中国は靖国問題を棚上げにした。こういう説を聞いたら大方の読者はなかなか信用しないことと思うが、月刊誌『月刊日本』5月号に、日中問題研究家で中国出身の石平氏がそういう趣旨の論文を寄稿しており、首肯すべき点も大いにあるのではないかと思い、概要をご紹介したいと思う。
氏が注目しているのは、今年3月31日の「重要講和」と位置づけられる胡錦涛国家主席の談話である。これは、訪中した日中友好団体との会談において出されたものだが、その中に「A級戦犯が合祀されている靖国神社を日本の指導者たちがこれ以上参拝しなければ、首脳会談をいつでも行う用意がある」との文言がある。氏は、この講和を解読する際に「何を言ったか」ではなく「何を言わなかったか」に注目せよと言う。すなわち、「靖国参拝問題の解決が日中関係改善の前提である」という従来からの主張がひそかに消えているということである。首脳会談を行わないということと、日中関係改善を行わないということでは、全く意味合いが異なる。そして、「重要講話」においては、「広範囲における双方の交流と協力を積極的に推進したい」との方針を示して、むしろ関係改善に意欲を示しているのである。ここで注意すべきことは、関係改善と靖国問題解決は一切関係付けられていないということである。結局のところ、日本の指導者が靖国参拝を実施しても、日中関係に及ぼす影響は「首脳会談の停止」の一点に絞られることになったのである。
さらに、以上のような方針転換は、日本で高まる中国脅威論に警戒し、それに対処することが余程重要だと認識し始めたからであると、氏は分析する。談話の中で「中国を武力で他国を威圧する意思はない」「中国の発展が脅威であるとの見解には何の根拠も無い」「中国はこれからも平和の道を行く」と述べた。訪中した日中友好団体には中国脅威論を唱えるものは一人もいなかったにも関わらずである。靖国よりも中国脅威論を打ち消すことに関心事が移り、靖国問題一点張りではなくて幅広い交流と協力を積極的に推進しようとする現実路線に転換せざるを得ないという氏の分析には、一定の説得力があると思う。
そうであるならば、氏の言うとおり「たとえポスト小泉の日本の指導者は引き続き靖国参拝を継続した場合にしても(中略)胡錦涛主席に会えるのか会えないのか、というそれだけのこと」である。「講話」の意図を読み違えて「靖国問題を何とかしなければならない」という強迫観念にとらわれて政治家が行動すれば、むしろ日中関係の発展にとっての不幸であろうという結論は傾聴すべきものだと思う。ここからは私の意見だが、その先に続く論理は、中国脅威論をこちらが強調することは、中国に対して日中関係を改善させる梃子になることに他ならないということになろう。
なお、以前に『中国研究者が論評―「歴史問題を日中関係の基礎にするな」』という記事を書いた。その中で、中国側に何らかの意図があるのかどうか見きわめる必要があると指摘した。石平氏の分析が正しければ、その記事で取り上げた中国の研究者の論文は、方針転換を示唆していたと言える。もちろん、一人の日中問題研究家の分析だけで結論付けるのが軽々に過ぎることは承知している。今後ともいっそうの注視が必要であることは言うまでもないし、靖国参拝問題・歴史認識問題で「譲歩」すべきでないことに何ら変わりはない。
(参考文献)
「中国は靖国問題を棚上げにした!!―胡錦涛の対日「講話」の底意識―」石平(『月刊日本』2006年5月号所収)
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氏が注目しているのは、今年3月31日の「重要講和」と位置づけられる胡錦涛国家主席の談話である。これは、訪中した日中友好団体との会談において出されたものだが、その中に「A級戦犯が合祀されている靖国神社を日本の指導者たちがこれ以上参拝しなければ、首脳会談をいつでも行う用意がある」との文言がある。氏は、この講和を解読する際に「何を言ったか」ではなく「何を言わなかったか」に注目せよと言う。すなわち、「靖国参拝問題の解決が日中関係改善の前提である」という従来からの主張がひそかに消えているということである。首脳会談を行わないということと、日中関係改善を行わないということでは、全く意味合いが異なる。そして、「重要講話」においては、「広範囲における双方の交流と協力を積極的に推進したい」との方針を示して、むしろ関係改善に意欲を示しているのである。ここで注意すべきことは、関係改善と靖国問題解決は一切関係付けられていないということである。結局のところ、日本の指導者が靖国参拝を実施しても、日中関係に及ぼす影響は「首脳会談の停止」の一点に絞られることになったのである。
さらに、以上のような方針転換は、日本で高まる中国脅威論に警戒し、それに対処することが余程重要だと認識し始めたからであると、氏は分析する。談話の中で「中国を武力で他国を威圧する意思はない」「中国の発展が脅威であるとの見解には何の根拠も無い」「中国はこれからも平和の道を行く」と述べた。訪中した日中友好団体には中国脅威論を唱えるものは一人もいなかったにも関わらずである。靖国よりも中国脅威論を打ち消すことに関心事が移り、靖国問題一点張りではなくて幅広い交流と協力を積極的に推進しようとする現実路線に転換せざるを得ないという氏の分析には、一定の説得力があると思う。
そうであるならば、氏の言うとおり「たとえポスト小泉の日本の指導者は引き続き靖国参拝を継続した場合にしても(中略)胡錦涛主席に会えるのか会えないのか、というそれだけのこと」である。「講話」の意図を読み違えて「靖国問題を何とかしなければならない」という強迫観念にとらわれて政治家が行動すれば、むしろ日中関係の発展にとっての不幸であろうという結論は傾聴すべきものだと思う。ここからは私の意見だが、その先に続く論理は、中国脅威論をこちらが強調することは、中国に対して日中関係を改善させる梃子になることに他ならないということになろう。
なお、以前に『中国研究者が論評―「歴史問題を日中関係の基礎にするな」』という記事を書いた。その中で、中国側に何らかの意図があるのかどうか見きわめる必要があると指摘した。石平氏の分析が正しければ、その記事で取り上げた中国の研究者の論文は、方針転換を示唆していたと言える。もちろん、一人の日中問題研究家の分析だけで結論付けるのが軽々に過ぎることは承知している。今後ともいっそうの注視が必要であることは言うまでもないし、靖国参拝問題・歴史認識問題で「譲歩」すべきでないことに何ら変わりはない。
(参考文献)
「中国は靖国問題を棚上げにした!!―胡錦涛の対日「講話」の底意識―」石平(『月刊日本』2006年5月号所収)
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日中中間線でガス田を採掘し日本の艦船が近くを航行すると中国海軍の軍艦が日本船の航行を妨害している。 国内では労働争議、農民暴動、公害反対暴動、土地強制収奪反対暴動等枚挙に暇が無い。 中国人の言うことを信用するな。 中国人の行動を見よ。 日本人は毅然と立ち向かえ。
これが紹介した論文の趣旨です。
中国脅威論カードを持っているこちらが、慌てず騒がず、じっくり取り組めばよいと言うことです。「こちらが優位に立ったことに気づかずに交渉するのは愚策だろう」というのが、私が提起したかった問題意識です。