉の俳句はとうてい及ばないと思う句が多いのですが、これは? でもやっぱり及ばないですね。「烏のとまりたるや」の語感が素晴らしい。調べてみると、「かれ朶(えだ)に烏のとまりけり秋の暮」の方が流布しているようです。「これなら及ぶ」と思う……。芭蕉は千句ぐらい作っているとのこと、中にはハードルを下げていらっしゃい」と言っているのかもしれませんね。
話は変わりますが、俳句はほぼ無数に作られているのに、同じ句が、ない(多分)のは不思議です。もし、あったら、それは潜在的な記憶のなせるわざだと思いますよ。一茶は2万句も作っている。子規は24000句。高浜虚子は二十万。口から出る言葉がみんな俳句になってしまう。絶対駄句の方が多いですね。5,7,5は無限です。
春風や数打ちや当たる名句かな  「や」、「かな」は切れ字、一句に二つ以上使ってはいけません。
私の俳句修行はここ


連載小説トリップ 11回 音の旅 「モディリアーニ」

2014-02-22 14:19:50 | 創作日記
連載小説トリップ 11回 音の旅 「モディリアーニ」

 『ジャンヌの肖像』=モディリアーニ

ー作者が誰なのか? モデルは誰なのか? いつ描かれたのか? 全ての分析は無意味に。ただ対峙するだけで、女はあなたに近づいてくるー

 控えめな拍手の主はロビーの隅にいた。モディリアーニ。君だ。時を超え、君は海からやって来た。
 それは1年前のことだ。
 真っ暗な浜辺に君はいた。持ち物は旅行鞄一つだった。中に絵の具と絵筆が入っている。
「ここはどこだろう?」
 君は呟いた。そして、
「どこからきたのだろう?」
と。
 君は灯台を見上げた。
 灯台の明かりが砂浜を一瞬照らして消える。そして、また砂浜を一瞬照らす。砂浜に足跡が浮かび上がり消える。
 とにかく足跡を辿ってみよう。
 君はいつの間にか川に沿って歩いている。どこからかピアノの音が聞こえてきた。懐かしい音だ。君は横道にそれる。細い森の道を歩く。小さな明かりが見える。ピアノの音はその建物の中から聞こえてくる。鍵のかかった部屋で、ジャンヌがピアノを弾いている。その部屋のドアを開けることが出来るのは君だけだ。
 建物の中に君は入った。エントランスで君は奇妙な懐かしさを感じる。自分の記憶の中にいるような懐かしさだった。展示室に入るとその気配はもっと濃くなる。壁に飾られている風景画は、彼の描いた物ではないが、とても懐かしい。君は画家であったことを思い出す。奥の部屋のドアーを押す。ピアノの音が止む。ジャンヌが君を見ている。

「アメデオ君だよ」
 田中さんが青年を紹介した。君は手を差し出した。僕は軽く頭を下げた。君は差し出した手をどうしようかと暫く迷っていたが、思いついたように指を鳴らした。
「津波に乗ってやって来たのさ」
 田中さんは笑いながら言った。
田中「灯台に住んでいる」
アメデオ「そう、僕は灯台守ね」
 君はまた指を鳴らした。

連載小説トリップ 10回 音の旅 「ジャンヌ」

2014-02-09 11:27:16 | 創作日記
連載小説トリップ 10回 音の旅 「ジャンヌ」

 『ジャンヌの肖像』=モディリアーニ

ー作者が誰なのか? モデルは誰なのか? いつ描かれたのか? 全ての分析は無意味に。ただ対峙するだけで、女はあなたに近づいてくるー
 
ロビーにあるグランドピアノを弾いていたのは白いドレスの美しい女性だった。
「なんという曲ですか?」
 振り返ると、先ほどレストランで食事をしていた老人が立っていた。
「知りません」
 僕は答えた。音楽のことは何も知らない。
「そうですか。私も音楽に詳しい方じゃないが、いい曲ですね」
 僕も頷いた。老人は見事な白髪だった。血色のいい顔で思ったより若いのかもしれない。
「座りませんか」
 彼はピアノからテーブル一つ離れた席を指さした。
「私は絵描きで田中といいます」
「僕は菊田です。仕事はありません」
 会話がとぎれ、田中さんは僕から目を反らした。そして、腕組みをして目を閉じた。
 ピアノの演奏は突然激しくなった。ピアニストは叩きつけるように弾いた。音は鋭利な刃物になり部屋中に鳴り響いた。突然、僕の背後で音がした。振り返ると女性が床にうずくまり両耳を手で塞いでいた。
「大丈夫ですか?」
 田中さんが素早く立ち上がり女性に近づいた。
「大丈夫です」
 女性は立ち上がった。ピアノはいつの間にか静かな調べになっていた。女性は田中さんにおじぎをして部屋から出て行った。
田中「思い出したんですよ」
僕「なにをですか?」
田中「津波です」
 ピアノの演奏は何事もなかったように続いていた。
「新婚旅行でここに来たそうです。休暇の日数は決まっていたが、行き先は決まっていなかったから、ここのホテルも海も気に入って、ずっとここにいても良いなあと思っていた矢先だったそうです」
「津波ですか」
「ええ、男は未だに見つかってません」
ピアノの音が止んだ。
 ピアニストは鍵盤蓋を閉じて立ち上がりお辞儀をした。立ち上がると、すらりとした長身であるのが分かった。
「ジャンヌです」
「えっ?」
「私たちがそう呼んでいるだけですが。でも、彼女もそう呼ばれるのを嫌がってません」
 控えめな拍手が起こった。僕もそれに合わせた。

連載小説トリップ 九回 音の旅 「地産地消」

2014-02-03 16:19:21 | 創作日記
連載小説トリップ 九回 音の旅 「地産地消」

 『ジャンヌの肖像』=モディリアーニ

ー作者が誰なのか? モデルは誰なのか? いつ描かれたのか? 全ての分析は無意味に。ただ対峙するだけで、女はあなたに近づいてくるー

 レストランのメニューに
local production for local consumption(地産地消)
と書いてあった。僕は牡蠣フライを頼んだ。
ウエーター「パン? ライス?」
僕「パン。一つでいいよ」
 僕は小食だ。出来れば牡蠣フライも付け合わせの野菜も少ない方がいい。でも、そう言う勇気がなかった。
ウエーター「お飲み物は?」
僕「オレンジジュース」
ウエーター「かしこまりました」
 ウエーターが行ってしまってから、フロント係と同一人物だと気づいた。
 レストランにいるのは4人。一人ずつ座っていた。男が二人、女が二人だった。男も女も、老人が一人ずつ、青年が一人ずつだった。彼らは静かに食事をしていた。だから、フォークやナイフがたてる小さな音も聞こえた。
 牡蠣フライはとても美味しかった。今まで食べたどの牡蠣フライよりも美味しかった。食べ終わるのに合わせて、オレンジジュースが目の前に置かれた。
「ネーブルオレンジも地産ですよ。今は旬です」
 ウエーターはそう言って、ウィンクをした。確かに美味しかった。今まで飲んだどのオレンジジュースよりも。多分。
 食事を終えて立ち上がった時、ピアノの音が聞こえた。M美術館で聞いた曲だった。