WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

スティングの作品におけるブランフォード・マルサリス

2012年09月23日 | 今日の一枚(S-T)

☆今日の一枚 333☆

Sting

Nothing Like The Sun

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 スティングは、1980年代後半にジャズ風味のクォリティーの高いアルバムを連発した。かくいう私もこのころのスティングはよく聴いたし、現在でもたまに聴くことがある。現在という地点から見ても、決して古びていない作品だと思う。しかしどういうわけか、現在私がCDで所有しているアルバムはこの一枚のみである。これ以外のものはほとんどカセットテープである。何枚かLPを所有していた記憶があるがちょっと見当たらない。(実は、昨日、Book Offで『ソウル・ゲージ』の中古CDを買ったので、本当は持っているCDは2枚になった。だから突然スティングの記事を書こうとなどと思ったわけであるが・・・・。『ソウル・ゲージ』の中古CDは、なんと300円だった。)

 スティングの1987年作品『ナッシング・ライク・ザ・サン』。もはや、スティングの名を元ポリスのベーシストなどと修飾する必要はあるまい。それほどまでに彼が切り開いてきた独自の音楽世界は質の高いものであったし、実際それによって、ポリスと同等かあるいはそれ以上の高い評価と大きな名声を獲得してきたからである。スティングは、1984年頃から、ジャズ・サックス奏者のブランフォード・マルサリスや、キーボード奏者のケニー・カークランドらと独自の音楽活動を開始したが、このアルバムはそれらの活動の最もソフィスティケートされた成果といってもいいだろう。例えば、ライブ・アルバムの『ブリング・オン・ザ・ナイト』などと比べると、荒々しさや生々しさ、ジャズ的な面白さは影をひそめるが、彼らの音楽をより整った形で楽しむことができる。スティングのしゃがれ声のボーカルもなかなか味わい深いものであるが、やはりサウンドに特別の風味を加味しているのはブランフォード・マルサリスのサックスであろう。

 後藤雅洋氏の『ジャズ喫茶 四谷「いーぐる」の100枚』(集英社新書)は、1960年代から現在まで、後藤氏が経営するジャズ喫茶「いーぐる」を彩った名演&名曲を紹介した本であり、後藤氏自身もいつになくリラックスした語り口で興味深い。後藤氏は、この本の中でスティングの『ブリング・オン・ザ・ナイト』を取り上げているのだが、ブランフォード・マルサリスとケニー・カークランドの演奏について、「傑作に勘定していい演奏である」と高い評価を与えている。特に、ブランフォード・マルサリスについては多くの紙数が費やされており、次のような記述がなされている。

「デビュー当時、ブランフォードはウィントンの兄としての立場しかなかったが、次第に独自性を発揮するようになった。」

「ジャズ・アルバムとして受け取られることのない作品で、リーダーでもないとなれば、よい意味での自由奔放さが発揮できる。その気ままさがジャズマンとしてのブランフォードに火をつけた。リーダー作では弟のやることに対する対抗意識か、ちょっとばかりコンセプト先行の堅苦しい部分があったが、単なるプレーヤーに徹することのできる場面では、ホンネ出しまくりの、”ブリブリ”テナーマンに変身だ。」

 私も基本的に同感である。

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