北大路機関

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新しい88艦隊と反撃能力整備【4】モスクワへの道-ロシアウクライナ戦争示した権威国家和戦論形成と反撃能力

2023-08-17 20:14:13 | 北大路機関特別企画
■自衛隊大西洋方面作戦
 十年前、いや五年前、いやいや2022年1月までの段階ならばここまで防衛力というものを踏み込んで議論する事は、少なくとも北大路機関では無かっただろうなあと思う視点です。

 ロシアウクライナ戦争のウクライナ軍奮戦とともに、自衛隊の反撃能力というものを考えますと、果たして日本がロシアからの攻撃を受けた際、専守防衛の延長線上程度のささやかな反撃能力を行使した場合で、モスクワの意志を一転させる事は可能なのか、という厳しい現実です。ウクライナはこの現実を受け入れ、モスクワへ無人機で反撃している。

 反撃能力、これは超えるのが難しい一線でありながら相手国が国民世論により和戦を決する民主主義国家ではなく、権威主義国家である場合には相手に耐えがたい結果を突き付ける事が専守防衛の枠内では限界がある事も事実であり、それでもなお専守防衛を貫くには、平和の為に痛みを共有する日本国民としての覚悟の共有が必要、いや、避けては通れない。

 ロシアウクライナ戦争では民間調査機関オリックスの検証によりロシア軍死傷者は既に25万の大台に乗っている、太平洋戦争における日本の死者数と比べれば六分の一、いや死傷者では確かに更に低い水準かもしれませんが、東日本大震災の死者行方不明者に負傷者を加えると2万4582名となっていますから、東日本大震災の十倍と云えば見方はかわります。

 大量の死傷者にロシア世論が耐える背景には、ロシア国内において多民族国家でもあるロシアの政権に影響を与える層以外の中央アジア地域での徴兵を強化した場合、それがどれだけ死傷者となろうとも、こうした層の人々を管理する側としては相手が反旗を翻す人数が減るだけであり、耐えうる、という分析さえあります。これは、考えさせられるものだ。

 モスクワやサンクトペテルブルクが攻撃されて初めてその意味を、つまり政権支持層の居留地が攻撃されなければ通じないとウクライナは理解するからこそ、ウクライナ周辺地域への攻撃よりも首都モスクワへの無人機攻撃を行っている、それは成果こそ限られているもののロシア側には確かに影響が及んでいる、この事実は日本として無視できる物か、と。

 新しい88艦隊は、こうした状況に置ける一つの選択肢となります。それは大西洋地域にヘリコプター搭載護衛艦を展開させ、F-35Bからのスタンドオフミサイルによる中枢攻撃の可能性を示唆することです。簡単ではありませんが理論上不可能ではない、もしくはF-35Bの支援下で汎用護衛艦からトマホークミサイルを運用する選択肢も検討余地はあります。

 モスクワを実際に叩くのではなく、モスクワの国家最高指導部が東京を叩くならば、日本も選択肢を持つ、という視点を相手に突き付けるが重要です。もちろん、バレンツ海の沿岸からバックファイア超音速爆撃機が妨害に飛行する可能性はありますが、F-35B戦闘機ならばバックファイアを迎撃可能です。そしてステルス性能は相手に不確定要素を与える。

 平和の為にこういうことをするのではなく国民として痛みを共有しよう、ということで、例えば年間に数千や一万数千の無人機攻撃被害を受け入れる覚悟があるならば、良いのです。しかし、憲法の方が自分の家族や財産よりも大事だ、という国民世論は、最早カルト宗教の域であり、こんなものを押し付けるようでは支持があっても国家ではありません。

 降伏した方が良い、という議論、これは8月15日にもう少し踏み込んで議論すべきだったのでしょうが、それは昭和20年の終戦が、結果として国際公序に立脚したかたちで行われた為であり、ロシア軍のブチャでの虐殺やクリミアとドンバスでの同化政策を見るならば、虐殺かロシア人としての戦争協力を求められるだけで、これが果たして平和なのか、と。

 新しい88艦隊、4個護衛隊群の内半分を大西洋方面へ展開し、必要な物資は同盟国から補給を受け、長期的に展開する。可能性として橋本内閣時代の日米新ガイドラインを応用するならば、F-35B戦闘機の補充やスタンドオフミサイルの補充をアメリカ東海岸で受ける事が可能ですし、交代要員を日本本土からC-2輸送機と艦までV-22輸送機で派遣可能だ。

 大西洋にヘリコプター搭載護衛艦を二個護衛隊群派遣したとしてロシアから見れば空母4隻、ロシアに戦争遂行を断念させるほどの威力は無い、と反論があるのかもしれません。しかしすると他に選択肢はあるのか、となる。外交で解決を、という反論は逆に外交の成功が有るからこそ、アメリカと同盟を結びNATOとも良好な関係がある、といえます。

 プレゼンスオペレーションの話に戻りますが、こうした不確定要素を与えるためには、ヘリコプター搭載護衛艦の定期的な大西洋展開が必要となります。もちろん名目としては親善訓練でもよい、ニジェールやスーダンにアフガニスタンと近年、在外邦人保護や邦人救出の任務が増大しており、その為の親善訓練や信頼醸成と併せて行えば友好国を増やせる。

 クイーンエリザベスの横須賀親善訪問、東京五輪の頃には海事関連で注目されたイギリス海軍空母打撃群の日本訪問ですが、あれは2021年の話でした。しかし、中国にはイギリスは極東地域に一定の打撃部隊を展開させうるということを示したことは重要でした、2021年に行った一回の展開が2023年にもプレゼンスを行使したわけだ。プレゼンスの重要性だ。

 カヴール日本展開、イタリア海軍は空母カヴールを2023年末か2024年の早い時期に日本へ展開させるという。カヴールとクイーンエリザベスはNATO合同空母打撃群として地中海で訓練を何度も実施し、特にロシアウクライナ戦争開戦前後から今日に至るまで、継続的に実施していますが、極東展開、オンザブーツという、これを行うインパクトは大きい。

 シャルルドゴールあたりもいつか来日してほしいところですが、クイーンエリザベス、シャルルドゴール、カヴール、トリエステ、ファンカルロス一世、まもなくここにイギリスのプリンスオブウェールズが加わる、これで6隻となり、この態勢まで揃えますと、極東展開が隔年であっても可能となる。視点を逆にしてみると8隻の重さが見えてくるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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3 コメント

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Unknown (成層圏)
2023-08-19 10:52:53
はるな様
新しい88艦隊構想、いいお考えだと思います。
日本の空母は、瀬戸内海航行すること、修理ドッグが多いこと、接岸場所が多いこと、を考慮すると2万トンいずもクラスの軽空母を複数隻保有するのが合理的だと思います。ローテーションを考えれば4隻は厳しいかもしれませんが、3隻くらいなら本土防衛しながらも欧州に同時派遣できるかもしれませんね。
 私は欧州の大型空母1隻体制より小型空母多数隻の方が作戦の自由度や安全性が高く適していると思います。また、掃海母艦とおおすみ型の代替艦も2万トンクラスの全通甲板型強襲揚陸艇を5隻代替して欲しいです。5隻なら北方にも展開できますし、追加分の軽空母と極力共通設計にすれば、設計費や部品の融通も利いてコスパがいいと思います。
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Unknown (成層圏)
2023-08-19 12:23:04
はるな様
勝手に新88艦隊への工程を考えてみました。
1.護衛艦隊群の標準化
 まず、早期に改いずも型(F35B対応型)2隻を建造します。その時にもがみ型の省力化を一部取り入れ、ひゅうが型と同程度の人数(360人程度?)まで省力化してひゅうが型と置き換えます。また、英マーリン2・クラウズネストを6機導入し、本格軽空母の誕生です。搭載機はF35B4~6機、早期警戒ヘリ3機、対潜哨戒ヘリ3機程度でしょうか。
 押し出したひゅうが型は以前はるな様がおっしゃっていたように掃海艦部隊に配属し船籍を陸自に一時的に移管します。そして、ひゅうが型には絶滅危惧の戦闘ヘリや輸送ヘリと少しの対潜哨戒ヘリを搭載し、おおすみ型とセットで陸自部隊の島嶼上陸作戦を行えるようにします。移籍したひゅうが型は(実際は海自運営ですが)海自OBと陸自からの派遣人員で運用できればと考えます。いずれ陸自の輸送艦がそろい、おおすみ×3、うらが×2、ひゅうが×2を強襲揚陸艦×5にしたとき、船籍を戻せばいいのではないでしょうか。
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Unknown (成層圏)
2023-08-19 12:47:09
新88艦隊への工程その2
2.空母8隻へのつなぎ
 空母4隻の増加には人員や予算が掛かるため、つなぎとしてもがみ型の後部甲板を30mくらい延長した艦(+1,000トン)を4隻導入します。むらさめ型と入れ替えで人員はほぼ同じ、SH60K3機または無人ヘリ3機とUAV、USV×3、UUV×3などを搭載します。この1隻500億程度の船は対潜哨戒中心の役割をします。昔のはるな型のような形で不足のヘリは各護衛艦に割り振ります。また、艦隊の露払いとしても使えるかもしれません。
 これにより、いずも型4隻はF35B専用艦として、8~10機程度搭載でき空母としての能力が倍増します。

3.空母8隻体制
 空母2隻の必要性が定着したら、いよいよ新いずも型4隻の増加です。省力化して1隻300名運用を目指します。地方隊の船を除籍し、先ほどのもがみ型改を地方隊に転籍します。地方隊では航空機能はあまりいらないので、航空甲板は貨物運搬用に転用し、航空人員は新いずも型に移籍できるでしょう。
 それでも足りない人員は各基地の合理化で集めます。海自と海保の共同基地化や海自・空自・陸自との共同基地化でバックオフィスや基地警備、航空整備員などを共通化し、人員を確保します。特に防弾チョッキ等装備充足率の少ない陸自には基地警備などをしてもらうのがいいと思います。
 新いずも型は2万トン級で主に対潜哨戒機とUAV、複合ヘリ、F35Bの僚判機などを受け持つと艦隊の対応能力が向上すると思います。
 
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