猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

自民党新憲法草案(10月28日発表)について-国民の権利義務・統治機構など

2005-10-29 21:33:32 | 憲法
 昨日公表された自由民主党新憲法草案に関する注釈の続き。今回は、国民の権利と義務、司法・立法・行政のいわゆる統治機構の部分、それから改正手続きについて注目点を紹介しつつコメントする。実を言うと、現憲法の微調整にとどまっている部分が大部分なのだが…。なお、草案全文は自民党・新憲法制定推進本部からご覧ください。

第三章 国民の権利及び義務
第十四条
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、障害の有無、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。


コメント:前回の起草委員会草案原案で不自然にも存在していた「障害者が差別されない権利」の条文が削られ、法の下の平等を定めた14条に追記される形になった。起草委員会の草案原案が出た時点で、私は「障害者が差別されない権利」は「法の下の平等に内包されるものであり不要」との趣旨の記事を書いていたのだが、その通りになった。

第二十条
3 国及び公共団体は、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超える宗教教育その他の宗教活動であって、宗教的意義を有し、特定の宗教に対する援助、助長若しくは促進又は圧迫若しくは干渉となるようなものを行ってはならない。


コメント:現行の当該部分は「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」であり、異常ともいえる極めて厳格な政教分離の規定になっていたが、社会的儀礼や習俗的行為と認められるものは宗教的色彩があっても国が行うことができるようになった。穏当なところであろう。これで、靖国神社公式参拝にも文句を言われないと期待するが、左翼が展開しているのは「ためにする議論」であるから、結局何かの口実を見つけ出してくるかもしれない。なお、本改正案は、実は「政教分離に関する目的効果基準」という最高裁の有名な判例そのままである。司法判断が憲法改正に取り入れられたという意味で、三権分立の真価が発揮されたと評価することが出来ると思う。もっとも、個人的には3項丸ごと削除してしまっても信教の自由は十分に守られると考えている。

第二十一条の二
国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。


コメント:これは、削除すべきだと思う。今必要なのは国家機密の保護であるのに、それに逆行する動きを助長しかねない。単なる訓示規定だというのなら、民主主義をとる以上「国政上の行為につき国民に説明する責務を負う」のは当然であり、やはり不要である。

第二十五条の二
国は、国民が良好な環境の恵沢を享受できるようにその保全に努めなければならない。


コメント:環境の保護は、国の責務であるだけでなく、国民の責務でもあろう。そうしなければ良好な環境は保てない。前文の「日本国民は、自然との共生を信条に、自国のみならずかけがえのない地球の環境を守るため、力を尽くす。」が国民の責務の方を表していると言えよう。

第四章 国会
第五十四条 第六十九条の場合その他の場合の衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。


コメント:現行の憲法には、解散の規定が69条(内閣不信任決議案の可決または信任決議案の否決に伴う解散)しか具体的な規定がないため、衆議院解散の根拠があいまいであった。69条限定説や7条根拠説、65条(行政権の内閣帰属)説、議院内閣制からの当然説など、さまざまな学説が氾濫していた。そういうわけで、当然なければならない規定を新設したということである。もちろん、究極的な根拠は天皇の国事行為に求めるべきである。

第六章 司法
第七十六条
3 軍事に関する裁判を行うため、法律の定めるところにより、下級裁判所として、軍事裁判所を設置する。


コメント:一つ前のエントリーで既述。「軍法会議」の設置を規定している。もし軍事裁判所がなければ、いくら「自衛軍」と銘打っても真の軍たりえない。

第七章 財政
第八十九条
公金その他の公の財産は、第二十条第三項の規定による範囲を超えて、宗教活動を行う組織又は団体の使用、便益若しくは維持のため、支出し、又はその利用に供してはならない。
2 公金その他の公の財産は、国若しくは公共団体の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対して支出し、又はその利用に供してはならない。


コメント:政教分離を財政の面から規定したもの。20条3項の改正にあわせて齟齬を来たさないような文言になった。これで、総理大臣の靖国神社参拝において公金を使用しても問題ないということになるのではないか。内閣総理大臣は自衛軍の最高指揮官なのだから、そうすべきである。第2項は現行では違憲の疑いのある私学助成が合憲になるように改めたもの。「公の支配に属しない」を「国若しくは公共団体の監督が及ばない」に変更した。私学といえども文部科学省の「監督」は及んでいるので、これで問題ないであろう。

第九章 改正
第九十六条 
この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議に基づき、各議院の総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票において、その過半数の賛成を必要とする。


コメント:憲法改正の発議の要件を「各議院の総議員の三分の二以上」から「各議院の総議員の過半数の賛成」に緩めた。この点は特に異存はない。一つ注文をつけるとしたら、「特別の国民投票において」の前に「法律で定めるところの」という文言を入れた方がより厳密になったと思う。余談ながら、現行憲法96条に2項として「前項の国民投票に関する事項は、法律によりこれを定める」とあれば、国民投票法を制定しないことの「違憲性」が明らかになっただろうに…。


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