WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

日本の青空

2021年05月03日 | 今日の一枚(I-J)
◎今日の一枚 501◎
Jim Hall
It's Nice To Be With You
 先日、内田樹『そのうちなんとかなるだろう』を読んでいたら、内田樹さんの元奥さんの父親(元義父)が、日本国憲法制定時の首相である幣原喜重郎の秘書を務めた人で、幣原本人から「9条第2項を発案したのは私です。あれをマッカーサーのところに持って行って、これを何とか憲法に入れていただきたいということを申し上げたのです。」という話を聞いたことが記されてあった。内田さんの元義父は、亡くなるまでそのことを繰り返し話したという。
 GHQが所謂マッカーサー草案を作成する際、参照したものの一つとして日本人の民間団体「憲法研究会」が作成した「憲法草案要綱」があったことはよく知られている。マッカーサー草案との親和性が非常に高く、その"手本"になったとさえいわれるものである。
 そういえば、15年程前の映画で『日本の青空』(監督:大澤豊)というのがあった。「憲法研究会」の中心人物である鈴木安蔵を主人公にした作品だった。なかなか、興味深い映画だった。
 手続きの問題として、日本国憲法がGHQによる占領下で作成、制定、施行されたことには変わりない。けれども、日本人が憲法制定に際して情熱を傾け、自らの手で自由で民主的な国の枠組みを作ろうとしたことは、明治の自由民権期の私擬憲法とともに、日本人の誇りとして記憶にとどめておくべくだろう。左派や保守派だけでなく、右派も含めてである。それが、ナショナル・ヒストリーである。

 今日の一枚は、ジム・ホールの1969年録音作品、『イン・ベルリン』だ。ギター、ベース、ドラムスのトリオ編成による作品である。うまいギタリストだ。パット・メセニーが影響を受けたらしいが、音色に注意して聴くと、その類似性がわかる。エッジを立てないギターなのだ。音の輪郭を敢えて際立たせず、穏やかでマイルドなトーンにしている。その意味では、大人のギターである。心地よさに、眠ってしまう。In A Sentimental Mood に心を奪われる。

基本的人権の保障を第一条に

2021年05月03日 | 今日の一枚(I-J)
◎今日の一枚 500◎
John Coltrane
Giant Steps
 憲法記念日である。今朝の新聞には護憲派の巨大な意見広告が載っていたが、国民アンケートをみると、改憲支持が改憲反対を上回っているらしい。現在の改憲論は、保守派というというより右派によって担われ、第9条が主に俎上に載せられることが多い。けれども、私は本当に重要なのは第1条なのだと考えている。第1条は「天皇」の条項であり、象徴天皇制が宣言される中で、「この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く 」と国民主権が付け足しのように位置付けられるのだ。これは、日本国憲法が大日本帝国憲法の改正として成立した事情によりおこったことだが、やはり歪んでいる。
 日本国憲法の三大原則として「基本的人権の保障」「国民主権」「恒久平和主義」があげられるが、この3つは本来並列的に並べられるべきものではなかろう。一番重要なものは、いうまでもなく「基本的人権の保障」であり、「国民主権」と「恒久平和主義」はそれを実現するための手段として位置付けられるべきものである。ところが、「基本的人権の保障」が登場するのは、前文を除けば、なんと第11条なのだ。私が、「基本的人権の保障」の条項を第1条にと考える所以である。
 尚、高校教科書では、「基本的人権の保障」と記されているが、中学校教科書では「基本的人権の尊重」と格下げされた表現となっているようだ。まことに、残念なことである。

 今日の一枚は、ジョン・コルトーンの1959年録音作品『ジャイアント・ステップス』である。還暦をあと数年後に控えても、時々、大音響でコルトレーンを聴きたくなる。学生運動世代には人気があったというコルトレーンであるが、現在の純正ジャズファンからは悪口をいわれることが多くなったようだ。にもかかわらず、やはり私はコルトレーンが好きだ。タイトル曲Giant Steps の爽快なスピード感に、Naimaの哀しみを湛えた美しさに心を奪われる。
 シーツ・オブ・サウンド。時間と空間を音で敷き詰めてしまうかのように、高速で16分音符を基調としたフレーズを吹きまくるコルトレーンの奏法のことだ。音楽というものが音と無音によって成り立っていることを考えるとき、コルトレーンは音楽そのものを否定しようとしたのではないかとふと思うことがある。その後のコルトレーンの歩みを見るとき、あながち的外れではないかもしれない、と思うのは 私だけだろうか。

ムケート・ケニア???

2021年05月03日 | 今日の一枚(C-D)
◎今日の一枚 499◎
Charles Mingus
Mingus Ah Um
 ずっと、「ムケート・ケニア」だと思ったら、「ヌチェート・ケニア」だった。webは便利だ。アニメ『アタックNo.1』に登場するケニアのマヌンバ選手の言葉である。子どもの頃見たのに、妙に脳に残っている。
 「ヌチェート・ケニア」は、私の祖国ケニアという意味らしい。独立したばかりの貧しい国ゆえに、補欠なしの6人で戦わねばならない状況の中で、主将のマヌンバ選手が負傷する。一人でも負傷退場すれば試合を棄権しなければならない。主将のマヌンバ選手はコートに立ち続け、「ヌチェート・ケニア」と叫びながらプレーするのである。マヌンバ選手の思いに他の選手も奮い立ち、全員がレシーブの度に「ヌチェート・ケニア」と叫びながらプレーするのである。感動である。 
 思えば、子どもの頃の私が、第三世界というものに触れたのはこれが最初だったかもしれない。1957年にエンクルマの率いるガーナが、ブラック・アフリカで最初の独立国となるが、1960年には一挙に17か国が独立を果たし「アフリカの年」といわれた。1960年代を通してアフリカ諸国の独立は加速していく。ケニアの独立は1963年である。『アタックNo.1』が「週刊マーガレット」で連載されたのは、1968年~1970年であり、テレビアニメの放映は1969年~1971年である。世界情勢を反映していたといえるだろう。テレビアニメが世界認識のきっかけとなったことも多かったのだ、と改めて思う。
 ところで、ソ連のエースも、シェレーミナだと思っていたら、シェレーニナだったようだ。やはり、webは便利だ。

 今日の一枚は、チャールズ・ミンガスの1959年録音作品、『ミンガス・アー・アム』である。ジャケットが、デイヴ・ブルーベックの『タイム・アウト』と似ていて間違いやすいと思っていたら、同じデザイナーによるものだった。ミンガスはなぜだか私のアンテナに引っかからなかったようで、所有するレコード・CDは少ない。名曲「グッドバイ・ポーク・パイ・ハット」が収録されたこのCDを購入したのも1年程前のことだ。
 ベース奏者、作曲、編曲、バンド・リーターと、やはりミンガスという人は才能のあった人なのだと改めて思う。若い頃、『直立猿人』を聴いて、ミンガスって小難しい奴なのかなと思っていたのだが、このアルバムはたいへん聴きやすい。サウンドが安定しており、まったく聴き飽きしない。全編がとてもスムーズに進行し、音量を上げても下げてもそれぞれに楽しめる。ハーモニーの感覚がすごく好きだ。