学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

林洋子著『藤田嗣治 手しごとの家』

2010-05-01 19:26:09 | 読書感想
現在の日本はストレス社会。ストレスから開放される意味でも、本当に豊かな生活とは何なのかが問われています。アートとふれあう動機として、「いやし」の要素が生まれ、これまで以上に価値観が多種多様になってきたことを実感します。

昨日紹介した『藤田嗣治 手しごとの家』が読み終わりました。藤田の「手しごと」をテーマに豊富な図版が組み込まれており、またコンパクトなので、とても面白く読むことができました。画家藤田嗣治(1886~1968)は、キャンバスに向かう仕事のほか、自宅の装飾、額縁や絵付の制作、裁縫、写真撮影などあらゆることに興味を持ち、そして実践しました。自分の作ったもの、あるいは自分の好きなものに囲まれて暮らしたのですね。藤田の残したものを見ると、人生をとても楽しんでいたことが伝わってくるようです。

この本から、藤田の「手しごと」の一面だけでなく、日々の生活を彩ることの大切さを学ぶことができます。ストレス社会を一個人の力だけで乗り切ることは不可能です。こうした社会を否定するよりも、むしろ上手に付き合っていくことが今求められるのでしょう。そうしたとき、せめて自分の生活には少しでもこだわりを持って、自分で作ったもの、あるいは自分の好きなものをパートナーとしてそばに置いておくだけでも、「いやし」あるいはストレス解消につながるのかもしれません。生活をデザインする生活。藤田の豊かな生活は私たちにヒントをくれているようにも思えます。とてもオススメの1冊です。

●『藤田嗣治 手しごとの家』林洋子著 集英社新書ヴィジュアル版 2009年
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