北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ミサイル防衛に新型の“イージス・システム搭載艦”,岸防衛大臣が自民党国防関連会合で提案

2020-12-09 20:00:38 | 防衛・安全保障
■まや型イージス艦ではなく新型
 政府はミサイル防衛に中止となったイージスアショア陸上配備ミサイル防衛システムに代わる新型艦建造を進めるもようです。

 “イージス・システム搭載艦”とは。岸防衛大臣は12月9日の自民党国防関連会合においてミサイル防衛に当る新型艦をイージス艦とは表現せずイージス・システム搭載艦としました。この新型艦は、現在建造が進む最新型のイージス艦まや型とは異なった新型艦となる事を示しており、これがミサイル防衛計画全般への不確定要素を突き付ける様おもう。

 まや型増備を行うべき、最適解はこの点です。SPY-1レーダーの後継にSPY-6が配備され、同じSPY-1を搭載するアメリカのアーレイバーク級も後期型が小規模な設計変更でSPY-6レーダーへ対応しています。勿論安い費用ではありませんが、まや型設計図は既に存在するのですから、新規に設計するよりも遥かに安価です、設計費という現実を視るべきです。

 イージスアショア。もともとは山口県と秋田県に配置し日本全土を弾道ミサイルの悪夢から防衛するものでした、北朝鮮が弾道ミサイルへの核弾頭搭載を進めている以上、日本は、核兵器なんて怖くないし広島長崎どんと来い、という姿勢を国民全体が示せない限り悪夢が続く事となり、その為に弾道ミサイル防衛システムを1999年より開発してきました。

 山口秋田へのイージスアショア配置が決定し、事項要求として事実上の予算青天助の政治決定とされたのは今年度予算でしたが、問題が発生します、弾道ミサイルを迎撃するスタンダードSM-3のブースター、上昇中に切り離すブースターが基地敷地外に落下する問題を解決できず、イージスアショア配備計画が白紙撤回されてしまったのですね。その代替だ。

 ブースター問題ですが、自衛隊は過去にあったものの丁寧な説明により克服しています、それは現在の航空自衛隊が運用する戦域防空ミサイルペトリオットの前型であるナイキ地対空ミサイルで、ナイキミサイルは固定陣地からの運用とブースター切り離し方式を採用していました。危険性はゼロでないが核の脅威は更に大きく、地元を説得すべきでした。

 ブースター問題での陸上配備型弾道ミサイル防衛システムの代替案として、今回のイージス・システム搭載艦が提示されたのですが、問題があります、陸上配備イージスシステムにはSPY-7レーダーという海上自衛隊がこれまでに導入したイージスシステムとは全く別系統のシステムが採用されており、簡単に陸上からフネへ載せ替える訳には参りません。

 SPY-7レーダーはアメリカがアラスカ州などに配備するべく陸上配備用に開発されたもの、高性能ではありますが弾道ミサイル防衛に特化しており、海軍のSPY-1,その後継となる最新型SPY-6のように巡航ミサイルや対艦ミサイルによりイージス艦そのものを攻撃する脅威への対処は想定していません、なにしろアラスカに配備するものだから必要ないのです。

 イージス・システム搭載艦は現在のところ、SPY-7レーダー搭載を念頭に考慮されているようですが、陸上用に開発されたSPY-7が海上に配備した場合に振動の影響、日本海の波浪が十年二十年運用する場合にどのような影響を及ぼすかは未知数ですし、潮風は精密機器を消耗させ、アラスカに配備するSPY-7は艦艇用SPY-6とは根本から違う不確定要素が。

 SPY-7レーダーになぜ拘るのでしょうか、理由は簡単で既に発注している為です。発注したものをキャンセルして全額戻ってくると考えてはなりません、一例を示しますとNATOではユーロファイター戦闘機やユーロコプタータイガー戦闘ヘリコプターが配備計画下方修正となった際に、契約分の50%から65%は違約金として発生しています、これが普通だ。

 しかし、SPY-7に拘る事で必要な再設計を行った場合の費用の方が大きくなる可能性を無視してはなりません、一旦陸上に建設した上でシステムを第三国に輸出する選択肢とするか、ミサイル発射装置のみをブースター問題のない地域、海沿いの京都の経ヶ岬分屯基地や、ナイキ時代にブースター問題を受容した青森の車力分屯基地に配備する選択肢もある。

 まや型であればミサイル防衛にそのまま対応する事が出来るのですが、SPY-7をそのまま運用するのであれば、イージス・システム搭載艦は、護衛艦そのものが対艦ミサイルにより攻撃された場合から防護する、例えばOPS-50のようなレーダーシステムとESSM短射程ミサイルを搭載せねばなりません、北朝鮮は潜水艦を増強中であり、この脅威もある。

 まや型ならば、巡航ミサイルが百発単位で接近した場合でも対処できますし、飛行聯隊規模航空攻撃にも対抗し得ます。そもそもSPY-7を搭載の場合はもともと陸上配備する場合とは通信ネットワークの様式が違い、海軍データリンクNIFC-CAとの連接性も、日本が独自で開発しなければなりません、そこまで日本の財政状況が良いようには思えないのです。

 イージス艦増強、勿論問題皆無という訳ではありません、イージスアショアは海上自衛隊の人員不足と護衛艦不足に対し、陸上自衛隊をミサイル防衛に充てて、その分だけイージス艦を本来の艦隊防空任務に戻すという目的がありました。イージス艦は洋上に居続けるには限度があり、数年に一度は造船所に入渠し大規模整備を行う必要があり、どうするか。

 まや型増強をイージスアショア予定数の2基に対応した2隻とするのではなく、3隻から4隻とし、ミサイル防衛専従の護衛隊を自衛艦隊直轄に置く、そして複数クルー制を採用し、極力洋上での作戦期間を長くする選択肢が考えられます。その為には人員を増員するほかありません。すると実は陸上型と周辺住民丁寧説得の方が、防衛費は抑えられるようにも。

 SPY-7を搭載する護衛艦に固執するならば、既存艦の設計を応用できる新型艦として、ひゅうが型護衛艦の様なものが考えられるのかもしれません。アメリカ海軍の指揮艦ブルーリッジがイオージマ級強襲揚陸艦設計を応用したように、SPY-7の大きな重量でも満載排水量19000tの護衛艦ならば対応でき、飛行甲板中央部にSPY-7を置けば、良いのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント (9)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 12.8真珠湾攻撃記念日,“... | トップ | 【京都発幕間旅情】彦根城(滋... »
最新の画像もっと見る

9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
タイコンテロガ型巡洋艦 (ドナルド)
2020-12-09 21:32:24

清谷さんのコメントを見ていると
・陸上イージスは電波法の改正が必要だが、それを実施すれば良いだけ
・演習場ではなく空自レーダーサイトを使えばよいはず
とおっしゃっています。

いろいろ是々非々はあるとしても、この件については合理的なご意見と思います。例えば秋田県の男鹿半島と、山口県の見島で良いのではないでしょうか?

さらにいえば、対中国を考えるから防御がものすごく大変になり、ぶっちゃけ防衛は望むべくもない(物量には勝てない。巡航ミサイル100発とか簡単ですから)。資源の無駄遣いかと。

対北朝鮮に限るなら、SPY1でも良いのではないのでしょうか?むしろ、VLSのセル数を増やした方が良いのでは?

それこそ、アメリカで退役となるタイコンテロガ型巡洋艦を1隻ゲットし、SPY1をアップデートして、1箇所に2面ずつおけば、2箇所に設置完了です。北朝鮮相手の場合には、巡航ミサイルは考える必要がないので、正面だけ見ていれば良いですし。。。
返信する
SPY7? (ドナルド)
2020-12-09 21:46:16

SPY7はやめるべきです。発生する追加経費は、違約金のそれを大きく超えるでしょう。本来なら試験費用を日本が出す場合には、SPY7に関する利権を得るのが筋です。例えば製造を日本で行う、日本に技術アクセスを許可する、日本が買う時には格安にするなど。でもこうした交渉が防衛省は苦手なのですよね。。。

であれば、割り切って、陸上用に1セット買えば良い。イージス艦とは別にすれば良いのです。それこそ、空自のレーダーサイトを一つ置き換えれば良いと思います。

#電波が強すぎて電波法の改正が必要かもしれませんが、こうした地道な法改正をしっかりやる方が、9条云々よりもよほど大事だと、私も思います。9条を変えてもどうせ細かな法改正は欠かせないのですから。

つまり、SPY7とイージス艦を切り離せばよいかと。空自の管轄下にSPY7が1-2セットあっても、海自がSPY6を採用することに何の問題もない。現在の空自のレーダーサイトと、海自のFCS3が同じレーダーではないのと同じですから。

「とりあえず」、見島や男鹿半島のレーダーサイトに設置しておけば良いのでは?
返信する
Unknown (ミナミ)
2020-12-10 02:34:45
ドナルドさんも、男鹿・見島と書いておられるが、SPY-7を活用したいなら、何故もう一度離島か、街から離れた地を検討しないんでしょうね?
ちなみに兵動二十八氏は「見島と奥尻で、何の不都合があったんだ?」というブログエントリーを6月に残しています。

そしてSPY-6でのイージス艦増勢もそのままで。焼け太り?知りません。文句は中共の大軍拡に言って下さい。

今年、日本政府はコロナ事態で60兆円の臨時支出を余裕で出し、更に30兆円程度出すと言われています。
それでも国債金利は微動だにしませんでしたし、インフレ率はむしろ下がって、デフレ再突入に向かっています。

つまり財務省及び、その代弁者達の財政破綻論や、ハイパーインフレがどうこうというのは、全くの嘘、増税の為のプロパガンダだと決定的になったと思います。
国家財政と家計は全く別の次元の話なのです。

防衛費を例えば1兆円上げても、国家財政に何の問題も出ず、むしろ総需要が増えて、国民経済に有益だと思います。
理想としてはGDP比1.5%、8兆円ぐらいになって欲しいですが。そうなっても国家財政に何の不都合も生じないでしょう
返信する
Unknown (軍事オタク)
2020-12-10 11:45:00
前までの案にSM-6運用能力を追加した陸上案でを押し切るのがいいのだが、無理なら
秋田は空自の男鹿基地、山口は見島良いと思う。
秋田は男鹿、山口は安倍さんに話付けて貰えばいいのにな。弱いな政治家は。
返信する
Unknown (成層圏)
2020-12-10 18:07:05
イージスシステム搭載護衛艦はまや型を少し大きく(長く)したイージス艦になると思います。
システムはSPY-7のままです。これはカナダ等のイージス艦で使用が決定されていますし、SPY-1の直系なので、何も問題ないと思います。アメリカはイージス艦はBMDが主目的で無いため、SPY-6を採用予定です。
また、数年ですが、SPY-7の方がリリースが速いため、日本で現時点で導入するには適していると思います。時間が無いため。
 装備は、まや型とほぼ同じで、VLSを少し多めで、なおかつ巡航ミサイルも搭載すると思います。
 また、設計はまや型の改修で、一部30FFMで使った省力化の成果(何かは不明CICかな?)、を利用するでしょう。また、長期洋上警戒をするため、居住空間を大きくし、人員不足に女性を多く活用するため、快適装備を追加するのではないでしょうか?
 いずれにせよ、ちょっと変わった形ではありますが、イージス艦が増えることは我が国の安全保障上、とてもいい事だと思います。
 イージスシステム搭載護衛艦という名前は、防衛計画にない船を増やすための方便で、イージスアショア代替品だよっていう、言い訳(大人の対応)だと思います。
 速やかに造船されるといいですね。ドックは足りるのでしょうか?
返信する
SPY7 (ドナルド)
2020-12-10 22:38:39

成層圏さま。

カナダのSPY7採用も大論争があり、つい先日(確か先週)採用が決まりました。試験やインテグレーションコストが見通しが難しいことが最大の論点であり、日本が採用するから、というのが言い訳の一つです。

#お互いにお互いに押し付けている状況。。。(笑)

もちろんうまくいく可能性はあるのでしょうが、わざわざアメリカ海軍と異なるレーダーを採用する理由は非常に薄いと思います。

カナダのSPY7は、Type26 フリゲートに搭載されるものですが、パネルが非常に小さく、いわゆるイージス艦のレーダーとは異なります。SPY1A/B/CとSPY1F (ノルウェー海軍が採用)くらいの違いがあります。また、「イージスシステム」を確かに採用はしているのですが、それは最近開発された「対空戦闘システムとしてのイージスシステム」で、カナダ製のCMS330の下部組織として組み込まれるものです。あれをイージス艦と呼ぶのは、あきづき形を「イージス艦と同等」と呼ぶのと大差ありません。(もちろん違います)

つまりカナダがSPY7を使っているからと言って、海自が使う時に必要なBMD探知機能などは大幅に異なるため、結局、海自の今回の2隻(?)のイージス艦専用レーダーになるわけです。将来にわたって機能向上を続けるわけですが、その全てを日本が支払うことにならないでしょうか?

やればできますが、その艦齢の35年程度の間に、SPY7であるゆえの追加コストが、イージス艦丸々1隻分くらいになっても全く驚きません。米海軍はSPY6搭載艦を大量に建造するので、開発費が隻数割りでずいぶん楽になるのですが。。。

これが懸念の理由です。
返信する
ドナルド様 (成層圏)
2020-12-11 19:11:23
 ドナルド様をはじめ皆様のご懸念は、真摯に国防について憂慮であり、市井の皆様の安全のためであると感じております。このような気持ちは国にとっての宝であると思いますので、大切にしていきたいですね。

 私はこのイージスアショア代替案は80点くらいに評価しております。詳細は、海自の負担軽減と24時間常時監視ができないので50点減点ですが、固定施設ゆえの脆弱性解消と南西諸島防衛に使える1万トンクラスの護衛艦追加で加点30点です。
 
 私の理想だと、SPY7のアショアを秋田・山口に配備して、なおかつ南西諸島防衛用にイージス艦3隻、いずも改2隻、多用途運用護衛艦打撃群用の高速補給艦2万トン級4隻、水陸起動団用の揚陸艦、あと潜水艦8隻の追加、しめて2兆円くらいですが、度胸のある政治家いないですね。

 さて、このイージスアショアの件ですが、普通の防衛装備品だと、失敗の対応だと思うのですが、この案件は、日本国内とアメリカ国内の政治案件、日本の国内問題(配備地の件)が複雑に絡んだ問題です。
 国内では、ミサイル防衛自体に反対が出てましたし、配備地では危険性を訴える住民や「市民の目」などの反対があり、(どこ在住かは知りませんが)、アメリカでは、ミサイル防衛局?(名前は失念しました)がSPY6は輸出しない(米海軍はSPY6押し)、などなど問題が多かったところを、北朝鮮ミサイルの危険性を活用して、より危険な南西諸島防衛「にも」使用が可能な装備へと上手に変更しました。また、アショア代替に関しては、防衛費と別会計的に費用が膨らんでもいけそうなところがVeryGood!(防衛費の有効活用の視点ではだめですが、防衛費を引っ張り出す、とう観点では優れもの。)

 費用は確かに高くなるかもしれませんが(ロッキードは改修なしで艦艇に搭載できる、と言い切ってます。あまり信用できませんが。)1万トン級のイージス艦っぽい船を2隻追加できるチャンスはそうそう無いです。
 今から建造しても船体だけでも2年以上はかかります。その間に状況も変わっているかもしれません。建造後にアショア配備OKの自治体が出れば、そちらにSPY7を移設して、SPY6に載せ替えてもいいですし。
そもそも、SPY6が日本に輸出可能かはまだ分かりません。F2の時みたいにやりたい放題される可能性もあります。
 やはり、自国でイージスシステム同等品を作れるように長期的計画が必要ですね。

 あと、SPY7が海自では使いにくい件ですが、イージスシステム搭載護衛艦はあくまでBMD用ですので、実際に護衛艦隊と一緒に行動するときは、あくまでサポートのイメージでいいのではないでしょうか。存在自体が重要な抑止力。
 大西洋でアメリカのイージス艦(SPY6)がカナダのフリゲート艦(SPY7)と共同で作戦行動をとるようなイメージでしょうか。
返信する
Unknown (ねこまんま)
2020-12-12 08:23:19
イージス搭載艦と言う事はDDGで無くても良いのですね。
イージス搭載ドック型輸送艦とか?どうですか?
大きなSPY-7も搭載しやすいし、ドック型なら災害時に指揮基地や病院として利用もできます。
返信する
ひゅうが型やドック型揚陸艦適用 (Discotheque)
2020-12-13 05:45:00
プラットフォームとしてひゅうが型やドック型揚陸艦適用となるとかつてアメリカ海軍が検討したアーセナルシップみたいなフネになりますね。これを護衛するためにさらに護衛艦が割かれて鑑定不足にならないと良いですが。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

防衛・安全保障」カテゴリの最新記事