WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

レコード一枚夢残す……

2011年04月02日 | 大津波の現場から

 昨日は午後から時間が空いたので、ちょっと思い立って岩手は陸前高田市まで行ってみた。突然思い立ったのは、昨日の『河北新報』にジャズ喫茶「h.イマジン」店主の冨山勝敏さん(69)についての記事が載っていたことがきっかけだ。新聞は「レコード一枚夢残す」「心癒やし集える場必ず」という見出しで、瓦礫の中から拾った一枚のレコードをもって立ち尽くす富山さんの写真が掲載されていた。この街の状況をこの目で見ておきたくなったのだ。

 天気がよく、青い空と海が溶け合い、透き通るように美しかった。この美しい海が我々に暴威を振るったとは信じられない。陸前高田市は、報道の通り、街がひとつ消滅したといっていい程の壊滅的状況だった。予想どうりだ。予想以上とは書かない。震災以来、私の街の周辺のいろいろな場所を見たが、もうどこも同じなのだ。瓦礫と泥と悪臭。場所によっては焼け跡。それだけだ。けれども、そこにはやはり人間がいる。この狭い土地にへばりついて生活してきた人々がいる。復興を願う人々がいる。私はそれがいとおしい。

 陸前高田市にはかつて日本ジャズ専門喫茶「ジョニー」があり、私も何度も足を運んだものだ。「ジョニー」が盛岡に移転して以降、この街に足を運ぶ頻度もめっきり減っていたのだが、知らないうちにこんなジャズ喫茶が出来ていたのですね。新聞によると、冨山さんは東京の大手ホテルの会計システム責任者やベンチャー企業の役人などを経て、2003年岩手・大船渡に店を開いたそうだが、昨年2月に火事で全焼、昨年12月にこの陸前高田市に移り、再出発をしたばかりだったという。店は旧高田町役場庁舎を改装した、「柔らかい線と赤の外壁、広いテラス、欧風の内装」の建物だったとのこと。このジャズ喫茶を訪問したことがなかったことが、今となっては何としても悔やまれる。けれど、冨山さんは、「昔の建物だから土台は大丈夫だ。これが私の元手。木材を集めて堀っ立て小屋を建て、そこからまた始めるよ」といっており、再起の折には是非ともいってみたい。「東京にはなかった人の情が何よりの財産になった。しばらく、みんな苦労の日々が続く。心を癒しに集える場をつくるのが、次の仕事だ」という冨山さんの言葉に救われる。

 昨夜、知人の家が火事になった。全焼である。電気が通ったその日だったという。漏電ではないかという噂だ。そういえば、最近火事が多い。最近といえば、余震が活発化している。ここ数日、毎日のように震度4や5クラスの揺れがある。揺れ方や揺れの方向が前とは変わってきているような気がするのだが……。心配だ。

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