韓国大法院判決の狙いは戦勝国の座
日本は韓国の国家予算3年分を支払う
実態は徴用工でなく「募集」への応募
韓国司法は時の大統領に迎合する傾向
「親中朝・反日米」旗印の「86世代」
大法院で判決に反対した2人の裁判官
韓国大法院(最高裁判所)は10月30日、戦時中の日本で働いた徴用工(実際は普通の労働者)による賠償請求権を100%認める判決を下しました。
1人1000万円、時効なしで遺族が永久に補償請求可能という内容でした。
この判決内容は、次の点で世界を驚かせたのです。
1965年に締結した日韓請求権協定で、「個人の損害賠償請求権」は解決されなかったと判断したこと。
その根拠は、協定に日本植民支配の不法性が明示されなかったことを上げました。
過去において、植民地支配の不法性と法的責任を認めた判決はなかったのです。
その意味では、今回の韓国大法院の判決は、世界で初めての事例と指摘されています。
韓国の国民大日本学科の李元徳(イ・ウォンドク)教授が、次のように指摘しています。
「過去には、英国とオランダが植民地で働いた反人道的な虐殺行為について、ケニアとインドネシアに賠償金を支払う判決が下ったことがあった。
それ以外で、植民支配の不法性とそれに伴う法的責任を認めたケースはない」『朝鮮日報 電子版』(10月31日付)。
韓国大法院判決の狙いは戦勝国の座
戦後73年経った現在、改めて日韓併合時代の日本の不法性を糾弾する意味があるのでしょうか。
これは、韓国が日本に対して戦勝国になれなかったという事情が影響しています。
この点は後で詳細に触れますが、戦勝国であれば「賠償金」を取り立てられた。
それが認められず「経済協力金」である。
個人賠償請求権が、経済協力金の中に取り込まれたのが違法である、という論理のように思われます。要するに、メンツの問題に帰着します。
韓国大法院はまた、次のような点も指摘しています。
韓国が、日本から受け取った無償3億ドルは、韓国の要求した金額とるかに食い違っているため、慰謝料請求権として受け取ったとは考えがたい、としています。
日韓基本条約(1965年)で日本が韓国に支払った金額は、「経済協力金」という名目でした。
日本が戦後に支払った賠償金は、太平洋戦争で被害を与えた国家が対象だったのです。
その点、韓国は日本統治下にあり、交戦状態にはなかったので、「賠償金」名目に該当しない、というのが日本の主張でした。
韓国は執拗に「賠償金」にこだわりました。
「経済協力金」でなく「賠償金」であったならば、今回の大法院判決にならなかったのでしょう。
韓国は戦後、日本に対して戦勝国として臨みたかったのです。
戦勝国=賠償金になるのです。
日本の対日講話条約で韓国は、「戦勝国」として出席することを米国に要求し拒否されています。
韓国が戦勝国を主張した背景は、1919年に中国上海に大韓民国臨時政府が設立されたことを上げています。
だが、日韓併合で大韓帝国が消えたのは1910年です。
この間の空白9年間によって大韓民国臨時政府が、大韓帝国との継続性を否定された理由です。
こうして韓国は日本に対して戦勝国になり損ねた。
その恨みが、今回の大法院判決に出たと見られるのです。
今回の判決で、韓国の受けたダメージは極めて大きいのです。
日本が、「条約を守らない韓国」というキャンペーンを始めれば、韓国は抗弁できません。
日本は韓国の国家予算3年分を支払う
日本の支払った「経済協力金」は、次のようなものでした。
1 無償3億ドル(個人保障を含む)
2 有償2億ドル
3 民間借款3億ドル以上
以上で、約11億ドルにものぼったのです。
当時の韓国の国家予算は3.5億ドル、日本の外貨準備額は18億ドル程度でした。
この状況を見れば、韓国は国家予算の3年分のドルを手に入れたのです。
日本の外貨準備高18億ドル程度で、その6割も支払うことがどれだけ大変であったか。韓国も分るはずです。
しかも、日本が韓国に残した資産は、51億ドル強と試算されていましたが、すべて放棄したのです。
日本が韓国に対して、「謝罪の誠意がない」という批判は、余りにも一方的と言えるでしょう。
あるいは、言葉の上で幾重にも謝罪し金銭の支払いを拒む。どちらが本当の「誠意がある」と言えるのでしょうか。
この問題について、前記の韓国の国民大日本学科の李元徳教授は、次のように指摘しています。
「(当時の韓国は)経済的に国民所得100ドルにもならない最貧国であった上、南北関係でも劣勢だった。
韓国の立場としては、対日外交を突破口として経済と安全保障問題を解決するために、外交的選択をしたわけだ。
(日韓)協定が対日過去清算という問題を完璧に解決することが出来なかったということは、誰もが知っている。
そうするしかない状況だった。
判決を下した大法官(最高裁判事)らが当時の交渉に当たったとしても、それ以上の結果を導くことはできなかったはずだ」
実態は徴用工でなく「募集」への応募
韓国では、「強制徴用工」という言葉を使って、日本が無理矢理、朝鮮半島から日本本土へ連行してきたというイメージですが、今回の韓国大法院での原告は「強制徴用工」でなかったのです。
自由意志に基づく「募集」でした。
安倍首相が国会で、このように答弁しています。
「11月1日、衆議院予算委員会に出席した安倍首相は先に「政府としては『徴用工』という表現でない、
『旧朝鮮半島出身労働者問題』と言っている」と強調した。
また「これは当時、国家総動員法上、国家動員令には『募集』と『官斡旋』『徴用』があったが、
実際、今回の裁判の原告は(徴用でなく)全部『募集』に応じたため、『朝鮮半島出身労働者問題』と言いたい」と説明した」(『中央日報』11月1日付)。
日本の国家総動員法(1938~45)は、日中戦争に端を発して人員や資源の一元的な運用を図るために施行されました。
人的面では、募集・官斡旋・徴用の三種があったのです。
今回の原告は自由意志の「募集」です。朝鮮半島では、日本で働く「募集」は、厚遇であるので大変高い競争率であったという記録があります。
韓国では、「食事も十分に与えられず地獄であった」と言っています。
だが,当時の朝鮮半島は日本領であり、同じ「日本人」であったのです。
日本人が、日本人を虐待したのでしょうか。にわかに信じがたい話です。
「募集」で賠償を求めるのも不思議な話です。韓国大法院は、こうした事実関係を調べずに原告の訴えをすべて認めたのです。
一大汚点を残した判決と言えます。
韓国司法は時の大統領に迎合する傾向
韓国の司法は、時の政権の影響を受けやすいと言われています。
検察も裁判所も行政から独立せず、迎合した動きをするのです。
一昨年から始った朴槿惠・前大統領の弾劾捜査は、それが明らかでした。
検察は、朴氏を最初から被疑者扱いで捜査しました。
また、現在の文在寅政権になって、その政権迎合性は一層、激しくなっています。
保守党は、朴失脚でミソをつけたので、政権から長期に遠ざかったという思惑も手伝い、革新政権へ媚びを売っています。
与党「共に民主党」のインターネットによる世論操作事件では、告発を受けてから2ヶ月ほど捜査に着手せず放置。
その間、被疑者の証拠隠滅を許したと韓国メディアは批判しました。
今回の韓国大法院の判決には、文大統領の発言が影響を与えたと思います。
韓国の文在寅大統領は昨年8月、韓国人徴用工の個人請求権が日韓請求権協定でも消えていないとの認識を示しました。
現職大統領が、係争中の問題である徴用工問題に言及したことは、司法への「政治不介入」という原則を逸脱したものです。
文氏が一員であった盧武鉉政権(2003~08)では、日韓請求権協定に徴用工問題が含まれているとの政府見解を発表しました。文氏はこの見解とりまとめにかかわったのです。
「親中朝・反日米」を旗印の「86世代」
こういう経緯を考えると、文大統領の前記発言は、盧政権の方針を否定するものであったのです。
文氏は、なぜここまで変わったのか。
それは、文政権が「86世代」と言われる「親中朝・反日米」という政治思潮に染まった集団の後押しを受けているからです。
「86世代」とは、1960年代生まれ・1980年代に学生生活を送り、光州事件(1980年)で火焔瓶闘争をした学生運動家の集団です。
彼らは、北朝鮮の金日成思想に深く傾倒していたので、北朝鮮は聖地と言っても良いでしょう。
現在、韓国政府が南北交流に大変な熱意を込め、米国から「先走り」という警戒を呼んでいるほどです。
文大統領は10月に欧州を歴訪しましたが、「北朝鮮への制裁緩和」を訴え続けて、各国から拒否されました。
ここまで、米国と異なり「制裁緩和」に傾斜するのは、韓国大統領府が「86世代」に占められた結果でしょう。
この「86世代」は、司法関係にもネットワークを広げているのです。
日本の徴用工裁判は、彼らが長年抱いてきた日韓併合と日韓基本条約に共通する「日本帝国主義」の悪を叩く。
まさに念願の判決であったと思われます。
だから、「強制徴用工」が「強制」か「志望」であったのか調べる必要はなかった。
ただ、日本という存在を叩けば、それで目的を達成したのです。
大法院で判決に反対した2人の裁判官
問題は、これで終わったのではありません。
日本の最高裁判所は、すでに韓国からの個人賠償責任に関わる提訴を却下しています。
日韓基本条約の「無償3億ドル」に含まれているのが理由です。
となると、韓国大法院で勝訴した韓国の元徴用工(日本政府は今後、「半島出身労働者」と呼ぶ)と、その子孫は、韓国で日本企業の資産差し押さえをしなければなりません。
気の遠くなるような作業です。
韓国の徴用工は、14万7000人余もいるといわれます。
日本政府は、日本企業に請求に応じて支払わないように説得しています。韓国政府が、日韓基本協定で得た3億ドルから支払うべきだという立場です。
実は、韓国大法院の裁判官13人中、2人の裁判官は次の理由によって今回の判決に反対しました。
「請求権協定が憲法や国際法に違反しており、無効だと見るのではければ、その内容の良し悪しに関係なく、文言と内容に応じて守らなければならない」
「国は、請求権協定により個人の請求権を行使できなくなって被害を受けた国民に対し、公正な補償をしなければならない」(『朝鮮日報』10月31日付)と述べました。
韓国大法院は、韓国の外交政策へ干渉できないはずです。
外交は政府の権限です。
前記の2人の裁判官が指摘するように、「(日韓)請求権協定が憲法や国際法に違反しており、無効だと見るのではければ」大法院といえども介入すべきでないのです。
韓国外交は、今回の大法院判決によって信頼を大きく傷つけました。
韓国と結んだ条約や協定が、韓国大法院から否定されれば無効とされかねない信頼感の欠如です。
韓国政府が、日本に迷惑を及ぼさないためには、自国の責任で処理することでしょう。