WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

君はすてき

2007年03月20日 | 今日の一枚(M-N)

●今日の一枚 142●

New York Trio

Thou Swell

Watercolors0011 素敵なジャケットだ。雑誌の広告で見て以来、すっとそう思っている。顔は見えないが、きっとチャーミングな女性に違いない。何より気品がある。

 ビル・チャーラップは器用なピアニストだ。うまいピアニストといってもいい。スウィンギーな曲はほんとうに強烈にスイングし、しっとりとした曲は情感豊かに表現する。しかも、高度なテクニックをもっていながら、テクニックをひけらかすことをしない。その演奏にはいつだって歌心が溢れている。

 ニューヨーク・トリオの新作『君はすてき』、2006年の録音盤だ。アメリカの作曲家、リチャード・ロジャースの名曲集である。どれもこれも素晴らしい演奏ばかりで、チャーラップに「君はすてき」といいたくなるほどだ。

 それにしても、② My Funny Valentine の印象深さは何なのだろう。超有名曲で星の数ほどの演奏があるが、このMy Funny Valentine は出色である。あまりに繊細で美しすぎるほどに美しい演奏に心惹かれる。指の先に神経を集中して、注意深く鍵盤にタッチしている姿が頭に浮かぶ。デリケートなピアノの響きと、その余韻としての空白の間が胸にジーンとしみいる。

 いい歳をして恥ずかしいが、じっくりと聴けば聴くほど、涙がこぼれそうになる演奏である。