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リガの犬たち/ヘニング・マンケル

2022年06月20日 | もう一冊読んでみた
リガの犬たち 2022.6.20

ヘニング・マンケルの 『 リガの犬たち 』 を読みました。

重苦しい雰囲気の物語でした。
スウェーデンの海岸に流れ着いたゴムボートの中には、二人の男の射殺死体があった。
男たちは、どのような事件に巻き込まれたのか。
どのような事件であったのか、興味津々で読み進めたのだが、話は遅遅として進まない。
この殺人事件の調査のために、クルト・ヴァランダーはラトヴィアに飛ぶことになる。
事件は、意外な展開をみせヴァランダーは、ラトヴィアの政治情勢に巻き込まれていく。
誰が極悪人で、誰が善なのか。




 ヴァランダーは急ぎ足になった。これから見るものを思うと、嫌気がさす。死んだ人間を見ることに、決して慣れはしなかった。いつも同じように動揺する。死んだ人間は生きている人間と同じで、一人一人違うのだ。

 警察の仕事は、彼にとって真剣であるべきものだった。救命ボートの死者たちの捜査は、彼が全身全霊で集中するべきことだった。彼にとって警官の仕事は、常に疑いの余地のない、理にかなう、道義的に正しい、原則の通るものでなければならなかった。

 だいたいの場合、権力の行使は、秘密の抜け穴のある薄暗いところでなされる。法治国家の基本的特徴とされる公開性とはほど遠いところで。

 「共産圏の国々は崩壊し始め、まるで沈没しかかっている船のような状態になっている。犯罪者たちは最初に逃げ出すネズミだ。コネがある、金があるから、国外逃亡ができるのだ。亡命を求める東ヨーロッパ諸国からの人々の中には、抑圧から逃亡するのではなく新しい狩猟の地を求めて国外脱出する者も多くいる。人は簡単に経歴や身分証明を偽造することができるのだ」

 その穏やかな口調は絶対的な自信をうかがわせた。あとでヴァランダーは、混乱と崩壊の真っ只中にいる東欧諸国の人間は、実際には天地もひっくり返るようなとき、絶対的自信をもって心配ないと言うすべを身につけているのかもしれないと思った。

 ほかの二つのバルカン諸国も同じだ。あるいは第二次世界大戦後、ソ連の支配を受けてきた属国も同じだ。人々は失われた自由をふたたび手に入れようとして闘っている。だが自由は混沌をを生むのだ。ミスター・ヴァランダー。そしてその暗がりには邪悪な考えをもつ怪物が潜んでいる。自由に対しては賛成か反対しかないと思っているのなら、それは致命的な間違いだ。自由にはたくさんの顔がある。......われわれにとって自由は非常に魅力のあるものだ、目が眩むほどの美女と同じように。だが、自由はまた、立場のちがう者にとっては、あらゆる方法で取り除かなければならない脅威でもあるのだ。

 リエバ中佐には妻も知らないようなことを託す腹心の友がいたのだろうか? あり得ないことではない。
信頼がそのままその人の重荷になってしまうことがある、とバイバ・リエバは語っている。それは中佐の思いでもあったはずだ。


 「あなたを危険な目に遭わせたくない」ヴァランダーが言った。
 「必要なことは誰かがしなければならないのです」彼女が言った。「わたしを訪ねてくれてうれしいのですよ」



  『 リガの犬たち/ヘニング・マンケル/柳沢由美子訳/創元推理文庫 』

コメント
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