烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

哲学の歴史4

2007-05-22 23:28:26 | 本:哲学
 『哲学の歴史4』(伊藤博明編集、中央公論新社刊)を読む。この巻は、15-16世紀で、ルネサンス期の哲学がとりあげられている。第IV章の「フィチーノ」、第V章の「ピーコ・デッラ・ミランドラ」のところを興味深く読む。
 ルネサンス期には、キリスト教神学とプラトン哲学両者の調和、融合が試みられた時代であることがわかる。特にこの時期の、人間の位置づけ(神と被造物との一連の階梯の中での位置づけ)という問題である。フィチーノ(1433-1499)は、神によって創造された宇宙のヒエラルキアにおいて人間は「中間物」としてある種特権的な地位を占めるとされる。そして人間本性の内部は万物を包含するミクロコスモスである。これに対して、ピーコ(1463-1494)は、『人間の尊厳について』では、人間がこのヒエラルキアにおいて自己の地位・本性を自由意志によって選択できる「無規定」な存在であるとみなしている。
 被造物である人間が創造者である神とのあいだには厳然とした距離があるか否かについても両者の間には違いが見られる。フィチーノでは人間の魂が天上的愛によって神の段階までその系列を上り詰めることが可能であると論じていた。ピーコは、両者の間には厳然とした差があり、神は万物を超越したものとしてその絶対性が強調される。
 ヒエラルキアの中に位置する中間的な存在という似たようなとらえ方ながら、自らの自由意志の力を強調した点でピーコの人間観は新しい。一見古臭いように見える哲学論争であるが、人間の自由や意志をどのように位置づけるのかという問題は依然として解決されていない問題である。