WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

スペイン風邪と歴史叙述

2021年05月01日 | 今日の一枚(I-J)
◎今日の一枚 498◎
Jeff Beck
Jeff Beck With The Jan Hammer Group Live
 コロナ禍である。感染の拡大や死亡率の上昇とともに、経済の停滞あるいは衰退が大きな問題となっている。日本史のひとつのターニング・ポイントとなるだろう。
 比較される疫病として、大正時代のスペイン風邪が取り上げられることが多い。およそ100年前の話だ。ところが、このスペイン風邪は、高校日本史や世界史の教科書に記されはいないのだ。コロナ禍の経験からしてみれば、とても不思議だ。スペイン風邪も社会や経済に大きな影響をもたらしたのではないのだろうか。実際、スペイン風邪は、第一次世界大戦終結の要因の一つとされることもあるのだ。教科書は、社会経済史をその原動力として、政治史を中心に叙述されている。もちろん、マルクス主義史学の影響である。生産関係の矛盾が歴史を動かすという方程式からは、疫病の問題は大きくはずれるのだろう。歴史を発展法則から考える立場からは、疫病などという突発的なものに歴史を動かされてたまるか、ということになるのかもしれない。経済については、第一次世界大戦による空前の好景気のため、スペイン風邪が日本経済に与えた影響は少ないとされているようだ。本当だろうか。例えば、1920年の恐慌(戦後恐慌)は、終戦によるヨーロッパ経済復活による、輸出商品相場の大暴落が原因とされているが、本当にそれだけなのだろうか。スペイン風邪の影響はないのだろうか。スペイン風邪の流行の真っ只中なのである。検討すべき問題である。
 いずれにせよ、教科書も含めて、歴史叙述には、歴史を動かす要因として、疫病や自然災害、気候変動など社会経済史以外の要因も検討されなければならないだろう。

 今日の一枚は、ジェフ・ベックの『ライブ・ワイアー』だ。1976年のライブの録音盤である。ヤン・ハマーのバンドにベックが参加するという趣向のようだ。白熱のライブである。三大ギタリストなどというが、本当にすごいギタリストはジェフ・ベックなのだと改めて思う。ジェフ・ベックがギター表現の可能性を極限まで追及しようとしていたことが明確にわかる。過剰なデストーションを使わず、原音に近いサウンドで勝負する姿が好ましい。どの演奏も圧巻であるが、Scatterbrainは必聴であろう。