男子60歳クラスで五種競技に参加した4名
左から川口(滋賀)、林(石川)、東條(山梨)、川瀬(千葉)
東條さんは、日本新記録を樹立
1、全日本マスターズ混成5種
2、6月8日(日)
3、石川県西部緑地 陸上競技場
4、天候晴れ 気温25゜
コメント( 林 )
【男子混成5種 60~64才クラス】
(種目) (記録) (得点)
①走幅跳び 4m06 (554点)
②やり投げ 29m38 (493点)
③200m 29秒85 (690点)
④円盤投げ 30m28 (544点)
⑤1500m 6分36秒47 (498点)
計 2779点 (2位/4人)
【感想】
当日は晴れ、日差しも強くなく、大した風もなく上々のコンディションだ。この日のために冬の室内筋トレも含め、7カ月間精進を重ねて来た。今日、その成果を発揮するのかと思うと心の中で何かが動いている。受付を済ませ、控え室に入ると見覚えのある顔があった。山梨の東條さんだ。自分は都合で出れなかったが、彼は去年の同大会で優勝した選手だ。今年は日本記録を狙いに来たなと直感した。と同時に自分に優勝は絶対ありえないと悟った。あとは千葉の川瀬さんと滋賀の川口さんだ。2人とも過去の成績を見るかぎり、自分と同等ぐらいのレベルだ。勝ちたい。
東條さんは毎年のように全日本マスターズ選手権で三段跳と走幅跳でいつも優勝をかっさらっている。跳躍だけでなく、短距離、そして長距離も得意らしい。(事実、今回最終種目の1500mをなんと5分14秒で走り、1種目だけで1042点という信じられない得点をたたき出して日本記録を大幅に更新した。)1500m5分14秒は昨年の全日本マスターズ選手権優勝記録に相当する。
普通、跳躍や短距離の瞬発系が強い選手は持久力が弱く、長距離は苦手なものだが、彼は稀にみる特殊な肉体なのだろう。体格もすばらしい。身長約180cmあまり、手足が長くすらーっとした筋肉質で、とても61才になったばかりとは思えない。陸上をするために生まれてきたような人だ。うらやましい。
【第1種目 走り幅跳び 9時から】
約1時間前からウォームアップ開始。過去にウォームアップ不足から一発目の走幅跳びで肉離れを起こしてリタイヤした苦い経験があるので入念にしようと思っていても、やはり朝はなかなか体が目覚めにくい自分にとってはやりにくい。かといって最初からアップで100mの流しを何本もすればスタミナが切れてしまう。1日という長い競技時間を考えればスタミナを少しで温存しなければならない。難しいところだ。少々アップ不足の感じで競技開始、事前に踏み切りの足あわせの練習をしたが、本番は合わなくて審判員に聞いたら1回目は踏み切り板に全然足がかかってなく2本目は半分しかかかっていなかったという。混成競技というのはフィールド種目は3回しか試技がない。焦った。何とか4m台を出さないと話しにならない。3回目助走距離を10cm縮めてスタート。思い切って加速・・・・ジャンプ。しりもちをつく。20cmは損をしたな。記録は4m06。何とか最低ラインの4mは超えたが不満だ。4mのこのあたりは10cm違うと30点は違うのに、惜しいことをした。年をとったら体が硬くなって着地の上体前屈が十分出来ない。走幅跳びは危険な種目で、砂場もなかなか使えなく。助走と足合せの練習しか出来なかったのがもろに響いた。反省点ばかりが頭に浮かぶ。猿じゃないぞ。反省を絶対今後に活かしてやる。
【第2種目 やり投げ 10時30分から】
1本目、スムーズな奇跡を描いて30mラインに刺さった。やった久々に30mだ。しかし2本目、3本目共力が入りドライブがかかり全然タメだった。
これまでの練習で槍投げはどうしても良い感触がつかめぬまま今日まで来てしまった。悪い癖がついてしまいスランプに陥ってしまっている。仕方がないか、いつも自己流で1人で練習しているから。マスターズ特に混成は練習相手もなく、全く孤独な競技だ。誰かいい練習相手がいないかなあといつも思う。投げるための筋肉群はそんなに力が落ちているとは思えないのに、やはり助走~クロスステッブ~投げるまでの一連の動きがスムーズでないのは自分でもわかる。あとで思ったのだが、確か1本目は30mラインのテープにささったはずなのに、エリアの横から見たら、30mラインの60cmほど手前に私のペグ(記録の標識板)が立っていた。
「林さんはたしか30mの・・・」と他の人も同じことを言ってたが、今更何を言ってもしようがない。
結局、走り幅跳びと槍投げがイマイチだったので、計2800点台まで届かなかった。この2種目がそこそこよければ2900点台も夢ではなかったのに残念。
槍投げを終わり、次の200mまでの時間に、栄養補給のため食べ物を口にする。
バナナ1本とカロリーメイトを1袋(2本入り)とチオビタ1本。もちろんアクエリアスの2倍希釈は少しずつ飲んでいる。こういう長時間に及ぶ競技にはわたくしの場合、チオビタが効く。1種の興奮剤と思うが元気が保たれる。バナナは3種類の糖分を含み、血糖値が長時間にわたり安定するのでいい。買って3日目くらいのがいい。ウィータゼリーはなんだかヌルヌルして気持ち悪そうでまだ1度も飲んだことはない。
【第3種目 200m 12時から】
槍投げのときを含めて少々休みすぎ、体が冷えた感がする。こんな状態では200mを完ぺきに走れるのか不安になったので、他の選手は未だ見えないが開始の40分前にウォームアップ開始。
案の定、筋肉に十分血液が回っていない状況、スムーズに足が前にでないギクシャクした感じだ。ちょっと辛いが急いで一汗かかないと滑らかに走れない。急いでアップするも少し時間が足りないまま点呼の時間になった。60才クラスのスタートは2組目、私は一番不利なインコース2レーンだ。前半は第1ゲート方向からの向かい風だ。一発でスタート、予想どおり一番アウト東條さんが最初から飛ばしている。その次が私だ。あとの2人は遅いのが分かった。前半の100mで東條さんに7mほどリードされた。いつも練習では170mくらいから乳酸がたまり足が動かなくなるのだが、今日は150mから足が動かない。これが一番辛い時間だ。何とか終盤の落ち込みを少なくしてゴール。毎度のことだが、ゴールした直後に競技補助員が腰ゼッケンの回収に来る。苦しくて外してもらうが、その間荒い呼吸でハーハー言っているのに何ですぐ回収するんだろう。せめて歩かせてくれて戻ってくるまで2、3分くらい待てないのだろうか。ゴールでは東條さんに15m近く差をつけられた感じだ。トップだけはすぐアナウンスが入り、27秒9台とのこと。だとすれば私は約2秒遅れの29秒台で入れたがどうかだ。今年も何としてでも29秒台は確保したかったので200mの練習は一番多くやってきたつもり。しばらくして正式計時の放送があり、私は29秒85で得点690点。結構高得点でうれしい。
【第4種目 円盤投げ 13時30分から】
今年から60才クラスに入り、円盤の重さも1.5kgから1.0kgになり、練習でも振り切りが楽になって記録が伸びた。非力な私にはこの軽くなった効果は大きい。練習でも30mは超えている。
ただし本番は何しろ3回しか試技がないので失敗は許されない。幸い大会前にいいイメージをつかんでいる。1回目落ち着いてフォームをイメージを復習してターンをする。きれいな軌跡を描いて円盤が飛んでいった。ちょうど30mラインのあたり。よしっ。慌ててサークルの前から出ると失格するのでゆっくりと後ろの方から出る。2回目、さっきと同じイメージで臨む。人指し指と薬指をくっつけ遠心力に負けないように持つ。1回目と同様、ゆっくりとしたターンから入る。フィニッシユで右足がブロックの内側にギリギリ止まり、理想的。30mを少し超えて1回目よりアップ。ヤッター、右腕を突き上げガッツポーズが出た。東條さんが(私のことを)「尊敬するよー」とか言ったのが耳に入った。私のような上半身の細いやつがきれいに30mも投げたのでそう思うのか。私の耳の聞き違いか。この種目が唯一東條さんに負けなかった。1種目でも日本記録の東條さんに勝ったことがうれしい。でも投擲経験の浅い東條さんに来年は負けるかも知れない。いや来年も円盤だけは負けたくない。円盤投げ30m28 得点544点。以前は投擲で544点もとるとは夢にも思わなかった。やはり1.0 kgの効果は大きい。しかし考えてみろ、女子の室伏由佳は50m以上投げるんだぞ。大いに研究してこの面白い競技を楽しみたいと思う。
【第5種目 1500m 15時10分から】
前の種目の円盤投げで大いに気分を良くしたが、このあとの1500mのことを考えると気が重い。
一番苦手な種目だから。どちらかというと混成をやる選手は短距離系の人が多い。その方が得点をとりやすいからだ。だから殆どの選手がこの1500mになると憂鬱になり、逃げ出したい気持ちになる。私もその一人だ。一番その傾向がつよいのでないかと思う。ろ僅かグランドを3周と4分の3を走る走るだけなのに、あの2周目からの苦しみを思うと本当につらい。その反面、完走して苦しみから逃れたあの開放感は何ともいえない。だからゴールしたあとは選手は皆んな握手してお互いの健闘を讃えあう。そして続々ゴールしてくる後続の選手を迎え、また握手する。混成競技の一番すばらしい瞬間だ。マスターズで混成を始めるまでは味わえなかったことだ。私の経験からたとえ少々エネルギーを消耗しても十分アップしたほうが私の場合は苦しさのやって来るのが遅い。だから競技の40分前からアップを始めた。他の選手はまだアップをしていない。
ゆっくりゆっくりグランドの外側を何周もジョグし、うっすらと汗をかいた。そしてちょうど間をおいて点呼の時間になった。ランニングとパンツになり、運命のスタート時間を待つ、号砲が鳴った。予想はしていたが、最初から東條さんはものすごいスピードで飛び出していった。日本記録を狙っているのだろう。
1週目、去年より少し速いスピードで走る。無理にオーバーペースにならないようリラックスしながら進む。去年ほどの最初からの苦しさはない。よしっ、ウォームアップが効いているぞ。なんて考えながら距離が進む。3周目からさすがに苦しくなった。呼吸がハーハーハーハーと聞こえる。応援している人もハッキリわかるのだろう。なじみの女子の石川マスターズの選手が「林さんガンバッテー」と声援してくれる。嬉しいが身いっばいだ。でもペースダウンをしなくてもこのまま我慢していけば何とかゴールまで行けるぞ。4週目さすがに苦しい。あと1周だ、今日まで練習して来たのは何のためだと自分に言い聞かせながら。ラスト150mからスパートをかける。1秒でも0.1秒でも記録を短縮したい一念でラスト50mフラフラになりながら上半身を前に倒れるようにゴール。2、3歩行ってから電光掲示板を見る6分38秒台だ。ゴールの瞬間は36秒台だろうか。いずれにしても50才台からの自己新だ うれしい。あとでわかった得点は何と498点だった。
苦手な1500mで。そうなるとちょっと欲が出る。.もう0.1か0.2秒速ければ500点を超えていたのに。もう10m手前からスパートしていればなんて考える。その時は身いっぱいだったのに。以上5種目を失敗もなく、何とか及第点で完走できたことを心より喜び、大きな満足感に浸っている。今年の私の大きな目標の1つが終わった。次は7月下旬の石川マスターズ選手権だ。
競技後、60才台で競った4人で記念写真を撮った。お互い良い思い出になるだろう。この日、朝からずっとテレビ朝日が1人の選手を取材していた。カメラの先は山梨の田中重治(たなかじゅうじ)さん85才で、今回10種競技で世界新記録を出すと予想されていたのだ。5年前に金沢で行われた全日本マスターズ選手権に80才クラスで出ておられたが、5年後の今は流石に背中は少し曲がり、老いを感じさせるが、やっぱり強い。話では前日の走り幅跳びで記録表にはない規格外の
1200点を出したという。つまり85才の年齢では考えられないほど(3m台)の記録だったのだろう。
自分に余裕があれば、この人の競技を見たかったが、心身共に自分も競技するのに身いっぱいで残念ながら出来なかった。ただ棒高飛びで2mくらいを3回目で成功した瞬間を見た。拍手が鳴っていた。田中さんは若いときに肺を患い。いわゆる片肺であり、呼吸能力が十分でない。したがって10種目の内、1日目の最終種目400mと2日目の最終種目1500mは実質走らないでスタートして1歩だけだ。
それでも完走と認められる。もちろん得点はゼロである。つまり実質8種目だけで世界新を樹立したのである。男子の平均寿命が80才までいかないのにこんなすごい人がいるなんてすばらしい。この番組はドキュメント形式で放映されるが、東京地区と大阪地区でしか放送されないという。残念。
同じ山梨の東條さんは言ってた。「田中さんは私の目標だ」と。東條さんなら25年後になれるかも。