猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

論語に学ぶ外交理念―12月10日の日本論語研究会での講演のレジュメ

2005-12-13 02:10:23 | 日本論語研究会・論語
12月10日(土)に慶応大学で行われた、田村重信先生主催の『日本論語研究会』での、私の講演内容のレジュメを、リクエストを頂戴したので掲載いたします。よかったらご覧ください。なお、補足説明を(コメント)として足しておきました。


『論語に学ぶ外交理念』    高峰康修

1.目標
・日本外交が持つべき理念を、論語を通して学ぶ。
・逆に、外交という事例を通して、論語について理解を深める。

2.和して同ぜず…「和」の精神
子曰く、君子は和して同ぜず。小人は同じて和せず。(子路13-23)
【字義】「和」…平和、調和→違いを違いとして認める、無理に同じくならない
    →民主主義の精神
「同」…全くひとしくする、そろえる、違いを認めない
    →表面上同じであっても面従腹背の可能性=不和
【事例】歴史認識問題、国家間共同体の設立(EUの歴史、東アジア共同体)

(コメント)
・近隣諸国との歴史認識問題で、無理やり同じ認識にならねばならないと考えるのは、「小人」すなわち、つまらない人間のやることです。
・欧州の共同体形成では、「違いを違いとして認めつつ」という「和の精神」に則って行われてきた時期はうまく行ってきたが、拙速にEU憲法を制定して同化を進めようとして現在はあまりうまく行っていない。
・中国が東アジア共同体を強引に進めようとするならば、「お国の古典に”和して同ぜず”という言葉があるではないか。その精神で行きましょう」と切り返せば、なかなかスマートな外交になるはず。


3.礼を以て之を節せざれば…「和」の限界
有子曰く、礼は之れ和を用て貴しとなす。先王の道これを美と為す。小大之に由れば行はれざる所あり。和を知って和すとも、礼を以て之を節せざれば、亦行はるべからざるなり。(学而1-12)
【訳】有子が言うには、「礼」は「和」の精神を伴ってこそ貴いものだ。昔の帝王の道はこのゆえに美しいのである。しかしながら、小事も大事も全てこの「和」によるとすれば、うまく行かないところがある。和の精神を知って和するとしても、「礼」によってこれに折り目をつけなければ、万事がうまく行くということはないのである。

【字義】「礼」…①人のふみ行うべきのり、礼義
        ②作法
        ③儀式
        ④国家社会の秩序を維持する組織やおきて
・ここでは、①と④が重要。①は「義」に通じ、④は「国際法」「国際的な大義」と解釈できる。
・cf 「義」…①正しい、道にかなっている ②人のふみおこなうべき正しい道→「礼」にほぼ同じ意味を持つ  
【事例】チェンバレンの対独宥和政策、北朝鮮問題

(コメント)
・違いを認めて「和する」といっても限界があるわけで、例えば、チェンバレンの対独宥和政策は、あえて道徳的に説明すれば、ベルサイユ条約に違反して再軍備と軍拡を進め「礼=義」に反したナチスドイツを放置した結果、第2次大戦を引き起こした。日本も、対北朝鮮政策では同じ過ちを犯すべきではない。


4.以直報徳…「義」と平衡感覚の重要性
或ひと曰く、徳を以て怨みに報ゆるは如何。子曰く、何を以てか徳に報いん。直を以て怨みに報い、徳を以て特に報ゆ。(憲問14-35)
【字義】「直」…曲がっていない、まっすぐ、正しい
・ cf 「義」…①正しい、道にかなっている→「直」に同じ
【解釈】「義」の重要性、平衡感覚の重要性を説いていると解せられる。
外交を考える際は、義とは「legitimacy=正当性→相対的正しさ、説得力」→ジョゼフ・ナイの「ソフトパワー」
個人の行いにおいては、義とは「righteousness=正義、絶対的な正しさ」と理解するほうがよい。
【事例】蒋介石の「以徳報怨」、対テロ戦争・イラク戦争における大義論争

5.語るべき相手と語るべし…「知」の重要性
子曰く、道同じからざれば、相為めに謀らず。(衛霊公15-39)
【解釈】「道」…拠って立つ価値観、根本的な原理原則
逆に言えば「道同じなれば、相為めに謀るべし」
【示唆する所】自由主義、民主主義の価値を共有する国々と連携せよ。
【事例】再び、国家間共同体について→理念を共有できない国々(例えば独裁国家)とは連携不可能

子曰く、与に言ふ可くして、之と言はざれば、人を失ふ。与に言ふ可からずして、之と言へば、言を失ふ。知者は人を失はず、亦言を失はず。(衛霊公15-7)
【注釈】・人を失う…ともに語るべき相手を逃してしまう、言を失う…言葉が無駄になる
・外交では「人を失う」「言を失う」どころか「国を失う」
【事例】日米同盟

(コメント)
日本にとって米国は「ともに語るべき相手」に他ならない。世界戦略を共に語り、それに整合性のある形で、米軍再編問題に取り組んでいかねばならない。


6.まとめ
・日本の伝統:
以和為貴(十七条憲法)…和の精神
旧来ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道(=義)ニ基クヘシ(五箇条御誓文)…義の重視

・2.~5.の内容を実践→「品格と知性ある」といえる。
個人がそれらを実践→「品格ある国家、品格ある外交」

(コメント)
・「和の精神」を尊重し、なおかつ「義」を忘れないというのは、日本人の伝統的価値観として、新奇なものではない。民主主義なのだから、各人がこれらの価値観を正しく認識して実践することが、「品格ある日本国による品格ある外交」につながる。


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