北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【榛名備防録】ドイツ海軍最大の作戦-デーニッツ提督の決断,難民202万人を救出せよ!

2021-10-09 14:11:29 | 国際・政治
■難民202万人を救出せよ
 アフガニスタンでの自衛隊邦人輸送失敗とアメリカの撤退と難民放置という寂しい話題が残るこの頃ですが、世界には凄い指揮官もいた。

 第二次大戦中にドイツ海軍が行った軍事作戦で最も成功した作戦とは何か、こう問われますと、ライン演習作戦やチャンネルダッシュ作戦など華々しい作戦を思い浮かべるのかもしれませんが、日本で戦後教育を受けた身としては難民救出作戦を思い浮かべます、救助した人命は202万2602名、救助した人数が桁外れというものですから、考えれば凄い。

 東部戦線崩壊、ドイツ軍は緒戦にソ連へ侵攻しモスクワ近郊まで進撃を続けましたが、政治上の要求からカフカス地方の油田地帯に攻撃を変更した事でソ連軍に戦力再編の機会を与え、1943年初頭よりソ連軍は反撃に転じます、一方、ソ連軍の軍律は高い水準とは言えず、略奪暴行放火殺戮を東プロイセン地方で大規模に実施した為、大量の難民が発生する。

 ダンツィヒやグダニスクとバルト海沿岸の港から、ソ連軍の侵攻からせめて米英軍占領地へ退避しようとした難民は数百万に上り、ドイツ海軍は避難民輸送を開始します。当時のアドルフヒトラー政権において海軍総司令官に在ったデーニッツ提督が難民輸送命令を発動したのは1945年1月23日、ドイツ海軍は艦隊温存主義により多数が残存していました。

 ビスマルク喪失、ドイツ海軍は1941年に実施した通商破壊作戦において最新鋭戦艦ビスマルクが初の作戦航海によりイギリスの巡洋戦艦フッドを轟沈させたものの、地中海を含む広大な海域から集められたイギリス海軍戦艦部隊の猛攻を受け撃沈された事を受け、ヒトラーは海軍戦艦部隊に失望、燃料を無駄に使うだけであるとして艦隊温存に徹しています。

 デーニッツ提督はドイツ海軍潜水艦部隊司令官からヒトラーに潜水艦部隊の威力を評価され海軍総司令官を命じられた提督で、ヒトラーは残存したプリンツオイゲンやテルピッツなどの解体と資材の潜水艦への転用を強く希望しますが、後に必ず使う時が来るとして、デーニッツ提督は艦隊温存主義を主張、これは幸い、受け入れられることとなりました。

 ロベルトレイなど、ドイツには当時2万tを超える大型客船6隻などが徴用客船として維持され、これらは潜水艦部隊であるUボート乗員の宿泊艦として用いられていました、デーニッツ提督は先ず、徴用大型客船13隻や大型貨物船25隻を動員し、しかし任務海域にはソ連潜水艦の脅威が在る事から残存水上戦闘艦を最大限護衛に加え難民輸送を開始した。

 ヴィルヘルムグストロフ号撃沈、撤退作戦の最中にはソ連潜水艦攻撃により撃沈され乗員乗客1万0582名の内実に9343名の死者を出した大型客船ヴィルヘルムグストロフ号撃沈の悲劇などがありますが、それでも202万2602名もの人命を虐殺略奪の脅威から救い出したデーニッツ提督の撤退作戦は評価されるべきです、そしていよいよベルリンが陥落する。

 ベルリン地下壕での4月30日ヒトラー自決と共にデーニッツ提督は第二代総統に指名されドイツ全権を担う事となります、しかし降伏しては難民輸送が不能となる、そこで提督は5月1日に当初予定した降伏を、イギリスへのみ5月5日に降伏し、ソ連への降伏を数日間延期しました、何故なら5月1日時点、まだ難民が港に15万名残っていた為、できない。

 ドイツは5月8日、連合国に対し全面降伏を行います。それは最後の難民船団が出航した直後の事でした。世界には輸送機にしがみついた難民を振り落して撤退し逃げ遅れた難民を無視する自称超大国の大統領が2020年代に入っても撤退成功を自画自賛していますが、あの救いようのない末期戦のドイツで、最後まで難民救助に戦った提督が、居たのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 令和三年度十月期 陸海空自... | トップ | 【7D特報】ファントムの居た... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

国際・政治」カテゴリの最新記事