初夏を迎えた或る日。河向こうに覆面をした男がロバに乗り、河沿いを進んでいた。男は赤い梟を細縄に繋ぎ、梟は輪を描くように頭上で旋回していた。あの驢馬に乗った男と、もしや二年前に失踪した妻が再び戻って来てくれたならと思うと大声で呼んでみたくなった。ようこそ!...お待ちしていました!..暫く、滞在していきませんか?...懐かしいですから。一人でしてね。侘しいものでした一人暮らしは。この歳ですから。本当に滞在していってください。歓迎します。・・私は大声で河越しに呼びかけていた。すると、驢馬に乗った男は手を上げ手を振り挨拶を送ってよこし、何度も振り返ったが、留まることなく平原へと消えていった。すると、失踪した妻が顕れてきたのではなかったと気付き自分を慰めるより仕方なかった。そんなに淋しがり屋がりではないと思ってきたが、妻の失踪には、やはり、心が重く傷ついているのを認めざるを得なかった。あのライオンと一時期、言葉をかけながら一つ屋根の下で暮らすことができたのも、その証しだったとさえ思うようになっていた。あのライオンにも見放されてしまったかと思うと、その後の数週間というものは落ち込んでいた。命が芽吹く春は、とっくに過ぎ去り初夏をむかえていた。だというのに!.. やりきれない思いがよぎったが、以前に戻って、やり直していこうと決心するばかりだった。仕事に精を出すことが何よりの慰めと活気になるのだから。
C.Meckel : Der Lowe より 3⃣
メッケル「ライオン」 大人のファンタズィー
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