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ベルリンに堕ちる闇 サイモン・スカロウ

2022年06月27日 | もう一冊読んでみた
ベルリンに堕ちる闇 2022.6.27

サイモン・スカロウの 『 ベルリンに堕ちる闇 』 を読みました。

面白いミステリーでしたが、何とも重苦しい雰囲気です。
ヒットラーの時代のドイツの首都ベルリンの物語ですから、ぬべなるかな。




 「世の中はわからないものです。ときに人は勝利を得ようとして度を超してしまう。危険を冒して失敗する」
 「ときに成功する」彼女は、手のなかのグラスで、パーティー会場である大広間の反対側の壁に掛けられた総統の肖像写真家を指した。彼女が反応を探っているのを感じて、シェンケは口に出してはっきりと返事をすることなくうなずいた。


 「われわれがそれを裏づける証拠を見つけて、すべて同一人物による犯行だという結論に至ったら、そんな話が外部に漏れたらどんな反応が起きるか想像できますか? そりゃ、市民を不安に陥れことを恐れてミュラーが押さえ込もうとするでしょうが、噂は広まるものです。人間ラジオがどれほどの効果を発揮するか知ってるでしょう。なんらかの反応があるに決まってます」
 ハウザーと目が合い、シェンケは声を抑えて応じた。「だからどうなんだ?」


 戦争がもたらす死者の数を考えたとき、彼や同僚たちが行っている仕事にどれほどの価値があるだろう。ポーランドで何万もの死者が出たというのに、なぜベルリン市内のわずか数人の死を気にかけるのだろう? いくつかの死は犯罪だが大量の死は統計でしかないとかなんとか、かつてだれかが言っていた。それでも、気にかけないわけにはいかない。戦争は異常事態だ。法律の維持は、なにが正常で恒久的かという概念を支える柱だ。文明の土台だ。たとえ彼自身をはじめ多くの人が今は非文明の時代だという見解に達しているにせよ、自分は文明の番人だという考えは慰めをもたらした。戦争は始まって終わるが、文明社会の法律は彼のような人びとの努力によって生き延びる。

  『 ベルリンに堕ちる闇/サイモン・スカロウ/北野寿美枝訳/ハヤカワ・ミステリ文庫 』

コメント
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